第8話 三雄は城についたがそこはアウェイで兵団長に喧嘩を売られたからやり返した話。

三雄は城に着くと随分なもてなしを受ける。

早く到着した事に関してはネツトから走ってきたと言っても信用されずに「どうせ女神様のお力だろう?」と馬鹿にされた。


苛立つ三雄に「さあサード、王に謁見を済ませて旅立ちましょう」と女神が声をかけてその場を誤魔化す。


だが城の中はアウェイ感が凄くて皆三雄を異物のように見てくる。

そこには畏敬も何もない。


「女神様?敵視されてません?」

「…皆警戒心が強いのですよ」


三雄はものは言いようだなと呆れながら着いていくと謁見の間に王と妃、そして姫が家臣達と三雄を待ち構えていた。


「お前が女神様の言う勇者か」

「遅く生まれてきた為に遅れています。遅れを取り戻すように」


そんな喧嘩腰の言葉に三雄は苛立ちながらも「ネツト村のサード。これより勇者として旅立ってきます」と挨拶をした。


ここで敵視の理由がわかる。

姫が「ああやだ、また?子供らしくないわ」と言う。

先行してる勇者も転生者なら多分40前後になる。それが13歳の姿で謁見してきて子供扱いしたらやり返されて面白くないのだろう。


さらに兵団のトップ、団長的な奴が「この勇者が本物か見極めさせてください!」と言い出す。


「どう見ても小童!以前の勇者ルークスには遅れを取りましたがこの小童相手に負けはしません!」


「おいおい、何仲間内で消耗するような事を言ってんですか?」

「ふはははは!怖気付いたか小童!どうせ名声目的で勇者を名乗っただけで戦いの覚悟もあるまい!それにネツト?どこだそれは?国王陛下の温情で大陸に在籍させてもらっているだけの辺境であろう!お前のような子供を恥ずかしげもなく送りつけてくる恥知らずの村に逃げ帰るが良い!」


この言葉に三雄はキレた。

心はいまだに日本人田中 三雄だと思っていたが13年生きたネツトを悪く言われて面白くない。

三雄を鍛える為に、十分な路銀を持たせる為に村の皆は死にものぐるいだった。

それを馬鹿にされて許せるはずもなかった。


「おい、オッサン。取り消せ。百歩譲って俺がガキだってのは構わねえ。だがネツトを悪く言うな。取り消せ」

三雄の放つ圧力に身じろぐ団長であったが団員や国王の前で退く訳には行かずに去勢を張る。


「ほう、そこそこやるようだ。眼力もいい。だが歴戦の戦士である私に挑むのであれば怪我を覚悟するんだな!出発が出来なくなるかも知れんぞ!」

「はぁ…、御託はいらねえよ」


三雄は横で困り顔の女神に「女神様?とりあえずコイツをシメてから出発な。その時間くらいあるだろ?」と聞く。

「…構いませんが殺さないでください」



「努力はするよ」と言った三雄は女神との話を済ませた事で臨戦体制になる。

今まで以上に身体を襲う圧力に団長は逃げ出したくなる。


「どこでやる?」

「お前如きに決闘場は勿体ない」

せめて負けるにしても人目につきたくない団長の虚勢だったが三雄はそれを見抜く。


「いや、決闘場にしようぜ、お前の負け姿を皆さんにご披露だ」

「何!?」


「それに負けた瞬間丸坊主な。別に俺が負けたら罵られながらネツトに帰ってやるよ」

「…な…!?丸坊主…、そんな…」


カチカチのリーゼントがトレードマークの団長はドン引きするが姫がそれを許さない。


「貴方は兵団長!勇者とはいえ子供にいいように言われてなんになります!戦いなさい!」


この言葉で決闘場に通されると、訓練用だろう。安物の木剣と木の鎧が渡される。


見物人達もドン引きだったのは三雄は木製装備なのに団長は本気のフル装備、金に輝く剣と鎧で現れる。


「おいオッサン。なんだそれ?」

「貴様が勇者であればこの程度の戦力差等は気にならないはず!それに魔物達は貴様の装備に合わせるわけも無かろう!」


「散々ガキ扱いしてそれかよ?ダセェ。それで?ネツトを悪く言った謝罪は?」

「あるか!そもそも挑発に飲まれた貴様が悪い!」


「本当に口ばっかだな」

「ふっ!学の無いガキが!」


こうして始まった戦いは一方的だった。

初めこそ身軽に団長の懐に入って一太刀浴びせた三雄だったが剣は三雄の力に耐えきれずに折れる。


外野からは「無理だ!あれは剣を折らないように訓練する時の松の剣だろ?鎧だってかさばるだけで邪魔な防御力なんて有りもしない!」と聞こえてくる。

だが内心団長は逃げ出したい。

今の剣撃一つで内臓が悲鳴を上げていた。


「…マジダセエ。そうまでして勝ちたいのか?」

「言いがかりをつけるな!全部貴様の弱さが招いた結果!田舎者らしく辺境に帰って惨めに生きよ!魔王討伐に貴様のような子供は必要ない!」


「テメェ、またネツトを悪く言いやがったな?骨の2、3本は覚悟しろよ?」

「丸腰が笑わせるな!」


団長は大人気なく剣を振るう。

よく見ると剣には刃がついている。


何がそこまでさせるのか、明らかに殺意のある行為だった。


「甘いんだよ!スーパーモード!」

そう叫んだ三雄はポーズを決めると団長の剣を受け止める。


観客達は三雄の死を確信していた。

それは団長も同じで一気に振り抜こうとしたが剣はポーズを取った三雄の腕で止まっている。


殺してしまったと思ったがピンピンしている三雄を見た団長は「何!?」と驚きを口にし、三雄は「オーラアーマーだよバカヤロウ」と言う。


「オーラアーマー!?なんだそれは!?何故剣が通らない!?」

「知らねえよ、溢れる闘気かなんだか知らねえが鎧化させてみたんだよ!」


団長は「バカなぁ!」と叫びながら何回も剣を振るう。だが一度として三雄は傷つかない。


「ば…バカな…?この剣はかつて曽祖父が地獄谷から持ち帰ったヘルチタニウムから作り上げた豪剣だぞ…」

「お前…、それできて俺には松の木かよ…」


呆れる三雄に団長が「だがお前には剣はない!私の鎧も同じヘルチタニウム製!このままでは引き分けだな!うはははは!」と笑って勝負を終わらせようとしたが三雄は「剣?あるって…」と言って団長を睨みつけた。


「へ?」

「目をかっぽじって見やがれ!オーラソード!」

三雄の全身を覆っていたオーラアーマーから少しずつオーラが右手に集まるとそれは剣の形になる。


「んな!?」

「にひひひひ、動くと死ぬぞ?」

三雄は一気に距離を詰めて心臓の位置にある鎧を切り裂く。


団長ご自慢のヘルチタニウムの鎧はいとも容易く切り裂かれる。

そしてそれだけでは済まずに「あー…なんか後から言われてもやだから殴るわ」と言って鎧越しに団長を殴ると切り裂かれていない鎧には三雄の拳の形に凹み団長は壁まで殴り飛ばされていた。

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