別の転移者と転生者の話。
第3話 佐藤双葉が死の滑走路に連れていかれて異世界トラックにはねられるまでの話。
佐藤双葉はあの日異世界トラックにはねられた。
異世界転生や異世界転移を信じる気も無かった。
だから単純に親に切り捨てられて殺された事は理解していた。
母親からは幼い頃から自身の跡を継いで小児科医になれと言われて勉強させられてきた。
だが試験には落ちた。
やる気のある人間とやらされている人間の差は歴然だった。
数回の試験の後で母は「看護師になりなさい」「うちの病院で使ってあげるわ」「それで小児科医の婿を取って病院を存続させるの」「うちは地域になくてはならない存在。無くなるなんてあってはいけないの」と言った。
そして母は周りに吹聴して回った。
「身が入らないからおかしいと思ったら看護師になりたかったんですって。仕方ないから学校に入り直させますわ」
この言葉を聞くたびに心は冷たくなって言った。
だが双葉には何も出来なかった。
何もしてこなかった為に自分の人生だから好きな事をして生きたいと思ってもそれは叶わなかった。
好きな事もよくわからなくなっていた。
ただ言えるのは母の用意した道は間違っていると思っていた事だけだった。
春になり学校に入る。
学校は夢に向けてキラキラしている連中ばかりで目が眩む。吐き気がした。
やはりここでもヤル気のある人間とやらされている人間の差は歴然だった。
そんな時に出会ったのは鈴木創一と田中三雄だった。
2人は子供時代からの親友でいきたい進路も将来の夢も無く…。可能なら旅人になって世界中を回りたいと思っていたが今の世論はそれを許さない。
せめて職業をカメラマンや動画投稿者としなければならなかったが2人はそれを拒否した所、恩師から看護師はいつの時代も不足していて人の為になる仕事だからやってみろと言われて入学して来ていたが考えが甘かったと双葉同様に挫折した。
3人はすぐに意気投合して落ちこぼれグループになる。
そしてあっという間に双葉は人生初の彼氏が出来た。三雄から告白をされた日は驚いた。
化粧もろくに知らず、無理矢理やらされたガリ勉でメガネも分厚い。
自信なんてものはカケラもなく、最初は何かの罰ゲームで告白をしてきたと思ったが、話を聞くと三雄は本気だった。
だが母はそれを認めなかった。
付き合っていることはすぐにバレる。
成績不振の理由も創一と三雄のせいにされた。
だから貯金を持って家出をした。
母は娘がたぶらかされたと創一と三雄の家に対して訴訟を起こした。
この結果、困った大人達は口減らしの異世界トラックに子供達を差し出す事で円満解決をしていた。
双葉達は捕まってすぐに死の滑走路に連れて行かれた。
噂には聞いていた異世界トラックが目の前にあり金網で逃げ場を封じられた中で殺される事に気付く。
生気を失った顔のサラリーマン風の男や座り込んで乾いた笑いをあげ続ける女。
今自分はそいつらと同じカテゴリーに入れられていると気付いた時に震えた。怖くなった。
震える手を雄三は強く握りしめてくれた。
双葉は金網の外にいる作業服の連中に向けて「やめてよ!」と言うと創一と三雄も「異世界なんてウソだろ!無いんだろ!」「殺すなんてふざけんなよ!」と声を上げた。
だが無惨にもトラックは容赦なく突っ込んできた。運転手の張り付いた笑顔が気持ち悪かった。
あっという間に眼前に迫ったトラックにはねられ、くぐもった音が聞こえながら意識は無くなった。
目覚めると不思議な場所にいた。
そして目の前に現れた女は自身を「救済の女神」と名乗って双葉を救うと言う。
「救う?」
「はい。あの男の言う異世界転移はでっち上げですが、私の作った世界バトラバトルズでしたら転移できます。そちらで自由に生きてください」
女神は優しく微笑みながら言う。
女神なのに恭しい姿に双葉は好感を持つ。
「一応、あの詐欺師の男が言っていた能力の付与を考えています。それは村民最強です。その力で新しい生活を送ってください」
双葉はその時になって初めて創一と三雄がどうなるのかを聞いていない事に気がついた。
女神に問いかけようとした時、目の前が光り輝き光が晴れると目の前には小さな村あった。
「ここで暮らせって事?」
双葉がそう呟いた時、背後から「双葉!」と名を呼ぶ声が聞こえてきた。
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