第5話 口は災いの元(1)

早朝からの訓練は熾烈だった。

騎士団の訓練施設に父、妹アリス、

メイドのリーナと共に来ている。

昨日のようなヘマをするわけにはいかない。

父上からの扱きも耐えて俺は現時点での全力を父上に示した。



そして午前中で訓練は終える。

身体が筋肉痛で引きちぎれそうだ…

ふと見るとアリスも辛そうにしている。

父上は騎士団の仕事があり先に訓練施設を出た。



その後はリーナが俺達に回復魔法をかけている。

実は回復魔法使いは希少だ。

そして国内で一番の回復魔法使いは、

第二王女のマリア・ルミナスと聞く。

王国歴史上最高の回復魔法使い。

生きる聖女とも言われているのだ。

歴史の中で異常な才能を持つ者はいる。

それだけに王家の中でも警備は厳重に行われる。



「リーナ、ありがとう!

 大分良くなってきたよ!」



「いえいえ、お二人とも、

 明日の儀式に備えて下さいね….」



回復してくれるだけでなく、

いつもリーナは俺達を気遣ってくれる…



「リーナ、お付き合いを求めてくる

 殿方の1人や2人いますよね?」



「な、何を言い出すのですか!」



アリスがいきなり男関係を聞き出した。

リーナに恋人がいるのかは前から気になってはいた。



「ア、アリス様!そんな物好きはいません!

 いるとしたら、ぜひお願いしたいです!」



ちらっとリーナに見られた気がしたが、

きっと気のせいだろう。

俺は12歳の男の子、だ。



「リーナは、美人で回復魔法の使い手!

 更にレガート家のメイドなのですよ!」



「アリス、リーナが困っているだろう!

 あ!ちなみに俺も、リーナの旦那様に

 立候補したいくらいだよ!」



2人から攻められて、

更に赤くなっていくリーナ。



「もう…

 調子の良い事を言わないでください」



「お、お兄様、今のやめてください…

 学園の女が勘違いしたら、

 アリス、殺してしまいます…」



アリスがジト目で俺に言ってくる…

笑顔が怖い…



「アリス様が事件を起こさいよう

 お気をつけくださいね!」



「わ、分かったよ〜

 なるべく気をつけるよ〜」



何気ない会話…

でもリーナが魅力的なのは事実なのだ。

抜群のプロポーション、整った容姿。

更に回復魔法を中心に魔法学の教養もある。

しかも家事も一流だ。



「この後、クリス様は、

 どこに行かれますか?」



「明日に備えて模擬剣でも見にいくよ!

 鑑定の儀で使うだろう?」



この後アリスも一緒に行くと駄々をコネ始めたが、アリスはこの後父上に呼ばれている。

リーナと共に屋敷へと帰っていった。





◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆




そして俺は城下町の武器屋に向かっている。

馴染みの店、城下町の武器屋ブンブンだ。

王都では珍しいドワーフが店主をしている。

王国内でも一二を争う人気店で良質な武器が揃う。



「よぉ!親父!」



「なんだ!どこの子供かと思ったら、

 クリスかい!最近調子はどうじゃ?」



カッカッカと笑いながらいつも通りに、

ドワーフの店主ゲランが絡んでくる。

それに応えるのが、この店での俺の日課なのだ。



「駄目だ、他の店じゃもう…

 俺には満足できる剣がない…」



「ほう、ついにワシの剣じゃないと、

 満足できない身体になったか…」



俺はふざけて女の真似をしておどけて見せた。

この店に入ったら軽い冗談から始まるのだ。



しかし偶然この店で商品を見ていた女性は慌て出す…

この2人のやり取りは初見である。

完全に勘違いさせてしまったのだ。



「だ、だめーーー、

 こんな可愛い子に犯罪です!!」



「可愛い子じゃとよ…ぎゃはははは」



ゲランがお腹を抱えて笑っている。

可愛い子呼ばわりされたのが相当ツボに入ったようだ。



「ダメったらダメ!

 こんな可愛い子!こんなに…」



俺に抱きつきながら守ろうとする婦人。



「お、奥様、俺は男です!

 可愛いかもしれないけど…」



「え!何を言ってるの?

 貴方が男なわけないじゃない!」



先程から婦人が強く抱きしめてくるため、

当たってはいけないモノが当たっている。



「あの、すいません…男です…

 ですので、離れていただけると…

 その…」



「え、え、えーーー」



心の底から驚いて放心してしまった。

口をぱくぱくしながら独り言を言ってる。

完全に自分の世界に入ってしまっている…

これは、しばらく戻ってこないかも…



「親父、お金置いていくぞ!」



模擬剣を持って店を出て行く。

婦人は少しおかしくなってしまったが、

今は見なかったことにした。



「クリス!そのまま帰るんじゃ無い!

 どうにかせんか!」



「じゃあな!」



そう言って俺はゲランを無視して店を出た。

婦人に悪い事をしたがゲランが何とかするだろう。



多少迷惑をかけたが問題ないはずだ…

ひとまずレガードの屋敷に帰るために、

王都の街の中でも1番賑やかな中央通りを歩き出した…

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