シーン6 知らない匂い


油をセッティングしてパレットに絵の具を載せ、キャンバスに色を載せていく絵描き。


ふと、妻が何かの匂いを嗅ぐ。


妻   

あら…。


辺りの匂いを何度か嗅ぐ妻。


どうかしたのかい?


なんだかいい匂いがするわ。


夫  

(パンを指して)これだろう?


ちがうわ。


おや。それじゃ、なんだろう…。


夫も辺りの匂いを嗅ぐ。


なにかしら…。嗅いだことのない匂いだったわ…。


風に乗ってまた同じ香りがする。


あら…!またするわ…!ねえ、あなた。これよ、これ…!


手で仰いで、辺りの空気を吸い込むように大袈裟に匂いを嗅ぐ夫。


夫  

ああ…!これのことかな。


妻   

たぶんそれよ。わたしが知らないやつよ。


なら、きっとこれだね。


なんの匂いかしら、これ。


夫   

きっと油絵の具の匂いだね。彼が使っている絵の具の匂いだよ。


妻   

へえ…!あの人が気にしていたのはこの匂いのことかしら。


夫   

そうだろうね、きっと。確かにこの匂いは気になる人がいるだろうね。苦手って意味でね。


妻   

そうなの?わたしは好きよ、これ。


夫   

そうかい。まあでも、わざわざ好きだっていうほどじゃないだろう。


妻   

そんなことないわ。わざわざ好きだって言いたいたいほど好きよ。


夫   

へえ…。これが…?

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