田中三雄が勇者サードとして魔王討伐に向かう話。

第7話 三雄がついに勇者としてネツト村を後にして城を目指す間に女神と話をする話。

三雄は13歳になっていた。

しょっちゅう女神を呼んで進捗やもう1人の勇者について聞くが進捗は「まだまだですね」で、もう1人の勇者に関してはある程度細かい情報を教えてくれて「港に居た大クラゲを退治して船で隣の大陸に行けるようになりましたよ」や「仲間を迎えて大砂漠を突破しました」等と教えてくれた。


そして女神は村長の元に神託を与え、今現在の勇者の後を追って2年半の間に鍛え抜いてから直接魔王の居城を狙うように指示を出した。


村長は信心深い性格で女神の言葉に従う。

まずは近くで評判の者たちを連れてくると三雄に様々な技術を叩き込む。

それこそ解錠技術や隠密の技術といった戦闘外の技術も叩き込み、最後には村の横にダンジョンと行っても過言ではない巨大な建物を作り始めた。


「サードが勇者として成し遂げられるかはお前たちの手にかかっている!」

そう言って老若男女問わず昼夜三雄の為に三交代制でダンジョンを作っていく中で農産畜産は怠れないとこちらも三交代制になり、付近で評判の腕自慢達も三雄が寝る時間以外は全て戦闘技術を叩き込む為に行動させられた。


勇者としてのポテンシャルを与えられた三雄からすれば訓練は過酷だがやれば結果が伴うので耐えられたが、1番キツいのは高齢で死を待つのみの老人達や先日まで遊び友達だった子供達までが三交代制で村の為に働いていた。


皆、女神からの神託をありがたいモノとして感謝すらしていた。


流石に病で死にかけた村民の行動には三雄は「寝ててよ!」と必死に声をかけたが「何言ってんだ、今は余裕かも知れないから心苦しいかも知れないが旅立てば辛いのはサードだろ?いいんだ。俺はここで働いて天国に行くんだ」と言って「女神様、最後にこの仕事を与えてくださった事を感謝しております!」と言って死ぬまで働いていた。


こうして異例の速さで出来上がった建物は村長監修の「わしの考えた最強の魔王城」というモノで各種トラップや謎解きがサードを迎えていた。


そして夜中は双葉と創一との戦闘訓練。


三雄の生活はもはや寝る時間以外は全て…否、寝る時間も食事も全て勇者になる為に徹底された。


寝る時はよく眠れるようにお香を焚かれたと思ったら夜襲の訓練を仕掛けられる。食事は好き嫌いは許されず栄養価の高い虫なんかが出てきたこともあった。


三雄は心の底から村長に打ち明けて村を出ようとした事を後悔していた。


だがその生活もようやく終わりを迎えた。

「明日ネツトを旅立ち、城へと向かい私と共に王に名乗りをあげて魔王城を目指しましょう」


どれだけ待ったかわからない言葉だったが遂に得られた事に三雄は心の底から喜ぶ。

実際、双葉と創一は「最強の村民」のせいで三雄が強くなった実感はないので心配だが村長が呼び寄せた強者達は「サードは間違いなく世界最強の勇者だ」と言っていたので信じる事にした。



「じゃあ皆!行ってきます!」

三雄の出発はそんな感じの軽いモノだった。

双葉と創一からすれば致し方ないが親子としては少し寂しさも残る。


「行っちゃった…」

「な…、無事に帰ってきてほしいな」


そんな横で村長が音頭を取って万歳三唱をしている。


見た目や食生活こそ違うが案外双葉達が暮らしやすいように手が加えられているのか村長達は日本人に近いのか普通に「やぶさかではない」や「くわばらくわばら」等を使う。



三雄は歩きながら姿の見えない女神に連絡をすると女神は三雄の前に姿を表す。

それは、あの日異世界トラックにはねられた日に出会ったままの姿であった。


「なあ、女神様。時間の猶予ってあるの?」

「ギリギリです。城に滞在を求められると間に合いません」


「…本当にギリギリなの?」

「はい。ギリギリまで修行をして貰いました」


「そんなに魔王って強いの?」

「はい」


「もう1人の勇者って大丈夫なの?」

「…まあ…、彼にはこの旅路で見つけた仲間達がいますから大丈夫です。3倍以上の大きさの人喰い鬼の拳に打ち負けない戦士ダイヴ。百の魔物を一撃で焼き尽くす炎の魔法使いレグオ。そして千切れた腕すら蘇らせる治癒魔法の使い手フロティア。人間最強と言っても過言ではありません」


「…そんなに強いのか?まあいいや、じゃあ飛ばすから着いてきてよ」

「は?サード!?」


三雄は本気で走り出すとあっという間に見えなくなる女神は慌てて追いかけて「サード?そんな無理をしてはいけませんよ?」と言うが三雄は無理をした覚えはない。


「基礎訓練とかいって創一に一晩中追いかけ回されたからこれくらいなら平気だよ」

「…このペースだと明日には城に着きますが…」


「あ、そうなんだ。じゃあそうなんだね」

「…では明日城に着くと言ってよろしいですか?」


三雄は「よろしいんじゃない?」と言って走り続けた。


三雄は片っ端から村や街を無視して城を目指す。

路銀は訓練で倒した魔物の素材を村長が売ってきたものや村一丸となって三雄の旅が楽に進む為のモノとして訓練に参加できないものがひたすら金策に走っていてひと財産あるのだが、あの爪に火をともすような日々を見てきた三雄からすると手をつけるわけにもいかない。

別に野宿のやり方も仕込まれていたのでなんとかなる。


夜になると女神がアレコレと声をかけるが「平気ですよ」「やれますよ」と返されて全部1人でやり切ってしまう。


「…せめて寝た後の防犯は任せてくださいね」

「平気ですよ。で一個いいですか?」


「はい?なんでしょう」

「なんで今まで声だけだったのに今は横にいるの?」

そう、女神は今までは呼びかけようが何をしようがたまに出てくることはあったが神託という形で声のみだった。


「魔王城を目指す勇者は今は平坦な一本道に居ますので事情を説明して今はサードを城に案内する道を選んでいます」

「女神様って神様でも同時にあっちもこっちもって出られないの?」


「神はそこまで万能ではありませんよ」

「そうなんだ。じゃあ城まで案内よろしくね」


サードは翌日から猛ダッシュで城を目指す。

その間は雑談なんかをするが女神が話した中で特徴的だったのは向こうの勇者達にサードを迎えに行く話をした所、「また生意気なガキが増えんのかよ」とレグオが言い、勇者が「酷いなそれ」と返すとフロティアが「仕方ないわ。あなた同年代というより親達と話してるような感じなのよ?」と笑い、最年長のダイヴが「違いない。だが5人目が来てくれたらフォーメーションの幅が増えるから間に合ってほしいな」と話していて、最後に勇者が「女神様が逆算してくれたから間に合うさ、今はその後輩が安全に着いて来られるように道を切り拓こう!」と言う話だった。

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