第10話 悪役令嬢の姿


 ポカポカと気持ちの良い日差しの下。

 広い演習場には沢山の生徒が散らばっている。


 水属性のアサヒや火属性のネフェリンさんと別れ、私は風属性が集まるエリアの隅で先生の魔法解説を聞いていた。


 光属性は人数が少なすぎて、各自好きな属性に混ざることになっている。

 えぇ、マジか。…と思ったけど、この場に限れば光属性を持つのは、悪役令嬢を除く主役の三人のみだ。それも仕方ないだろう。幸い、誰も近くには来ていない。

 残る一人の悪役令嬢は火属性を持っている。燃え盛るジェラシーの炎のイメージなんだろうか、神様的に。


(集中しづらい…)


 大勢の人が集まる場所は苦手だ。人の動きが活発で落ち着かないし、悪い意味で視線を浴びてないか不安だし、気が休まらない。それに。


「殿下は本当に素敵ねえ」

「こっちには来ないのかなあ。あっ、こっち向いた!」

「はああ、かっこいい。私も二組になりたいわ」


 斜め後ろに立つご令嬢達が、ヒソヒソと絶賛女子トーク中なのである。そんな所で喋られると、先生のお叱りに巻き込まれる可能性大なんですが。勘弁してください。


 演習場に着くまでも着いてからも俯きがちで脇目をふらずにいた為、周囲がどういう状況かは聞こえてくる声からしか分からない。そういう意味ではご令嬢達のお喋りはありがたいけれど、居心地は最悪だ。


「では広がってください」


 そうこうしている内に先生の話が一段落し、実習に移るべく指示が出る。

 今日の放課後は図書室で復習だな…と溜息を吐きながら、私はすうっとご令嬢達から離れた。


(ん?)


 輪の端のほうにいたので、広がった際に隣りの属性グループの生徒が視界に入る。


「殿下よ!」

「もうちょっとそっち行こう」

「そうね」


 まだいたのか、ご令嬢達。

 いや、それどころじゃない。ヤバイぞ、殿下だ。


 私は思わず後ずさった。

 相変わらずキラキラと全身眩しい王子様の表情は穏やかで、柔らかい視線がそばに立つ一人のご令嬢に向けられている。ご令嬢のほうも、おっとりした雰囲気で殿下を見つめ返していた。何とも美しい、絵画のような二人である。


 …って、ちょっと待て。

 あ、あれはもしや……!


 殿下の隣りにいるご令嬢は、少し茶色っぽい金髪をボリュームのある長い三つ編みにしている。深い紫の瞳は慈愛に満ちており、背は高いが全く威圧的ではない。むしろ見ているだけで溢れる母性に癒されそうだ。そしてまごうことなき、絶世の美少女。


「エーレンシュタイン様はいつも殿下と一緒ね」

「そりゃあ婚約者だし。ほんとお美しいわ」


 だから何で私の近くに来るんだ、ご令嬢達。

 しかしご令嬢達のお陰で、殿下の隣りにいる美少女がニジマスの悪役令嬢、ローズマリー・エーレンシュタイン公爵令嬢だと分かる。

 そうと分かったなら、早くここから離脱しなければ。そう思うのに、私の視線はあろうことか、悪役令嬢に釘付けのままだった。


 だって。だってあの子の、あの姿は。



 前世で私が好きだったアニメ「クルマ娘~ビューティフルロード~」の、ニケエスタードちゃんにそっくりだったのである。


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