第18話 城に着いた三雄の説明に罪の擦り付け合いを始める姫と妃に辟易している所に魔王が来た話。

三雄は3日で城に着く。ごちゃごちゃとした前置きは無視して今すぐ逃げろと言ったがダメだった。


「何があったか説明をしなさい」と言った姫の高圧的な態度に苛立ちながら三雄は嘘も方便と思い、「アンタ達が勇者の装備を与えなかった勇者幸坂が、勇者の装備があれば魔王に勝てたのに渡さなかったせいで魔王と相打ちになった」と始める。


姫が慌てて妃を見て「あ…あれはお母様が!」と言えば妃も慌てて「バトラバトルズの人間でもないものが勇者の装備を身に纏える筈もありません!」と返す。


「それは勝手にやっててよ。とりあえず魔王は相打ちになりながら幸坂の事を取り込んだ。今の魔王は幸坂を取り込んだ魔王だよ。魔王は幸坂の身体を使っているから勇者の技なんかも持っていて、ルークスから装備を奪い取った。これがどう言うことかわかる?」


「…魔王の手に勇者の装備が?」

「そうだよ。いい線まで行っていたのに後一歩で勇者の装備が奪われた途端に逆転されてルークスは瀕死、今はネツトで治療を受けている」


「貴方はなぜ無傷なのですか!?逃げてきたのですか!?」

「俺も怪我を負ったが瀕死じゃなかったから治したんだよ。とりあえず今の女神様は勇者の装備に対抗する方法を思案中だから来られない」


「何を世迷言を言います!女神様からもう一度勇者の装備を授かれば良いでしょう!」

「それが出来ねえから困ってんですよ。簡単に言うと、魔王は勇者幸坂の身体を使っているから勇者と魔王のミックスで女神様に準じた力を持ってしまった。今は女神様の配慮でなんとかなってるんです。魔王はまっさらな状態だけどここで女神様が武器を作る能力なんかを使ったら魔王がそれを覚えて四天王に持たせたらそれこそ脅威だ。瞬間移動や超回復なんかもそれ。だから女神様は何も出来ませーん」


段々と言葉が無礼になりつつある三雄は手でバツ印をやって諦めた顔をする。


「そんな!?それなら勇者なのだから玉砕覚悟で挑みなさい!」

姫のヒステリーに三雄は「それで俺死んだらこの世界はおしまいだよ?」と言うが姫は頭を振り乱して「なんとかしなさい!」しか言わない。


三雄は面倒臭さから見捨てちゃおうかなと思ったところで兵士が中に入って来て「あ…あの…勇者様がお見えです」と言った。


「勇者?ルークスは瀕死で動けないぞ?何言ってんだよ!」

「いえ!ですがあの装備は間違いなく勇者の剣と鎧でした!」

三雄は一瞬で背筋が凍り、冷や汗が吹き出した。


勇者の装備を身に纏った者。

それはすなわち魔王だと言うことになる。


「バカや…」

三雄がそう言った時には幸坂は謁見の間に現れていた。


「久しぶりだな」と言って中に入ってきた魔王は三雄を見て「機転と気遣いには感謝する」と小さく言うと姫を見て「もう26かな?かつては十にもならぬ身で差別してくれたな…不思議か?この身体の持ち主の記憶を見させて貰った」と言った。


姫はこの一言で幸坂の記憶がある事を察して「な…、本当に魔王が勇者の身体を…」と言い、妃も「なんと穢らわしい…」と続ける。


「穢らわしい…か。勇者よ、魔王の発生条件は教えていないのか?」

「…言っても無駄だろ」


三雄は臨戦体制の中、魔王の言葉に答える。

魔王は三雄に少し親近感が湧いていて悪い気はしていない。

それは戦いの場で言われた自分も周りから引かれていた事や、先ほど聞こえていた悪事を魔王のせいにして幸坂 聖という人間は勇者の装備を与えなかったために悪に取り込まれたと説明した事から来ていた。


妃達は魔王の発生条件という言葉に興味深く魔王を見ている。


「教えてやろう。魔物は世界の汚れが形取る。海の魔物が増えた時は海に物を捨てすぎて汚れた証拠、そして魔王は人の心の汚さが集まって形取る。今お前達の誰のせいにするかと言うくだらない考えすら我が力になっている!」


この言葉に王達は息を呑むのが三雄にはわかった。


「さて、この身体のマイルールを果たしに来た。この身体の…勇者のマイルールはやられたらやり返す事だ。お前達は勇者を送りつけてお前らが汚したからと捨てて行った城を跡形もなく破壊して行った。その仕返しだ!」


右手をかざす魔王を見て妃が「何を言います!攻め込んだのはそこの勇者!ならば勇者の逃げ帰った故郷を破壊するのが道理!」と声を張る。


呆れた顔の魔王は「国民を見捨てて国なのか?」と言った後で「わかっている。コイツの故郷には四天王を向かわせた。今頃村は無くなっているだろう」と言って三雄に向けて不敵に笑った。


だが三雄は慌てる素振りも怒り狂う素振りもない。

訝しむ魔王が「勇者よ?何故怒らない?何故焦らない。お前の動きは見ていた。走力も何も凄いが本気で走っても故郷に着くのに1日はかかるだろう?」と聞くと「まあ起きてもいない事で怒らない主義なんだよ。それに村の皆なら逃げ出して無事かも知れないしな、家なんてまた建てればいい」と三雄も返す。


「敵わんな」

「そうか?とりあえずここ壊すのやめて決着をつけようぜ」


2人の間で緊張感が高まる。


「よく言う、僅差で私の方が強いのだぞ?」

「それはこの前の話だろ?」


「この前ならば勇者達が居たから連携さえ組めればなんとかなったかも知れないがな」

「なんとかねぇ…、なんとかするには勇者装備を何とかしないとキツいよな」


「それでもやるのか?」

「やるさ。お前に人は殺させない」


「殺すさ!これが乗っ取ったこの身体の願い!やられた事をやり返す!この国の連中が迫害を行ったのだから、私がこの連中を世界から追い出してみせる!食らうがいい!アトミック・ショックウェイブ!」

「ちっ!いきなりかよ!オーラシールド2!」


魔王の手の先で光を放つ大魔法に向けてオーラの盾で発動を防ぐ三雄は王達に向けて「抑えてられんのは少しだ!早く逃げろ!」と言うと兵士達が慌てて王達を逃す。


「…この力、強化したのか?この短期間でか!?」

「鍛えたさ、でも皆が逃げたならいいや、オーラアーマー!シールド解除!」


魔王の魔法を抑えていたシールドを外すと魔法はどんどんと大きくなっていき城を吹き飛ばしてしまう。

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