神様がくれた粋で素敵なプレゼント
…私達の邪魔をしていた目障りな女は、こうして消えた。
そしてクリスマスまで後2日。
私は彼を慰めるのに忙しい。あんな女でも、いなくなったことを憐れんであげているなんて、本当に彼はなんて優しい人なんだろう。
「ねえ、元気出して?」
あれから毎日、私は彼と一緒に下校している。
だけど彼は俯いたきり、私の方を見ようともしない。いい加減、照れるのは止めて欲しいな。
「気の毒な事故だったのよ…ね?」
「ああ…」
私が何を言っても、「ああ」ばかりでまともな返事が返ってこない。帰り道の歩道橋から眺める車のイルミネーションはとても眩しくて、私達を祝福しているみたいなのに。
だから私もウキウキしながら、明るく言ったのだ。
「それにしても彼女の驚いた顔ったら…よっぽどびっくりしたのね。せっかく楽しそうに話をしてたのに残念だったわねえ」
すると彼はぴたりと足を止めた。
「何故知ってる?」
そう言って私を見た彼の顔。
「や、やだな、怖い顔」
さすがにちょっと怖くなる。なのに彼は、
「あの時、屋上には確かに俺たち二人しかいなかった。その場にいなかった君が、何故アイツのあの時の顔を知ってる?」
って。
歩道橋の下を、無数の車が走っていく。ちょうど真ん中で立ち止まり、彼はまるでテレビドラマの刑事のような顔をしている。私を真っ直ぐ見詰めてくれてる。それに気付いたら、さっきまでちょっとだけ感じてた怖さなんてどこかに行っちゃった。
「やっと私を見てくれたのね?」
私は嬉しくなって笑いながら、
「はい、クリスマスプレゼント。あったかいでしょ?」
通学カバンと一緒に下げていた紙袋から、用意していた可愛いラッピングのプレゼントを取り出して、彼の首へ長いマフラーをかけた。
「…やめてくれ」
だけど彼は怖い顔のまま、せっかく私が心を込めて編んであげたマフラーを払いのけた。そのマフラーは風に舞って…手すりに引っかかって車道のほうへひらひらたなびいてる。
「ひどい…」
どうしてそんなことするの? 貴方のために心を込めて編んだんだよ。なのに彼は、
「答えろ。君が何故、あの時の彼女の顔を知ってるんだ。気のせいだって俺は笑い飛ばしてたけど…アイツはいつも眠るときに君の姿を部屋の中で見ていたと言っていた。信じたくはなかったけど」
とか言いながら1歩ずつ、私の方へ近寄ってくる。もう、ムードないんだから。照れ隠しにしてもちょっとやりすぎじゃないかな。
「答えろ…君がアイツを殺したのか」
「そんなこと、問題じゃないでしょ? だってあんな女、私達の邪魔をするあんな女なんか必要無いもの」
「やめてくれ…黙れ!」
そして彼は私に飛びかかってきた。
「そんな乱暴にしないで。女の子って繊細なんだから」
私はクスクス笑いながら、咄嗟に彼を避ける。するとそのまま彼はバランスを崩して。でも手すりに引っかかってたマフラーがちょうど彼の首に絡んで一緒に車の流れの中へ……
「あらあら…やんちゃが過ぎちゃったのね」
歩道橋の上から、私のマフラーを首に巻いて、壊れた人形のようにめちゃくちゃな格好した彼の姿を見ながら、私はクスクス笑い続ける。なんだかとっても気分がすっきりしてた。
「ああ、よかった…これでもう誰も貴方に言い寄ったりしないね」
メリー・クリスマス。神様がくれた粋で素敵なプレゼント。
そうよ、これからもずっとずっと、貴方は私だけのもの。
救急車の音を遠くに聞きながら、彼の姿をスマホに納める。
「さっそく待ち受けにしなくちゃね」
と、彼の写真を待ち受けに設定しながら、私は家に帰ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます