シーン3 絵描きの青年と匂い


夫婦に近付いてくる絵描きの青年はイーゼルや画材道具一式を背中に背負い、片手には小さな椅子を手に持っている。夫婦に声をかける絵描き。



絵描き 

あのう…。


はい?なんでしょう。


絵描き 

あの…。この辺りで絵を描かせていただいてもよろしいでしょうか…。


夫  

(青年がなぜそんなことを聞くのかわからず)ええ…。どうぞ…?


絵描き 

ありがとうございます…。すみません…。油絵ですから…。少々匂うものですからね…。


夫   

ああ、なるほど。そういうことでしたか。


絵描き

ええ…。念のため…。お食事中のようですから…。


はは。いいんですよ。(冗談めかして)もしかしたら私たちが景観のお邪魔なのかな、なんて思ってしまいました。


絵描き 

いえ…。そんなことは全く…。この、匂いが…。


夫   

(にこやかに)お気遣いありがとうございます。私共のことはどうぞお気になさらず。


絵描き 

ありがとうございます…。


絵描きはぼんやりと一礼して、夫婦から少し離れたところに椅子を置く。それからイーゼルや画材道具を降ろして絵を描く準備をする。

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