第19話 三雄と魔王の再戦では決着がつかずに三雄がネツトに魔王を連れ帰ろうとする話。
外では逃げ切っていた姫達が惨状を見て「勇者!防ぎきれないとは何事です!」と声を荒げる。そして間髪入れずに三雄は「うっせー!じゃあお前が防いで見せろ!出来ねーなら黙ってろ!」と言い返す。
こうして始まる殴り合い。
変わらずに殴り合いながら「お前は面白いな勇者!」と魔王が言い、三雄は「何がだよ!普通だろ!」と言い返す。
「今の態度だ!何故王達に媚びへつらわない?」
「んなもん!オーラがねえからだよ!偉そうで人の住んでる場所を悪く言うだけで何か敬いたくなるような事してねえからオーラがねえんだよ!俺のネツトの村長なんて俺が勇者だって知ってから村一丸で俺を勇者に育ててくれた!旅で困らないように持たせる金を作るために事業を始めて大成功してる!村の皆も死を気にせずに働いてくれた!だから村の皆にはオーラがあんだよ!俺が敬うのは俺の村の皆だ!」
しばらく殴り合うがやはり勇者の鎧に付与された超回復の恩恵で魔王の傷は治ってしまう。
「くっそ、結局その鎧だよな」
「…日を改めてやろう」
魔王は拳を下ろして大人しくなる。
「は?」
「目的は果たした。村へと帰るがいい。家族が心配だろう?」
「良いのかよ、次は勝つぜ?」
「ふっ、まだ私の方が強い」
魔王が本格的に殺気を消した時、三雄は「じゃあ魔王も村まで一緒に行こうぜ」と誘った。
「…何を言う?」
「別に村が無事だったら四天王連れて帰りなよ。アイツら海を越えられないだろ?」
「…確かに。いいのか?」
「良いって、その代わり人殺し禁止な」
「…お前が無闇に魔物を殺さなければな」
「それは魔物が人を襲わなければだよ」
「ならば私も人が無闇に魔物を襲わなければ見逃すとしよう」
話がまとまりかけた所で待ったをかけたのは姫だった。
「何をやっています!勇者!魔王を倒しなさい!」
「うっせーな、話がまとまりかけたんだから邪魔すんなって、決着は後日だよ。とりあえずここで戦って余波で城下町が滅んでも困るだろ?だからネツトまで帰るから戦うならそっちだよ」
三雄の反論に顔を歪めて怒鳴る姫に魔王が「心地よいぞ姫よ」と言う。
何のことだかわからない姫に三雄が「あー、それも魔王の力になるのか」と言う。
「ああ、負の感情が私の力だ」
「だってさ。とりあえず俺たち帰るから」
ここで妃がムキになって「…まさか!茶番劇だったの!?本気で戦ってないのでは!」と言い出す。
兵士からすれば城が跡形もなく吹き飛んで、殴り合いの余波で瓦礫すら粉々に消し飛んでいるのに何を言うのかという気持ちになっているが姫と2人で「きっとそうに違いない!」「勇者も魔王に取り込まれた」と燃え上がっていて話にならない。
三雄は辟易とした顔で「うっわ…クソウゼェ」と言った後で「じゃあカオロだっけ、代表で魔王に殴られてよ」と声をかけた。
まだ2週間しか経っておらず坊主頭のカオロは「な…何!?」と言って慌てている。
「魔王、殺したら魔王の負け、殺さないようにアイツぶん殴ってよ」
「あんな脆弱な存在を殴れと言うのか?無理だ」
「何言ってんだよ。無理ってのは嘘つきの言葉だぞ。やれば出来る!そう言いながら殴れ」
「触れるではダメか?殴れば必ず殺してしまう」
「うーん…。まあ仕方ないか」
この場にカオロの意思はない。
魔王の強さを証明する為だけのかませ犬でしかない。
半分気絶しながら立ち尽くすカオロの前に魔王が歩み寄ると放つ気のようなものだけでカオロは吹き飛んでゴロゴロと転がる。
三雄は転がっていくカオロを見て「ファール誘う選手みたい」と呆れると魔王も「まったくだな」と言った。
「あれ?魔王サッカー知ってんの?」
「この身体に記憶はある」
「俺、世界杯の時のにわかファンだから応援チームとか無いんだよ。魔王は?」
「無いな、丁度人生の絶頂時に観たから記憶に残っていた」
「へえ、まあいいや。じゃあカオロに一発入れたら帰ろうぜ」
「わかった」
カオロは今の一撃で怯え切っていて首を横に振り続けるが魔王は気にせずに近寄って手のひらで触れるとカオロは「ぐっふぅぅぅっ」と声を出して吹き飛んで行った。
三雄は悶絶しているカオロを見て「わざとらしいけどまあいいや。じゃあ、今度俺が来たら魔王を倒したって証明で魔王が来たら俺が倒されたってことだから。じゃ」と言って帰って行く。
三雄は魔王を誘ってわざと城下町を歩きながら「街の皆さんこんにちは、我々は勇者サードと魔王に身体を乗っ取られたかつての勇者幸坂、現魔王です。街の皆さんには危害は加えないように言いつけてあるのでご安心ください」と始めて、魔王の誕生は人の心の闇がある程度溜まった結果だと説明をして妬みなんかの暗い感情はやめてハートフルピースフルな世界にしましょうと説明をして魔物の発生も土壌汚染や水質汚染が原因だと説明して「ゴミを川に流さない、海に捨てない、毒物を地中に隠さない!それだけで魔物が減りますからね!」と言って歩き、最後には「この俺!勇者サードと今は大怪我を負った勇者ルークスが力を合わせて勇者幸坂を助け出します!だから大船に乗ったつもりでいてください!後は戦闘の余波で城が無くなったのでムカつく姫達を泊まらせてあげてくださいね」と言って城下町を後にした。
「何だあのスピーチは」
「えー、簡単だよ。魔王って悪いやつじゃ無いし、最悪今のままでも幸坂が力を取り戻した!って事にすれば共存可能だし」
「何を言う、お前の村を滅ぼしているのだぞ?」
「魔王が滅ぼしたのか?」
「いや、四天王だ」
「なら村の奴らが負けるわけないだろ?死ななきゃ負けじゃない」
「…最悪は想定しておくものだ」
「そうだな、魔王の最悪は四天王がネツトの村人になってるかもな」
三雄は笑いながらネツトへ向けて歩き始めていた。
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