第6話 口は災いの元(2)

武器屋を出た俺は、慣れた道を歩き帰宅している。

しかし毎日歩き続けているからこそ普段見慣れない人物がいると気になってしまう。

ローブを着た子供が路地裏に走って行った。

フードを深く被っていて顔はよく見えない。

更にその子供を怪しい男達が追いかけている。



俺はなぜ助けようと思ったのか分からない。

気づいたらその女の子を追いかけていた。

路地裏に到着すると女の子が男二人に囲まれているのが見える。



「もう逃げられないぞ…

 大人しく捕まるんだな」



男が女の子に声をかける。

身なりからしても盗賊の可能性が高い。

このような子供を狙った誘拐や人身売買が最近流行っていると聞く。

当然だが12歳の子供が敵う相手ではない。



しかし身体が勝手に動いてしまう。

俺は盗賊に向かって大きな声をあげた。



「うわーーー!助けてーー

 変なおじさんに拐われる〜」



町中に広がるほどに大きな声だ。

剣士の家系なのに情けないが仕方がない。



「何だお前!ってガキ一人か…

 馬鹿め!こいつも一緒に連れて行くぞ」



「だんな!よく見ると、

 こいつも上玉ですぜ!」



だんなと呼ばれていた男が親玉のようだ。

万が一男が無能力者であれば勝てる可能性はあるが、スキル持ちであれば100%勝てない。



「私も攫うの?やめて〜」



少女の真似もしてみた。

声も高い方だから効果があるかもしれない。

まさか自分が女の真似をするとは…



「へへへ…

 こりゃあ今晩お楽しみもできるな!」

 


一人の盗賊が近づいてくる。



そして俺は怖がるようにしゃがむ。

男が上から覆い被さるように手を広げた瞬間、男の股間を模擬剣で刺してやった。

この世のものとは思えない悲鳴が出る…

我ながら酷すぎる…




「な、何しやがる!あいつは、

 もう男として生きていけねえぞ…」



「まあ、やり過ぎたかなと思ってますよ…」



何とか一人目は上手く倒せたが、

ここからが本当の戦いだ。



盗賊の男は斧使いだ。

太った体格からも動きは鈍く斧も大振りで振り回すだろう。

打ち合ったらまず子供の俺に勝ち目はない。

そして俺が勝つには奇襲しかない。



恐らく女の子と油断している今なら勝てる…

レガード流の抜刀術でやつを仕留める。

タイミングは奴が動き出す時だ。



そしてその時は来た…



盗賊が怪しい笑みを浮かべて近づいてきた。

俺は全速力で走り抜き相手の懐に入る。

戦う準備をしていない相手は斧すら構えていない。

隙が生まれ首元はガラ空きだ。

抜刀術は吸い込まれるように相手の首に向かう。

そして確かに急所に入った手応えがあった。

盗賊は力尽き倒れて行く。




「な、なんだと、小娘に…俺が…」



「あいにく俺は男には興味がないんだよ…」




盗賊は力尽きた…

男の返り血で真っ赤に染まっているが、

女の子に声をかけなければならない…



「あの、助けてくれて、

 ありがとうございます」



フードの子供が話しかけてくる。

声からしてもおそらく女の子だ…



「っ!いた…」



どうやら俺は、先ほどの戦いで足を捻ったようだ…

動こうとして尻餅をついてしまった。

そして人を殺した事を思い出し手が震えてしまう。



「先程はありがとうございます。

 貴方がいなければ私は…

 せめてものお礼に回復させてください」



女の子は回復魔法を俺の足首にかける。

そしてあっという間に怪我が治っていく。

リーナの回復魔法よりも遥かに高いレベルだと素人でも分かるほどに違いを感じる。

それだけに規格外な存在だ。



「俺のことは良いから、

 早くご両親のところへ帰ってあげな!」



「いえいえ!

 お礼をしなくてはならないのです。

 貴方はそれだけのことをしました!」



「俺が良いって言ってるんだから、

 良いの!」



「貴方さっきから、俺って言われてますけど、

 こんなにお美しいのですから、

 もっと、女性らしく…」



俺の容姿で違和感を感じたのだろう…

しかも盗賊の前で女の真似までしていた…

あれは俺の中でも最大の汚点だが生きていくのには仕方のない選択だった。



「いや、さっきは女の子のフリしたけど、

 俺は男だよ?」



「そ、そんなわけないと思いますが…」



「いや、男です…」



「え?本当ですか?」



「はい、神に誓って男です…」



「えええええー!!!」



そう俺が告げると先ほどのご婦人同様、

驚き固まってしまった…

そして驚いた瞬間フードが外れ顔が見える。

この顔はどこかで見たことが……



ようやく思い出した…

今朝アリスと話していた、

第ニ王女で聖女のマリア・ルミナスだ。

何故こんな路地裏にいるのかと疑問に思う…

そしてこれが、俺とマリアの出会いだった…

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