第2話 スリーピング・プリンセスかぐや

 ゴンドラがやっと月にたどり着いた。

 ぼくは御宮下市から月まで丸一週間もかかる運行時間に辟易していた。でも、その間に地球という青い星をずっと眺め続けていた。何故だろう。ぼくの心の奥底で、もう地球へは戻れないとでも思ってしまったのかも知れない。

 

 今日は早朝からムーン・ゆれあいスペースの竣工式で御宮下市全体が賑わっていた。幸い。月旅行にはぼくは一番乗りができた。他の観光客もそれぞれゴンドラで月を楽しめる日がくるはずだ。


 それと、ぼくは人見知りだからみんなと違うコースを選んだ。

 みんなとは違い。

 月の裏側を散歩するコースだ。


 ゴンドラから宇宙服に着替えて月の地面に足を着けた。

 月の気温は夏の御宮下市と比べると信じられないくらいに寒かった。真っ白い息を宇宙服の中で吐き出すと、宇宙服の中が寒い息で一杯になった。


 地球という名の青い星をぼくは振り返って。

 東の空から星々が降り出す。

 ぼくは地球に向かって「さよなら」と手を振った。


 月の裏側は、いや、月に裏も表も元々ないんじゃないかな。

 かなり歩いて、もう地球が見えなくなっていた。

 辺りは暗闇と眩い星雲が覆う。

 もう、ここはだれの世界でもない。ぼくだけの世界なんだ。と、ぼくは思っていると、後ろから声を掛けられた。

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