困窮した世界で口減らしの言い訳に異世界を信じる連中に殺された俺達が勇者と勇者の保険になって魔王を倒しに行った話。
第16話 魔王との決戦で魔王を圧倒した三雄だったが想定外の理由で形勢逆転されてしまった話。
第16話 魔王との決戦で魔王を圧倒した三雄だったが想定外の理由で形勢逆転されてしまった話。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
三雄と魔王の戦いは一撃で地下室の壁が吹き飛んだ。
どちらも退かないクロスカウンターでお互い苦痛に顔を歪める。
「くっ…いってぇ」
「がっ…バトラバトルズに来てここまでのダメージは魔王戦以来だな」
そのまま魔王は右手を前に出し「ヘルファイヤー!」と言う。
漆黒の炎が見えた瞬間に三雄も「舐めんな!オーラファイヤー!」と言って火を放って相殺してしまうと今度は衝撃で上の城が崩落してきて魔王と三雄は生き埋めになる。
「ぐえ…苦し」
「くぅ…」
2人同時に瓦礫から飛び出すと外に出て殴り合いが始まる。
「お前!魔王戦って言ったな!魔王と戦ったんだな!?」
「その通り!私は勇者としてバトラバトルズに転移をして魔物や魔王と戦った!それが女神の願いだったからだ!」
「じゃあ何で魔王なんてやってんだよ!」
「世界がそう望んだからだ!」
話しながら三雄は戦っている。
本気で殴り殴られている。
その間も魔王は三雄の質問に答えていく。
「何でだよ!勇者は二千の魔物を蹴散らして勇者の装備も辞退して単身魔王城に乗り込んだんだろ!?」
「魔王城?そんなものはない。元々ここはあの王達が住んでいて、自ら汚した土地を見捨てて中央大陸に移動しただけだ!それに二千の魔物を蹴散らし?ああ!蹴散らしたさ!それで近くにいた連中から化け物扱いをされて石を投げられ迫害を受けた!
勇者の装備を辞退?女神の願いに従って城に行ったらバトラバトルズの人間でない者には渡せないと言われ身一つで魔王討伐に行かされた!勝てたら人間扱いをしてやるとまで言われてな!」
三雄は愕然としつつも何となく理解が出来た。
あの王達ならやる。
そう思えた。
二千の魔物を蹴散らして恐れられるのもネツトの皆は褒めるし理解もするがあの女神ですら三雄の戦いには引いていた。
三雄は引かれている事に気付いていたが気にしないようにした。そして目の前の勇者は日本人の姿だから倍辛かったかも知れない。
それは勇者の装備にしてもそうだろう。
「わかる!」
「何!?」
「俺も二千の魔物を蹴散らしたら女神に引かれた!城の奴らに故郷を馬鹿にされて最初は謝られもしなかった!」
「それなのになぜ来た?」
「俺が勇者で魔王のお前が魔物を放つからだろ!だから魔物を制御してこの地から出ないようにしたら終われるだろ!改心しろって!」
「出来るか!魔王との約束を私は果たす!喰らえ!大魔法アトミック・ショックウェイブ!」
「馬鹿!?名前がヤバそう!オーラアーマー!オーラシールド!フルパワー!」
目の前に生まれた高温の光を見た三雄がフルパワーで防ぎ切ると目の前の魔王は肩で息をしている。
すかさず「デストロイキック!」と言って魔王を蹴り抜く。
蹴り飛ばされた魔王は立ち上がる事なく倒れている。
三雄は反撃に気をつけながら近づいて「危ねえ、修行しまくって良かった。なあ、魔王と何があってお前が魔王をしてるんだよ?」と声をかけた。
「魔物が世界の澱なのは知っているか?」
「前に聞いた気がする。だからバトラバトルズは空気も水も綺麗なんだよな」
「ああ、魔王は人々の心の澱が形を成していた。生まれた魔王を女神が何とかしてくれと言った理由はこの地に来てすぐにわかった。
魔王は強大な力を持つ赤子のような存在だった。赤子のような魔王を倒す事は躊躇したが、成長すれば手に負えなくなる事は理解していた、倒さねば世界が滅びると思って戦ったが魔王は何故「殺されるのかわからない」「怖い」と言って必死にもがいた。そして戦っている中で魔王と私の違いがわからなくなった」
「違い?」
「そうだ。過度の力を持ち虐げられた。そして魔王が強いと言う事は人の心が汚れていると言う事だ。かつて女神に言われた。この世界を救いこの世界を変えてくれと…たから私は魔王を殺さずに取り込んで新たな魔王となった。この力で私は世直しをする」
「ちっ、倒したくないんだよ!それは後だ!とりあえずお前は戦いをやめて一度魔物を引っ込めろよ!」
「こ…こと…わる…」
魔王が必死に立ちあがろうとする。
三雄は嫌な気持ちになりながらトドメを刺す気になり「オーラソード…」と言って剣を精製して魔王の方へと向かう。
四天王達も魔王を助けたいが魔王に勝てる三雄にはどう逆立ちをしても勝ち目はない。
そんな時、勇者ルークス達が追いついてきた。
「無事かい!?」
「城がねえ」
「あれをあの子が?」
「倒れているのは魔王?黒髪?…人間?」
「サード!魔王!」
ルークスと共に女神が現れた事で三雄の手は止まり「女神様…、知ってたんだな?」と言う。
「…はい」
女神を見て魔王は「女神…久しいな…。俺はこの世界でも蔑まれ虐げられた…魔王の気持ちがよくわかった。だから俺が魔王になった…。女神の言葉に従い、世界を救い…世界を変える」と声をかけ、その後ろのルークスをみて「…あれは保険か?」と言う。
「はい、ルークスもサードもあなたが魔王を倒せなかった時の次の勇者です」
「日本人か?」
「はい」
ここで魔王はルークスを見て「僥倖だ」と言うと手をかざして「我が名は幸坂 聖!勇者として呼びかける!我が装備よ我が元に来い!」と言うとルークスの身体に纏われていた勇者の装備が光を放ち魔王に向けて動いていく。
「何!?」
「僕の装備が!?」
光が目の前に集まった魔王は「…お前の装備ではない。私はかつて城に赴き剣を持ち鎧に袖を通した。その時に確かに私の装備となった。だが黒目黒髪の私を差別した妃達に剥奪され魔王討伐に向かわされた」と言った後で女神を見て「女神よ、装備の代替わりの条件を言うがいい」と続けた。
「…勇者の死、もしくは権利の破棄です」
「私は破棄をした覚えはない。よってこの剣も鎧も私の元に来た。そもそもお前はこの装備の力を引き出せていない」
勇者の装備を身に纏った魔王は立ち上がると傷がすぐに消える。
魔王は説明するように「自動回復」と言う。
そして剣を構えた時、三雄の背中に冷たいものが走る。
先程の大魔法を防いだ時と同じ防御手段に出たが剣はオーラアーマーとオーラシールドを貫いて三雄の腕と肩に一撃が入ってしまい鮮血が舞う。
「がぁっ!?破られた!?」
「硬いな…まさか私の一撃を防ぐのか?お前は危険だ…ここで確実に殺す」
再度振るわれた剣。
だがそれはルークスの身体に刺さっていた。
ルークスは三雄を押し飛ばして代わりに剣を受けていた。
まだ良かった事は押し飛ばした事で狙いが逸れて手足も切断されずに済んだ事だ。
だが致命傷といっても過言ではない怪我。
三雄は即座に魔王の顔面にオーラファイアを放つ。
手で払おうとも払い切れない炎に魔王が困惑している間に「一度逃げんぞ!」と声をかけるとルークスを抱きかかえて「バカ!あんな危険なやつの前に生身で出るなんて無茶苦茶だ!」と声をかけると「…僕も…勇者で…年上で…同じ日本人だからね…。僕の昔の名は藤見 通…よろしくね」と言って意識を失う。
後ろをついてくるダイヴに「オッチャン!ルークス抱えて!」と言ってルークスを渡し、レグオに「アンちゃん!前は俺が蹴散らすから後ろを見て!」と言い、最後にフロティアに「姉ちゃんはとにかく回復!」と指示を出した。
戦いの場に残った女神は勇者の装備に身を纏った魔王を見る。
本来ならばこの姿で、今ほどではないが圧倒的な力で魔王を討伐し、世界を変える力を持つ勇者。
皮肉にも名前に幸せと聖の字を持つ不遇の男。
悲しいくらい勇者の装備が放つエメラルドグリーンの光が眩しい。
オーラファイアがようやく消えた魔王が「女神よ」と語り掛ける。
女神は恭しい姿勢で「はい」と返事を返す。
「言わなかったのだな」
「言えませんでした」
「バトラバトルズをどう思う?」
「私の生み出した大切な世界です」
「わかっている。魔物がいるから約18年経っても世界は綺麗だ。だが人心は魔王とひとつになり見えるようになったが中央大陸、城付近からは汚れた気が漂ってきて我が力になっている」
それは女神にも見えていて心を痛めていた。
「それでも…、愛すべき世界です」女神はそう言うとその場を立ち去る。
魔王は女神の背中に向けて「マイルールに則らせて貰う」とだけ告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます