第20話 オタク訪問
出しっ放しにしていたのは、出版社からの手紙だけではなかった。
それを元にしてキャラ構想を練っていたのだから当然だが、ユークレースの原石も机上に載っていたのである。あの美しさが目に留まらないはずもなく、ヘリオスくんには敢え無く宝石趣味も披露する運びとなった。
「かの大魔導師様のご子息に会えるなんて、僕は運がいいな」
「そう仰って頂けますと光栄です」
「ふふ。さ、かしこまるのはここまでにしよう。今日は友人を招待したのだから、ねえイチノ君?」
「は、はい。お招き頂きましてありがとうございます」
「寛いでくれると嬉しいよ。それじゃあ二人とも、どうぞこちらへ」
そして現在、私はヘリオスくんと一緒にカリスさんのお宅訪問をしている。
どうしてこうなった。
いやどうしてって、あのユークレースから話が広がっていってだけれども。
その中で、弟に付き添いを頼んでカリスさんのコレクションを見に行く予定だと話したら、ヘリオスくんが代わりに付き合うと申し出てくれたのだ。ヘリオスくんは宝石に興味なんてないだろうと一度は遠慮したのだが、ことのほかユークレースを気に入ったらしく結局お願いした。石に興味を持ったということであれば、私もヘリオスくんがいてくれるのは心強い。
ヒロイン周辺が平和だと確信できたこともあり、ヘリオスくんに対する乙女ゲーム的な疑念はすっかり消えていた。
そんな訳で案内された一室にて。
「これは僕のお気に入りなんだ」
そう言ってカリスさんが見せてくれたのは、特大のエメラルドだった。
「傷のないエメラルドは存在しない」が通説だったはずのそれは、見事な透明度の青みがかった美しい緑。前世ではついぞ肉眼で対面できなかったトッピン、要するに特級品である。
「こんなに大きいのに傷が全然ないですね…!」
「そうなんだよ。ここまでの物はなかなか無くてね」
「こんな綺麗な緑色は初めて見ました」
「少し青みがあるから一層、品格を感じるよね」
テレビや画像でしか見たことがない逸品に大興奮の私と、純粋に感嘆しているヘリオスくん。それぞれの反応に丁寧に返してくれるカリスさんは楽しそうだ。
その後もあれやこれやと様々な宝石や原石などを見せてもらい、お茶を頂きながら鉱物語りに花を咲かせる。屋敷に足を踏み入れた時の緊張はどこへやら、私はすっかりリラックスしてこの場を楽しんでいた。
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