第4話 佐藤双葉がバトラバトルズに降り立って10年が過ぎて知った話。
佐藤双葉がバトラバトルズに降り立って1年が過ぎていた。
あの日、バトラバトルズに降り立った日、村長は救済の女神から神託を貰ったといって村の出口まで双葉達を迎えにきた。
村の名前はネツト村。
小さいながらも衣食住に関する店なんかは全て揃っていた。
「女神様からのお達しです。村にいる間には不自由はさせません。命尽き果てるまでお過ごしください」
そう言って甲斐甲斐しくされるがやはり心苦しい訳で双葉達は出来ることをすると言って手伝いに名乗りをあげた。
双葉と言う名前はバトラバトルズでは珍しいので新しい世界に馴染む為にも双葉の名をやめてツインと名乗る事にした。
双葉は医学の知識だけはあったので村人の健康をケアしたが、それだけではなく女神からは治癒魔法を貰っていたので外科手術にしてもやりたい事をイメージして魔法を使う事でケアできていた。
そして10年が過ぎた。
ネツト村は変わらず平和だったが、噂で聞こえてくる世界の話では魔王討伐に向かった勇者が敗北し、負けた勇者を取り込んだ魔王が強化されて魔物達が勢いを増したという話だった。
双葉には男の子が1人生まれていた。
不思議な事に子供はバトラバトルズで産まれたからか、黒目黒髪ではなかった。
その子供ももう7歳になっていた。
その子供が木から落ちて大泣きしている。
「ちょっと?落ちたの?何やってんの!?」
双葉は子供に駆け寄って泥汚れを拭きながら顔を覗き込む。
本当に活発な子で困ってしまう程だったがまさか木から落ちるとは思わなかったし、落ちたこともなかった。
「痛え!双葉!腕折れたかも!」
突然子供はそう言い出した。
子供は佐藤双葉の名を知らない。
子供が生まれる前にツインの名を使っていた。
「は?サード!?なんで私の名前知ってるの?お父さんが教えたの?」
双葉が顔を覗き込むと子供は目を逸らして「やべ」と言った。
「アンタ?まさか?」
「…今はそれよりも腕の治療を…。折れたかも知れないんだよ」
必死に腕を見せてアピールをしてくる息子に向かい、双葉は「流暢な話し振りね。三雄?」と言うと息子は「あれ?バレた?」と言った。
「アンタ何やってんの?」
「色々ありまして…」
双葉は頭を抱えながら診療所を兼ねている自宅に戻って、お手伝いをしてくれているアンナに「ごめん、サードが木から落ちて怪我したの。今日は休診にするからおしまい。帰りにアインを呼んで来て」と頼むとアンナは「サード君がですか?大丈夫ですか?」と心配しながら後ろをトボトボと歩くサードに「痛いの?」と声をかける。
三雄…サードは普段とは違ってしょんぼりしている風に見えるのでアンナはよほど怖かったのかと思い「大丈夫?怖かったのね」と優しく声をかける。
「ありがとうアンナ。怖いのは…これから…」
そう、アンナ越しに三雄を怖い目で睨みつける双葉の怖い事といったらなかった。
「大丈夫だよ。ツインさんの治療は痛くないんだよ」
「うん…わかる…でも怖い…」
アンナは怯える三雄を優しく抱きしめて「大丈夫だよ」と言う。
その姿は天使そのもので三雄の顔は緩み、双葉の圧が増す。
アンナからすれば三雄は7歳だが双葉からすれば旦那と同じ30歳になる立派な男でセクハラは許されないと睨む。
アンナは帰り、すぐにアイン…創一が「サードが木から落ちたって本当か?」と飛んで帰ってくると木の床に正座したサード…三雄の前で椅子に座って足を組んだ双葉が「お帰り」と言った後で「これ見る?」と出したのはメモ用紙に丁寧に書かれた「田中 三雄」の文字だった。
だが筆跡は双葉のものではない。
「は?ツイン?その字…三雄?え?」
アインが思った通り驚いていると「言いなさい」と双葉が促して三雄は「よう、創一久しぶり」と言った。
創一が「お前?三雄か?久しぶりだな」と言った瞬間に特大のゲンコツが三雄の頭に落ちて「久しぶり?へぇ」と言うと三雄は「ごめんなさい、実はずっと俺でした」と言って謝った。
三雄の話によればあの日、異世界トラックに殺された時、目の前に現れた女神と話した時、三雄は我先に自分よりも双葉と創一を助けて欲しいと願った。
女神はその願いを聞き入れて双葉と創一をバトラバトルズに送る手筈になった。
そして女神から三雄はあるお願いをされた。
「お願い?」
「ああ、あの日居た連中の中から俺たちの他にも助け出してバトラバトルズに送った奴がいて、なんでもそいつに勇者になって欲しいって頼んだんだよ。ただ万一ソイツが失敗したり勇者が嫌になって逃げ出した時の為の保険として俺に勇者を頼みたいって言ったんだよ。だから皆と一緒の転移だと10年して勇者が失敗しても俺も30とか過ぎちゃうだろ?だから俺は転移じゃなくて転生だって言われたんだ」
「…そんな」
「まあそれは良いんだよ。日本で殺された俺達が住む場所が良くないとかヤダろ?それに俺はお前達が無事に平和なら構わないしさ、だから転生でもOKしていたら、まさか気がついたら母親が双葉で父親が創一って思わなくてさ、慌てて誤魔化したよ」
「…一応聞くけど何歳から?」
「物心つくと言うか2歳くらいかな?双葉って眼鏡やめたのな?」
…今朝まで「お母さん」と呼んで来ていた息子がまさか元カレとは思わずにショックを受けながらも双葉呼びはダメだと思い、ゲンコツと共に「お母さんでしょ?」と言う。
「はい…すみません」
「もう、メガネは転移した時に身体中治ってて目も良くなっていたのよ」
「それで三雄は勇者をする為に後から生まれてきた…と。じゃあ魔王討伐に向かって取り込まれたって奴が日本からの奴か」
「てっきり私達は勇者が三雄かと思っていたし、魔王に殺されたと思っていたのよ?」
「ごめんな。でもさ、流石に彼女が親友と結婚していてその子供だと思うと名乗り出にくくてさ」
「私達だって生まれてきたあなたを見て三雄に似てるからサードって名前にしようって言ってたのよ?」
「な、まさか本人だったとは…」
こうして3人揃えた事に感謝をして日常生活に戻る事にした。
そして三雄のはこの日から公衆浴場は男湯限定となった。
「俺は恥ずかしかったから女湯は嫌だったけど必死に拒否ったらおかしいと思ってだよ!」
三雄はそう言っていたが、双葉は「怪しいと思ったのよね。ジロジロと胸を見比べてたし。アンナに呼ばれると吸い込まれるように近付いていたわよね」と言って息子を見る目からケダモノを見る目に変わっていた。
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