忠告

 それから毎晩、私は彼女に忠告をしにいった。

 そのたびに彼女は怯えた目で私を見て、けれど彼にまといつくのをやめない。

 一体どうしたら、彼女を分からせることが出来るのだろう。


 やがて柔らかだった風も、どんどん冷たくなっていった。

 まだ少し早いけど、もちろんクリスマスプレゼントだって作り始めてる。二人で巻いて一緒に歩ける、長い長いマフラー。

 喜んでくれたらいいな。

 教室の窓から眺めることの出来る運動場では、今日も枯葉交じりの少し冷たい風と一緒に、彼が一生懸命走っている姿を見ることが出来る。この色、きっと彼と私に似合う、なんて、とても幸せな気分に浸りながら、私は放課後、教室の自分の席に座りながら編み針をせっせと動かし続ける。


 どれくらいの時間が経ったんだろう。気が付けば辺りはすっかり暗い。教室の時計を見上げて

『まだ5時半なのに』

 苦笑しながら席から立ち上がって電気のスイッチを押したら、

「やあ、あのさ」

「あら、貴方は」

 確か彼の友達の一人…だったかな?私には彼以外どうでもいいから、あまり良くは知らないけれど、とにかく他のクラスの男の子が、扉を開いて顔を出した。

 そしておずおずと、

「あんまりアイツに近づかないほうがいいよ? っていうか、もう近づかないでやってよ。アイツ今、彼女と本格的に付き合ってるんだしさ」

「うそ」

「うそじゃないって。アイツらもともと幼馴染だったし。そりゃ仲もすぐに良くなるよ」

 それを聞いて、一度に食欲が無くなった。

「あげる」

「わ、マジ?」

 だから私は、今日もあの人のために作ったお弁当…部活の後に食べてくれるだろうと思っていたお弁当を、その男の子へ押しつける。

 そしてそのまま私は机に突っ伏した。

『…違うわよね。貴方が好きなのは私よね?』

 言い寄ってこられたから、仕方なく付き合ってるのよね?

 だって…貴方が私を嫌いになるはずなんてないもの。

「ごちそうさん。ま、ショックなのは分かるけど」

 しばらくして、その男の子が私の隣の席へお弁当を置く気配がして、

「あまりしつこいのも嫌われるぜ? アイツ、かなり迷惑してるみたいだしさ。君だってかわいいんだから、とっとと他の男、みつけたほうがいいんじゃねえの?」

 教室の扉が開いて、

「例えば俺とかさ、なーんてね、あはははは」

 また締まる音がした。

『嘘だよね…あんな人の言うことなんて信じないんだから…だって、私達の愛は本物で』

 目を閉じながら考えていたら、いつの間にかまた私は空を飛んでいた。

 そして大好きなあの人の元へ。いつものように体がとても軽くなって、どこへでも飛んでいけそうな気分。

『貴方はどこにいるの?』

 まだ帰っていないはず。だからまた会って話をしたい。

 そして飛んで飛んで…やっと見つけた。

 暗くなって明かりに照らされた屋上。そこに彼はいる。けれどそこには、

『あの女…!』

 彼と楽しそうな会話をしている図々しい女がいて、私を認めて驚いた顔をする。

 そして…私は彼女を思いきり突き飛ばすのだ。

「優子!」

 咄嗟に彼が手を伸ばす。けれど間に合うはずがない。彼の悲鳴が、あたりに響き渡って…

『なんていい気味』

 私は思わずクスクス笑っている。

 無様にひしゃげたカエルのような格好で、あの女ははるか下の地面に横たわっている。

 …そして私は自分の体に戻っている私を発見するのだ。

 机の上に突っ伏していた上半身を起こして窓の外へ目をやると、グラウンドにまだ残っていた人たちが大騒ぎをしている。




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