螺旋階段
迎撃戦当日。登り始めたばかりの月が、随分と明るい夜であった。
桜花十二階の足元に、今夜の迎撃戦に参戦する誓約生徒会のメンバーが集っていた。
裁貴正義、エルシー・ウォールデン、朝夕紡の三人は各々が仮面とステラドレスを纏っている。
彼らは顔を合わせて頷き合うと、そのまま桜花十二階を足早に駆け上った。
「そういえば……もう一組、僕らの他に共に戦う仲間が居るって」
「霧の騎士、ですね」
正義の言葉に、紡が応える。
名前までは知らされていないが、総帥によれば霧の女王が助力を申し出てくれたらしい。
助っ人として加えられた者達は、少し変わってはいるが……実力は確かなんだとか。
『癖の強い奴じゃないといいけどな。ただでさえ味方は猪武者ばっかりなんだし』
「ネージュ、味方のことを悪く言ってはいけないよ」
『けど俺らにも限界はある!助ける仲間の取捨選択なんてしたくないだろ……』
その後もネージュは何やらぶつぶつと呟いていたが、エルが腰に下げたレイピアの鞘の腹を指先で撫でると、『ひゃうんッ!?』と小さく叫んで大人しくなる。
「それは僕を侮った発言だと受け取って良いんだね?」
『そ、そういう訳じゃ……』
「ふふ、冗談だよ。もし何か起きても君と僕なら切り抜けられるさ、絶対に」
笑い声を漏らすエルの様子に、彼女が己のシースと会話していることを悟った正義が二人に向けてサムズアップして見せる。
「ネージュ先輩、心配しないでください!僕達がどんな不利な戦況だってひっくり返して見せますから!」
『お前の事が一番心配なんだよ!』
正義には自分の声は聞こえないと理解していても、ネージュは思わずそう叫ぶ。
紡はというと、自分の前を駆ける二人の様子を見ながら、いつもの迎撃戦前とは全く異なる空気に驚いていた。
普段共に戦っている仲間達とは、基本的に戦術や戦闘での懸念点について協議しながら次元の塔を登っていた。
最も彼らは目の前の彼らよりも年齢層が高い上に、元軍人が二人含まれるのも理由かとは思うが……まるで他団体との練習会に向かう道場の門下生の様なテンションの彼らに呆気に取られてしまう。
経験的には自分よりも熟練の誓約生徒会だというが……正直のところ、不安が拭えない。
『つむ、どうかしました?』
「いや、何でもない」
浮かない様子の紡に気がついた絃がそう声を掛けてくる。
気を揉んでも仕方がない。今回の怪物はここの三人と、まだ見ぬ誰かで迎え撃たねばならないのだから。
軽快に階段を叩く三人分の足音は、止まる事なく響いていった。
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