第14話 見捨てられた村に到着したルークス一行が知った耳を疑う事実と女神がクラクラしてしまった話。

見捨てられた村は女神と勇者の来訪に沸き上がる。

女神は目を潤ませて「皆さん、今までよく耐えられましたね」と言いながら脳内は「コレだよコレ!勇者パーティーと女神が来たらこう!大砂漠を沼地に変える?投擲で偽太陽を倒す?オーラパワー?意味わからん!」になっている。


ちなみにルークスをはじめ村人達も女神の涙は愛すべき民達を思う涙と思って皆感動してる。



「あの水晶の谷を越えられるなんて凄いです!」と村長は喜び「急に魔王の手口が代わり、水晶の谷が出来て13年。こんな日が来るなんて!」と続ける。


「13年も!?そんな…」と驚くルークスに村長は「わずかばかりのもてなしをさせていただきます!今日は疲れを癒して明日に備えてください!」と言った。


ここでレグオとフロティアがある事に気付く。

「あの…13年も水晶の谷を越えられなかったんですよね?」

「はい!あの水晶竜が邪魔をしていました」


確かに水晶竜は強敵だった。

ダイヴが本気で斬り込んでも尻尾を切る事も出来ず、女神の加護が備わったルークスの一撃と合わせてようやく尻尾を切断する事ができた。


レグオの火炎魔法でもあの水晶の鱗は溶かす事も焼く事も出来なかった。

フロティアに言わせると直撃されると回復も追いつけないとの事だった。


「あの…?それにしては肌ツヤがよろしいような…」

フロティアはそう言いながら村人達を見る。

見捨てられた魔王城側の村なのに300人くらいの村民が居て、村人は皆肌ツヤが良く、言い方は酷いが肥満体まで居るし乳飲み子も居る。

とても困窮とは縁遠い村に見える。



「そもそも13年間何を食べてたんですか?」

フロティアの問いに村長は「人間、死ぬ気になればなんでもやれるものですね」と言った。


「はい?」

「食べていたものはホルタウロスやキンカー、後はヘルチキンがこの辺りは徘徊しているので村総出でブチ殺してやりましたよ!」


村長はニカっと笑って力こぶを見せてくる。

弱々しい老人の腕なんかではない。

明らかに歴戦の傷跡が残る戦士の腕だった。


女神は「え?」と思ってしまう。

ホルタウロスといえば牛型魔物の中ではかなり強力な個体で村民如きになんとかなるものではない。


そもそも世界の澱を魔物に変えるシステムを採用したのは女神なので魔物もある程度は女神が用意をした。それが長い年月で独自進化を遂げていき新種が生まれる。

キンカーも元はノラブタンと言う豚型の魔物から始まっていた。


だからこそホルタウロスの危険性は知っている。


「勇者様!勇者様に言うのはお恥ずかしいのですがホルタウロスの野郎は背後と真上の攻撃に対処出来ないんですよ!」

「なので我々がフォーメーションで倒します!まずはあのか弱そうに見える娘を立たせて接近したところで村長が脳天にズドン!」

「それで振り返った所で囮役の娘が背後からガツン!」


「後は振り向くたびに背後から痛めつければ3時間もあれば倒せますよぉ!」

「な!しぶといだけの肉だよな!」

「あはははは!」

「わはははは!」


何と言って良いかわからなくなったルークスが「あの…お野菜なんかは?」と聞くと「ああ!勇者様達はマンドラ大根なんかが食べられるのはご存知ですか?」と言われた。


「は?」

「顔の周りにだけ毒があるのと、引き抜く時に泣き叫ぶ声量に勝てれば無毒になりますよ!」


「…小麦は…」

「まさか麦奪いですか?」

「ええ!奴は食べるわけでもないのに腹に麦を溜め込んでますからね!」

「両手両足をへし折って仰向けにすれば女子供が腹かっさばいて回収してくれますよ!」



ここで女神は真剣な顔で村人達を見た。

初めは見捨てられた村の悲痛な村人と思っていたがよく見ると肌ツヤも良く腕なんかは戦士を彷彿させる。


「やれば何とかなりますよ!昔村に居た村長の甥っ子が残した言葉は本物でしたよ!」

「格言ですよ!勇者様達も是非覚えてください!」


「その言葉とは?」


「「無理は嘘つきの常套句」です。出来ないなんて嘘ですよ!やれば出来ます!」


この瞬間に女神は戦慄した。

その言葉は三雄からも聞いていた。


この村も異常者の村だと即座に理解をする。

なんとか関わらずに済む方法を模索していると村長が「これこれ、勇者様達はお疲れなのだ。ゆっくりとしてもらうぞ?食宴の用意だ」と言う。


村長の言葉に村人達は沸き、小さな子供が「勇者様、僕が倒したキンカー食べてくれる?」と聞いてくる。


小さな子供がキンカーを倒す?

女神は頭がクラクラとしてきてしまう。

そしてこれが三雄ならば喜んで食べたがルークスにその耐性はない。

なんとか魔物を食べる事から逃げようとした時、魔王城からは爆音が鳴り響いて来た。


「何の音だ!?」

「女神様!?」


女神は飛び上がって魔王城を見て「げ…」と言った。


その視線の先には三雄が「待ってろよ皆!今行くからな!」と言って魔王城の壁をぶち抜いていた。



「勇者サードが何故か我々が魔王城にいると思って救援に向かっている音です」

「何!?単身突っ込んだのか!?」

「そんな!無茶だ!」

「早く行ってあげなければ!」


勇者ルークスはこれは好機だと思った。

村長の前に行き「申し訳ありません。後から来ていた勇者が単身魔王城に乗り込んでしまいました!僕達は援護に向かいます!」と言う。


その間も魔王城からは破壊音が聞こえてくる。

村長達はルークス達に「ご武運を」と言って送り出した。

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