二人歩く道

「参ったな、そんなに面白い事かなぁ」

「あのくらいの子達には珍しいんだよ、きっと」

「そういうものか……」


 誤魔化すように、頭を掻く正義。

 奏多が思い返してみても、確かに二人の仲の良さを妬む友人こそ居るが、面白おかしく茶化してくるような人物は周りに居なかったように思う。

 普段無自覚に歯の浮くような言葉を伝えてくる割には、子供に茶化されて照れ臭く思うなんて可愛い所もあるじゃないか、と奏多はニコニコと笑顔を浮かべていた。


「なんだか……こういう街並みを歩いていると、昔みんなで行った旅行を思い出さない?」

「懐かしいね、あの時は確か赤くなった紅葉の木がたくさん並んでいたんだっけ」


 今二人のそばに並んでいるのは、見事に花盛りの桜並木だけれど。

 あれは確か、二人がまだ星の騎士になってからそれほど時が経たない日のことだった。

 奏多の帽子が飛ばされて木に引っかかったり、寝惚けた正義が奏多の布団に潜り込んで来たりと色んなことがあったが……どれもこれも今となっては良い思い出だ。


「もう時効も過ぎただろうから言うけど……あの日少しでも可愛くなりたくて、とっておきの靴を履いて行ったんだよ。なのにジャス君ってば、それ歩きにくくないの?なんて言って」

「う……ごめんなさい」

「時効だって言ったでしょ」


 奏多はそう言って笑うが、申し訳なさを感じているのか、正義はしょんぼりと肩を落としている。


「良いの。そういう所も、あの時の私にとっては『ジャス君らしさ』だったし」


 自分の彼氏、という贔屓目抜きにしても、正義はそれなりに整った顔立ちをしている。

 性格も明るいし、趣味に対する精神年齢が幼すぎる事と、偶にあり得ないほどのデリカシーの無さを発揮する事以外は、基本的に好青年だ。

 もし仮に、彼が奏多の気持ちに自分から気付いてくれる程聡かったとしたら……きっと、他の女子も放っておきはしなかっただろう。

 例えそうなら、きっと自分は心穏やかでは居られなかっただろうし……本当にあれはあれで良かったのだ、と奏多は口には出さずに考えていた。


 ふと、そんな二人が歩く道の脇に、石造りの階段が現れる。

 揃って上を見上げてみると、赤い鳥居が見えた。どうやらここは、神社らしい。


「行く宛てもないし、登ってみない?」


 正義が興味津々といった素振りで、鳥居を指差してそう言った。

 奏多は鞄の中から小さな端末を取り出す。

 これは任務に当たる奏多達が、自前の携帯端末の電波繋がらないことを誓約生徒会の総帥に伝えたところ、これを使用するように、と手渡されたものである。

 電源を入れると、端末の上に青色のホログラムの画面が現れるが、特に通知は来ていないようだ。

 奏多は端末を操作し、「通りから少し外れたところの神社にいます」とボイスメッセージを送信すると、それを鞄の中に戻した。


「これでよし、と。行ってみようか」

「うん!」


 嬉しそうに頷く正義。

 何となく『わんこ』っぽいその表情と仕草に、奏多もどこか楽しげな気分になるのであった。

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