第38話 告白
エイチャンさん達と別れると、どっと疲れが来た。慣れない人と話した後はいつもこうなる。今回は話の内容が内容だった為、更に疲労感が増している気がした。
ヘリオスくん、大変だったんだな。
何も知らなかった。
私がぼうっとしているせいが大半だけど、何となく彼が私の耳に届かないようにしてくれていたのではと感じる。本当、してもらってばかりだ。
これからは私も、ヘリオスくんを助けられるように頑張りたいと思う。
(それにしても疲れた…)
今さっき紅茶を飲んできたけども、まだ喉が渇いている。気を張って喋っていたからだ。今度こそお一人様カフェテリアに行こうか、さっさと帰って体を休めるか。
(よし、帰ろう)
お家大好き、引きこもりオタク。多少迷っても帰宅の決断は迅速である。
「イチノさん!」
呼ばれて振り向くと、今度は久方ぶりのケントさんが現れた。通常であればそれなりに緊張するが、エイチャンさん達を思えば雲泥の差で安堵する。
「こんにちは。お久しぶりですね、ケントさん」
「はい、大分ご無沙汰してしまって。あの、大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「今、エンプレアード様達と一緒にいたのが見えたので。何となくその。ははは」
言葉を濁して笑うケントさんに、私は珍しく勘が働いた。元ロゼッタ嬢の取り巻きだった人達に、ヘリオスくんの婚約者となった私が絡まれているように見えたのだろう。彼女達が謝罪して回っていることは知らないようだ。
「大丈夫ですよ。二人とも真面目でとても良い人達だったので。ご心配くださってありがとうございます」
「そうなんですね。良かったです」
ほっと胸を撫で下ろすケントさん。相変わらず優しい。
「それ、凄く似合ってますね」
「え? あ、ありがとうございます」
一瞬何のことかと思ったが、彼の視線が私の手元にきていた為すぐに思い至る。
私の左手には、ヘリオスくん色のミサンガが巻いてあった。特に思い入れもなく作った千鳥格子柄は封印し、新たに心を込めて作り直した市松模様である。
アローシャマム・ダイヤモンドの指輪は、家で丁重に保管中だ。あれを普段使いする勇気はまだない。
お礼を言うと、ケントさんは真直ぐにこちらを見つめてくる。
「イチノさん。俺、イチノさんのことが好きだったんです。マックスウェル様には敵いませんでしたけど」
そう言って苦笑するケントさんに、私は身が固まるのを感じた。
「…………え、と…」
彼の眼差しは優しかったが、無意識に視線が下がる。
言葉が見つからない。
以前の私ならきっと、単なる友愛だと思い込んだだろうけど。
夏休み前、彼がお昼によく顔を見せたのは私に会いに来ていたのか。口下手なのを気遣ってではなく、私と話そうと思って話題を振ってくれていたのか。カススライゼちゃん(クルマ娘)との邂逅を邪魔してしまった時、私がヘリオスくんといたから寂しそうにしていた?
エイチャンさん達と色々話した直後だからか、今の私は結構察しがいいらしい。ただそれがコミュ力に繋がるかというと、そんなことはなかった。
何か、何か。
思考を巡らせても、何も出てこない。
「今更こんなこと言ってすみません。あの、気にしないでください。今はもうそういうの無いんで、良かったらまた、友人としてお付き合い頂けませんか」
「それは、はい。勿論です」
ぐるぐる考えているうちにケントさんが言葉を続けてくれ、私は漸く顔を上げて笑みを浮かべる。疎遠になってしまったかなと思っていたので、また話せるようになれたら嬉しいと思う。
「ありがとうございます。夏休み明けに色々あって声をかけそびれてたんですけど、また時々お昼ご一緒させてくださいね」
「ええ、是非。ライゼちゃ…シンシャ様も宜しければご一緒に」
「えっ! あ、はい。ありがとうございます」
ダンスパーティーで彼とカススライゼちゃん、もといメリー・シンシャ子爵令嬢が踊っていたことは、ネフェリンに聞いている。僅かに頬を染めるケントさんに確信を深めた私は、二人が上手くいきますようにと願った。
(ありがとう、ケントさん)
◇
後日。
「は、初めまして。メリー・シンシャと申します…」
慣れない面子を前に恐縮しまくりな美少女は、オドオドと挨拶した。
はあああ、可愛いなあクルマ娘!!!
悪役令嬢でも何でもない、身近なクルマ娘のライゼちゃん!
俄然、ミニバンに興味が出てきちゃうよね!
この世界に自動車なんてないけどね!
そんな風にテンションの上がった私がやたらとシンシャさんに話しかけるのを、皆が不思議そうな顔で眺めている。
いつの間にかランチメンバーは女子三人に、ヘリオスくん、オーノくん、ケントさんとシンシャさんが加わり、日によってランダムな人数となっていた。
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