第2話 何もなかった男が救済の女神に選ばれて異世界バトラバトルズに赴く話。
妻に裏切られた男は壊れたままだった。
妻は老紳士の援助と自分の稼ぎで男を養ったが段々と邪魔になってきた。
ここで線引きに困るのが、男は壊れていたが要介護では無かった。
食事を出せば自分で食べて排泄も自分の意思でトイレに行く。
風呂も沸かしてやって道具を渡せば1人でやれる。
これではいくらこの世界でも殺せば罪になる。
男の処遇を悩んでいる時、飛び込んできたニュースは異世界カマセーデに送る戦士を募るモノだった。
条件は働く意思のない者と働けなくなった者。
ただ戦士として送るので年齢制限等の条件は設けられていたが男は後1ヶ月すれば働けなくなった者としての条件を満たせるとあって女は喜び、老紳士はおめでとうと祝福をした。
男はそれを眺めながら何を思っていたかは誰にもわからなかった。
久方ぶりに男が気付いたのは雨の降りしきる屋外に居た時だった。
滑走路のような場所だが周りを背の高い金網に囲まれていて前にはトラックが3台程アイドリングをしていて、そのトラックには「異世界トラック」と極太のゴシック体で書かれていた。
周りを見ると自分と同じ年恰好の連中が居て爪を噛んでブツブツ呟く者や「まだ働ける。これは労働災害で動かなくなっただけだ」「私には妻も子供も居るんだ」等と言っている。
他にはまだ二十歳そこそこの子供と言っても過言ではない連中が「やめてよ!」「異世界なんてウソだろ!無いんだろ!」「殺すなんてふざけんなよ!」と言って泣き叫んでいた。
皆色んな言葉を発している。
男は何が何だかわからずに居ると金網の上に置かれたスピーカーから男の声で「ご安心ください。カマセーデはあります。こちらでは動かなくなった身体もカマセーデでしたら動きます。今、意欲の無いあなたもご安心ください。大魔法ハリッター・カマセーデを放ち尊敬の念を向けられれば魔王討伐にやる気になります。何しろカマセーデに行けば無双がお約束されています」と聞こえた後でトラック3台が一斉にクラクションを鳴らすと飛び込んできた。人で埋め尽くされた滑走路の中では逃げ場なんてものはなくすぐに酷い衝撃と共に男は体内から聞こえてくる肉のひしゃげる音と骨の折れる音、そして悲鳴と絶叫を聞きながら意識が遠のいていった。
男が目を覚ますと不思議な部屋にいた。
足元は鏡のような水面だが足も尻も濡れていない。
目の前には見渡す限りの青い空、だが上は星空だった。
男が俯いてここはあの世かと呟くと「いいえ、違います」と聞こえ視線を前に向けると、そこには金眼金髪の女が居た。
男が聞く前に女は「私は救済の女神」と名乗る。
話を聞くとあまりに救いの無い人生だった男に救済をしたいと思い手を出したと言う。
女神は男が心を閉ざしてから先程の死ぬまでの間に何があったかを語る。
男が妻に裏切られ絶望している間に、異世界はあると言う触れ込みで働く意思の無い若者や働けなくなった若者を合法的に異世界に送るとしてトラックで轢き殺すようになった世界。
男が働けなくなり妻がその場に男を送り込んだ事。
この事実に男は怒り女神に天罰を頼むが女神は優しく微笑んで「大丈夫ですよ。間も無く罰は下ります。あの男は介護が必要な身になり耐えきれなくなった女が殺してしまいます。そしてもうあなたは居ない。女は助けてくれる存在もなく孤独です」と言う。
だが男の心は晴れない。
自ら天罰一つ下せない結果に仰向けになって絶望すると無駄な生だったと呟き、結婚もダメ、異世界送りなんて言われて殺されてもダメなんて情けないと呟く。
ここで女神が「安心してください。カマセーデ等と言う世界はまだありません」と言う。
男が疑問を口にする前に「あの帰還者を名乗った男は詐欺師です。ただ殺人に正当性を持たせただけです。そしてそれを金儲けに使いました」と言ってしまった。
だったらただ殺されただけ。
それこそ何の価値もない一生だったと落ち込むが女神が「ですのであなたには世界を救って貰いたいと思います」と言い出した。
「勿論、生きて今の世界に戻るのではなく私の作った世界、バトラバトルズに勇者として赴いてください」
男は何を言われたかわからずに困惑してしまうと女神は「今、バトラバトルズには魔王が生まれてしまいました。まだ名もない魔王ですが魔物達は誕生に喜び徒党を組みます。人間達に害を成す前にあなたに止めて貰いたいのです。その為にそちらの世界にお邪魔をしてあなたを助けました」と続けてきた。
なぜ魔物がいる世界を生み出したのか?
その疑問に女神は「魔物は世界の汚れのようなもの。世界を綺麗に保つと溜まった汚れが魔物になります。それが溜まりすぎると魔王になります」と答えなんとなく説得力はあった。
「あの男が言った無双が何を指すかは曖昧ですが、私もあなたに力を授けます。その力で世界を守り、変えてください」
守り、変える。
何事かと思って聞けば守りは世界を守り、変えるは無理に世界に合わせずに生きやすいように変えて構わないと言う事だった。
男が納得をしたところで女神はもう一つ言った。
「バトラバトルズはまだ未来ある若い世界。万一の保険をかけさせてください」
それは何かと聞いたら万一魔王討伐が成し遂げられなかった時の為に先程の殺人の被害者の中から別に勇者を募りたいと言うもので、男は「構わない」「別に世界を思えば普通のことだ」と言った。
女神はそれを聞き安心してから「あなたをバトラバトルズに転移させます」と言うと男は不思議な空間から大草原の真ん中に座り込んでいた。
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