第6話 旅立てなかった三雄が双葉たちと女神に現状を確認する話。

三雄は双葉から殴られずに済む。

むすくれてテーブルに肘をついて「くっそー」と漏らすと創一が頭を撫で回して「残念だったな」と言って笑う。


「笑い事じゃねーよ」

「でも良かったじゃない。女神様のお墨付きが貰えるまで鍛えれば魔王にも勝てるわよ」


「それまで世界が保たねーって」

「それはそれだろ?」


「それとも勇者に憧れでもあるの?」

「ああ、お前って仮面デストロイヤーとか好きだったよな。誕生日に変身ベルト買ってもらってたの覚えてるよ」


「あら、特撮大好きなのは散々見知っていたけど変身ベルトは知らなかったわ。でも特撮と違って魔物は殺しにかかってくるのよ?」

「知ってるよ」


むすくれながら三雄は「倒してきますって行って何年かかるんだよ。その間にこの村は危険に晒されるだろ?それに大概こういうのって実は初動が肝心でこうしてる間に魔王達が力を蓄えたりするだろ?」と説明をする。


創一が「おお、三雄なのに考えてる」と驚き「バカにすんな!」と三雄が怒る。


「なら遅くなって平気か女神様を呼んで聞いてみたら?さっきの話通りなら三雄は呼べるんだよね?」

「確かに、それで修行に打ち込めば良くないか?」


「仕方ない。おーい、女神様ー、疑問に答えてよ」

三雄の呼びかけに「見てましたよ。サードの心配事はわかりましたよ」と声だけが聞こえてくる。


「勇者出立の話ですね。ご安心なさい。勇者はもう1人居ます」

「は?それって初めに言われた別の日本人だよね?」


「いえ、他にも数名転生者を募りました。皆差はありますが佐藤双葉さんと鈴木創一さんがバトラバトルズに降り立った日に生まれてきた者も居ます」


ここで会話の違和感に双葉が気付く。

「女神様?おかしいですよね?」

「ツイン?」

「どした双葉?」


ここで三雄は殴られて「『お母さん』でしょ!」と怒られる。


「女神様は三雄みたいな保険を何人も用意した。でも今は三雄の他にもう1人居るとしか言わなかった」

「…あ」

「あれ?」


「お気付きの通りです。勇者は初めの勇者の他にこちらの田中三雄さんを含めて5人の保険を用意しました」

「…3人足りないな」


「1人は3年前、10歳で名乗り上げに向かう最中に命を落としました。また別の1人は大きな街に生まれましたが人攫いに捕まって逃げる際にボウガンの矢が当たって死にました。3人目は魔王城から城までの進軍ルート上で村そのものが…」


「残機2かよ…。てか女神様の力で無限の命とか死んでも復活とかって出来ないの?」

「世界のルール的にやりたくありません。それを行うと魔王も無限の命を手に入れる可能性があります。死者蘇生にしても魔王が持てば倒した強敵が復活します」


「うわ…マジか」

「女神様、俺ってそれなのにネツトでのんびり修行していていいの?」


「はい。今の勇者は14歳、勇者の武具も身に付けることができます。今は名乗り上げを行いに城を目指しています」


ここで双葉が「質問よろしいですか?」と聞き、女神が「はい。なんでしょうか?」と言う。


「仮に新たな勇者を募ることは出来ないんですか?どうせまだ異世界トラックは人を殺しますよね?」

「…それは難しいです。転移や転生を新たに行えば魔王が真似をして、日本から仲間を増やす可能性があります」


「え?魔王って何者?女神様とおんなじ事がやれるの?」

「そもそも魔物ってなんでそんな危険なのが居る世界なんですか?」


「魔物は世界の汚れが命を持った結果です。あなた方の居た世界でも環境問題はありましたよね?海が汚れ、大地が、空が汚れ。私はその問題を魔物に転化する事で回避したのです。

そして魔王ですが、上位互換ではなく私のする事を見て学ぶように進化してしまいました」


「…なんか仕方ない気がするな」

「うん。川の水も美味しいし魚も沢山」

「食べた動物もキチンと自然に還ってるよな」


双葉達は地球の状況を思い浮かべてバトラバトルズを見た時に「これは仕方ない」と思えてしまう。


「なんか了解です。じゃあもう1人の勇者は勇者の装備を纏って魔王の所に行くんですか?」

「そうなったら三雄は戦わなくて済むんですか?」


「ええ、そうなります。ただ…、このような言い方は良く無いのですが最後の1人、切り札として訓練に勤しんでください」

「わかりました。我々が責任を持って鍛えます!」


「女神様、その14歳の勇者が魔王の所に攻め込んで順調だとしたら何年くらいかかるんですか?」

「…多分彼の性格からすれば3年です」


「じゃあ俺は2年半くらいでタイムリミットが来るんですね」

「そうなります」


「じゃあ大まかに言って1,314,720時間しかないよ!」

「…双葉は相変わらず計算早えな」


この瞬間に双葉は三雄の頭に拳骨を落として「『お母さん』でしょ?」と言う。

三雄は頭に拳がめり込みながら「はいマム」と答えた。

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