シーン2 クロワッサンとメロンパン
紙袋を抱えた夫がご機嫌で戻ってくる。
夫
お待たせ。
ふっと我に返る妻。
妻
(にっこりと)ああ…。おかえりなさい。
夫
どうかしたのかい?
妻
(穏やかに)なんでもないわ。風が吹いただけよ…。
夫
そうか。具合でもよくないのかと思ったよ。(夫もベンチに座り、紙袋を開けてながら)いや、すまないね。君が何を食べたいか聞くのをすっかり忘れていたものだから…。僕が勝手に選んできてしまったよ。
妻
なんでもいいのよ。しいていうなら、クロワッサンかしら。
夫
やっぱりね。ごらん、クロワッサンだよ。
妻
まあ。さすがだわ。
夫
ふふ。君のことはお見通しさ。それと甘いやつだろう。メロンパンにしたよ。
妻
まあ…。なんでもお見通しなのね。
夫
きみなら、アンパンよりはメロンパンだろうと思ってね。
妻
あなたはカレーパンでしょう?
夫
そうだよ。きみもわかってるね。
妻
うふふ。ありがとう。お茶どうぞ。
夫
ありがとう。食べようか。
妻
ええ。いただきます。
夫
いただきます。
遠くの方で子どもたちが元気よく遊ぶ声がする。今度は妻はなんともなさそうにパンを食べている。
夫
きみ、どうだい?これ。
妻
(にこやかに)美味しいわ。
夫
うん。美味いねえ。パン屋があることに気付いてよかったね。
妻
ええ。あなたの鼻のおかげね。
パンを食べながら和やかにお茶をしている夫婦のもとへ、いかにも貧乏そうな身なりの絵描きの青年がノソノソとやってくる。
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