第17話 青髪のエイド#7
この世界には、幾つもの種族が存在する。それらの種族は、同種同士で交配し、純血の同種を産んでいく。
しかし、人間と魔族のように、酷似した姿の種族同士が交配する場合があり、混血の種が生まれることもある。しかし、大抵はどちらかの血が濃く、どちらかの血が薄い。仮に人間と魔族の混血であれば、高確率で人間の血が濃い。故に魔族程の魔力量や才能を持った個体が産まれる可能性は極めて低く、ただの人間であると言っても過言ではない。
ただこの世界には、純血と混血。そのどちらでもあり、どちらでもない個体が存在する。その個体は純血とも、混血とも呼ばれず、俗に、
しかし
プレーナの場合は、人間と魔族の血を引いた
切り替えれば純血。とは言え、2つの種族の間に生まれた存在。純血と言えば純血。混血と言えば混血。しかし純血と言わなければ混血とも言えない。正しく半端。正しく、
「人間と魔族の
「……穢らわしいぃ? はっ! バカ言わないで。私はまだ誰にも純潔を捧げてないし、毎日お風呂にだって入ってる」
「そういう事を言ってるんじゃ……まあいい。フォーノ、殺るぞ……!」
デノンの指示で、フォーノが右手を空へと掲げた。すると、フォーノの頭上に水色の魔法陣が現れ、さらにその魔法陣の真上に、アイロン並の大きさの氷塊が幾つも現れた。
フォーノが発動した魔法は、魔法の基礎となる属性魔法の1つ、氷魔法。氷魔法は、氷塊を出現させることだけでなく、霜を出現させたり、或いは液体を凍結させたりと、案外使い勝手の良い魔法である。魔族だけでなく、練習次第で人間も魔法を使えるのだが、最も簡単で会得の早い水魔法に次いで、比較的簡単に覚えられる。
ただ、簡単に覚えられるが故に、その応用の幅も広い。
氷という特性上、日常に用いることもできるが、それ以上に、生物に対する威力が絶大。つまりは使い方次第で、大抵の生物を氷漬けにさせられる。大抵の生物を凍死させられる。或いは巨大強固な氷塊を勢いよくぶつけ、打撲による殺害も容易なのだ。
「まずは……お前からだ!」
フォーノは対峙したプレーナではなく、デノンと対峙したエマに向け、大量の氷塊を投げつけた。そのスピードは野球選手の投擲並で、大抵の人間であれば回避は困難であろう。
しかし、エマは慌てる様子も無く、ただ、スヴェーネの柄を強く握った。
パァン!!
氷塊は、エマに触れる寸前で、破裂音を響かせ消滅した。
フォーノは、氷塊をぶつけるつもりだった。氷塊をぶつけ、殺すつもりだった。しかし、氷塊は消えた。フォーノの意思に反し、エマに擦り傷ひとつ負わせることなく、何故か消滅した。
唖然。何せ、殺すつもりで放った氷塊が、一切の傷を与えることもなく、訳の分からぬまま消滅したのだ。魔法を発動した張本人であるフォーノは、ぽかんと口を開け、敵を眼前に隙を見せた。
「ばーか」
フォーノの隙を見逃さなかったプレーナは、双剣レイゼを用い、フォーノを攻撃した。プレーナは2本の剣、2枚の刃を、さながらハサミのように、両側から振り下ろした。左右から襲って来る刃に気付いた頃には、既にフォーノに逃走路は無く、ただ無防備に、レイゼの刃を喰らうしかなかった。
レイゼの刃は、フォーノの首を左右両方から抉る。完全に切断はできなかったものの、左右からの斬撃は致命傷となった。
ぷしゅ。ぶしゅ。そんな具合に、裂傷部から血液が噴出する。その血はレイゼの刃を、そしてプレーナの体を赤く染めた。
「フォーノ!」
サクッ!
フォーノが死ぬ。瞬時にそう理解したデノンだったが、どうやら、デノンに意識を集中し過ぎたらしく、エマに対して隙を見せてしまった。
隙を見せたが故に、デノンの視界は突然傾いた。
傾いた視界に、赤く、ドロっとしたものが映った。デノンは認めなくなかったものの、認めざるを得なかった。
それは、デノンの血液だった。
「生憎、私はスキル持ちなの。だからあんたみたいな雑魚魔族が、私に勝てるはずなんて無いの」
デノンの視界が、地面に接した。そして、有り得ない角度に、自らの手が見えた。それもそのはず。デノンの首は切断され、既に首と体は分かれてしまっているのだ。切断したのは勿論、エマである。その証拠に、エマの愛剣スヴェーネの刃には、デノンの血液がべっとりと付着している。
たった一瞬の隙を見せただけで、あっさりと首を切断された。エマの発動した転移魔法により、既にデノンのプライドは崩壊寸前だった。しかし、こうして首を切断されてしまえば、プライドどころか、心までもが壊れてしまいそうだった。
「スィ……ル……持ぃ……」
「そう。スキル持ち。言ったでしょ、私は天才なの」
この世界に於いて、スキル持ちと呼ばれる存在は希少。加速というスキルを持つユノは、勿論希少である。そして、エマもまた、ユノと同じでスキル持ちであった。ただ、ユノは異世界転生の際、後天的に得られたスキルであるが、エマの場合は後天的ではなく、生まれた時点でスキル持ちだった。
エマの持つスキルは、魔法無効化。エマが発動した魔法、及びエマにとって有益な魔法に関しては無効化されないが、エマ以外の誰かが発動した攻撃的且つ無益な魔法を無効化することができる。先程フォーノが放った氷塊は飽く迄も「氷魔法により出現した氷塊」であるため、エマに対して攻撃的な魔法と判別され、寸前で消滅。もとい、無効化された。その際、無効化した魔法の種類によっては、軽い衝撃波や破裂音が伴うが、エマへの負担やダメージは皆無。つまりは、魔法に対する絶対的な防御である。
ユノのスキルである加速は、そのスピードを活かすことで、攻撃特化のスキルと言える。しかしエマのスキルである魔法無効化は、魔法によるエマへの攻撃を無効化するため、防御特化のスキルと言える。
「私達の前に現れたこと、後悔するといいよ。まあ、後悔させる前に殺すけど」
エマは地面に転がるデノンの首と体に対し、氷魔法を発動。デノンの真下に水色の魔法陣が現れ、即座に、デノンを凍結させた。この時点で、デノンの皮膚だけでなく、眼球や脳などの内臓は全て凍結し、既に後悔することも何かを考えることもできなくなっていた。
「さて……ノワ、プレーナに体を返しなさい」
プレーナの体が変異する直前、プレーナは、ノワ、と言った。そして今、エマも、ノワと言った。この「ノワ」というのは、実は、プレーナのことでもある。
ノワは、プレーナと違って少々気が荒く、戦いを好み、
「もし嫌だって言ったら?」
プレーナの体には、プレーナとノワ、2つの人格がある。基本的に主人格はプレーナであり、プレーナの任意のタイミングで、体をノワへと切り替えられる。しかし、切り替えた瞬間に、体の主導権はプレーナからノワへと移る。つまり、ノワからプレーナへと変わるタイミングを決める権利は、プレーナではなくノワにある。
今現在、人格はノワ。もしもノワが、人格の切り替えを行わなければ、半永久的に、プレーナの体はノワが使い続けることとなる。
「プレーナに戻りたくなるまでビンタする」
故に、ノワからプレーナに戻るためには、エマがノワ相手に「人格を戻せ」と説得する必要がある。
「うえ、考えただけで頭が痛くなる。まぁ、今回は大人しく戻ってあげる。今回は、ね」
「……やけに大人しい。別にいいんだけど」
案外すんなりと、ノワが体の切り替えを承諾したため、これから、この体はノワからプレーナに戻る。
青い髪は再び金髪へと戻り、その表情、顔つきも元へ戻った。
ふぅ、と息を吐き、プレーナは「結構すぐ戻れた」と呟いた。
「さて、なら戻ろっか。ユノ達も待ってる」
「んだね」
デノンとフォーノの死体には目もやらず、2人は転移魔法により、林からアプテマへと戻った。
「おかえり。早かったね」
収容所の塀に凭れ、2人の帰りを待っていたユノは、そう言いながら塀から離れた。ユノのすぐ近くに、収容所の職員が複数人立っており、その中心に、ユノが捕らえた魔王信徒が転がっている。信徒の手足は、かなり強固なロープで縛られており、身動きが取れないようになっていた。
エイドを乗せて逃げた蜥蜴車達は戻ってきていない。今現在は、アプテマのギリギリ敷地内の場所で待機している。
「
「始末した。さぁ、みんなのとこ戻ろ」
「あ、この人どうする?」
再び転移魔法を発動しようとしたエマだったが、ユノが問い、魔法は中断。ユノは親指を立て、捕縛された信徒を指していた。
「リディアの収容所で預かる。魔王信徒のこととか、諸々話してもらおう」
捕縛した信徒は、エイドと共にリディアの収容所へ投げることにして、改めて、エマは転移魔法を発動。エマ、プレーナ、ユノ、信徒を、蜥蜴車の待機するアプテマの端へと移動させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます