シーン12 言語とことば
絵描きの空気に飲み込まれそうになる夫。軽く頭を振って息を吐き、自分を取り戻そうとして切り替える。
夫
あのね、あれは人間やら世界そのものの話でなく言語のことを言っているんでしょう。それも、大昔にできた物語じゃないですか…。私たちは今、言語を学ぶことができるんですよ。それも、学ぼうと思えば簡単にね。言語を学びさえすれば今の我々ならどこの誰とでもきちんと正しく交流できますよ。
絵描き
仰るとおり…。ぼくたちは言語を学んで、それを使うことができます…。
夫
そうですよ。そもそも私は別に、言語について話をしていたわけでもないんですがね。どちらかといえば会話ですよ。言葉使いのことです。
絵描き
そう…。それです…。それなのにですよ…。
夫
どういうことです…。
絵描き
それなのにどうしても…。どうしても、ことばで言い表しきれないこともあるような気がするように…。ぼくは思うんですよ…。正しさだけでは擦り合わせしきれない何かがあるように…。そういうものに、いつかどこかで気が付いてしまう…。それはどんなに愛し合っている相手でも…。ぼくはそう思ったんです…。
夫
それはなんですか。人と人は結局わかりあえることはないとでも?あなたはそう言いたいんですか。
絵描き
全てとは言いませんがね…。そういう部分もきっとあるんじゃないでしょうか…。
夫
それこそ努力や思いやりが足りないんじゃないでしょうかね。もしくは知識とか、経験とか。なにかしらが足りていないんだと思いますよ、私は。言葉使いだってね、学べばいいんですよ。相手に正しく伝わる話し方っていうのは必ずあるんですから。
絵描き
そうかもしれません…。でもぼくが言いたいそれはもしかしたら…。そう…。匂いに近いものなのかもしれない…。
絵描きは油溶きの小瓶を手にしてそれを見つめる。
夫
匂い…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます