閉幕
「ふうん、そっか。」
「どうかしましたか、奏多さん」
「ううん、何でもないの。ただ、疑問が解決しただけ」
優しく微笑む奏多に、絃は「それは良かったです」と返して笑った。
その隣で、腕を組んだネージュが辺りに視線を巡らせる。
「でも思いの他、各々無事で良かったな。治療が必要だったのは裁貴くらいだろ?あいつも、もうすっかり平気みたいだしよ」
「そうだね。結果としては上々じゃないかな」
ネージュの言葉に、エルは微笑みながら頷く。
そして、彼女は少し離れたところでこちらを伺っている深八咫の方を見た。
「この後、僕たちは食事にでも行くつもりですが。あなたも如何ですか?」
「……申し訳ないが、拙者は遠慮させて頂く」
「えっ、マジかよ……。」
何やら物凄く落胆した表情を浮かべるネージュの隣で、エルは予想していた返答を受けて頷いた。
そのやり取りを見た絃は、はっとした表情を浮かべると、軽い足音を立てて深八咫の側に駆け寄る。
「みやたさん!さっきはつむと絃のこと、助けて下さってありがとうございました!」
「何のことだか。心当たりがござらぬ故、礼を受け取る謂れも有りませぬ」
「いいえ、勘違いじゃありません。絃には心の桜が見えるので!」
そう言ってペコリと頭を下げる絃に、深八咫は小さくため息をついた。
そして膝を折り、懐から紙に包まれた飴玉を取り出すと、下を向いている絃の目の前に差し出した。
「絃にくれるんですか?」
首を傾げる絃と、無言のままこくりと頷く深八咫。
絃は礼を告げると嬉しそうにそれを受け取り、花の咲くような笑みを浮かべる。
「……では、拙者はこれで失礼致す。」
立ち上がった深八咫は、次元の塔を下る階段の奥へと姿を消していった。
「何だ、帰りはドロンって消えたりしないんだな……。」
ぽつりと零れたネージュの言葉が、すっかりと高く登った月明かりの中で妙な寂寥感を生み出す。
それは正に、夢見る少年が一つ現実を知ってしまった瞬間であった。
だが実は、今回は徒歩で帰っただけであり……以前の迎撃戦では深八咫はドロンと消えていた。しかしながら、その事実をネージュが知る由もない。
「あれ!?忍者は!?」
そんなしんみりとした空気を一気にぶち壊して、騒がしい
紡もその後を追って仲間たちの輪に加わった。
「裁貴、お前は真実を知らなくて良い……俺がお前の夢を守ってやるからな……。」
「ええ……?何があったんですか……?」
涙ぐみそうな勢いのネージュの様子に、流石の正義も当惑を禁じ得ない。
その様子を見てエルはくすくすと小さく笑い、一つ手を打ち鳴らした。
「さぁ今日の戦いは終わりでも、明日は変わらずにやって来るし……そろそろ、僕らも帰ろうじゃないか。団欒は、お腹を満たしながらでも出来るさ」
彼女の言葉に異を唱えるものはいない。
寧ろ、その場の人間は急に空腹を自覚し始める者が大半であった。
「何食べに行きます?僕、かつ丼がいいな!」
「俺は鰻丼!」
「蕎麦にしませんか」
「あはは、果たして全部揃っている所があるかな」
少年少女は楽しげに、我先にと階段を下りだす。
朗らかな笑い声が階段の中を反響しながら遠ざかり……円形広場は、また深い静寂の中で眠りにつくのであった。
*****
おまけ
「つむ!大変です!」
「ど、どうした!?」
「絃、みやたさんから果し状を貰ってしまいました!」
「は!?」
そう言って彼女が渡してきた飴玉の包み紙には、何やら小さく文字が書かれている。
ーー三日後 甘味処ニテ待ツ ベイゴマヲ持ツテ 来ラレタシ。
「どうしましょう……!受けた挑戦には応えるべきでしょうか!?」
「いや、挑戦というか……これは単純に遊びに誘われているだけだろ?」
「え……?」
「えっ!?違うのか!?」
「わかりません!」
事情が分からぬまま、一人で向かわせるのも何だか心配になった紡は、絃と共に甘味処に向かうことになる。
そして深八咫VS深鈴VS絃VS紡の仁義なきベーゴマバトルロワイヤルが繰り広げられたのは、少し後の話。
ーー鉄駒のベーゴマーズ。
闘志あるなら紐を巻け。
盤上の生存者となるために。
仮面と桜 はるより @haruyori
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