第7.5話 友人に癒される


 学園内のカフェに入り、アサヒと二人で温かい紅茶に口をつける。


「びっくりしちゃった。彼、有名人なんだよ」

「ああ、うん。そうみたいだね」


 そりゃ攻略対象という名のアイドルだもの。それはそれは注目されていることくらい、耳にしていた。驚いたと言う割に、アサヒはとてもあっさりした対応だった気がするけど。


「知り合いだった訳じゃないんだね」

「違うよ。さっきたまたま、星座の本開いてたら目に留まったみたいで」

「へえー、星が好きなんだ。みんな知らなそう」

「私、顔知らなくて気づかなくて。でももう会わないと思うし、だからその」


 アイドルと顔見知りだと皆に知られたら、私まで注目を浴びてしまう。そしてゲームの進行に巻き込まれてしまうかも。そう思ったら脈絡のない言い訳が勝手に口を吐く。


「えー? 友達になったんじゃないの? 楽しそうだったよ、マックスウェルくん」

「いやあ、今日だけだよ。多分」

「そうかなあ? でも別に誰かに言ったりしないよ。イチノ、目立ちたくないでしょ」

「! うん、ありがとう」


 当たり前のように言うアサヒに、私は少しだけ瞳が潤んだ。彼女は本当に私をよく分かってくれていて、私もそんな風にアサヒを理解したいと思う。


「私はお姉ちゃんが一番かっこいいと思ってるしね」

「真ん中のお姉さんだったよね、騎士団に入ってるの。ほんと凄いね」


 アサヒは三姉妹の末っ子だ。私と名前が似てるシナノさんは長女である。


「ふふ、ユラお姉ちゃんはイケメンだから」

「見てみたいなあ」


 男装の麗人みたいな感じだろうか。何となく薔薇を連想する。



 とりとめのないそんな会話で癒されながら、私は暫く図書室に行くのはやめようと心に決めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る