第17話 卑怯な国・ストーズ

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「暗殺を今すぐ止めろ」


 ナイフの反射から見えるジャッカルに向かって、俺は厳しい口調で告げた。どういう理由であれ、暗殺なんて犯罪は犯してはいけないから。殺すのはモンスターだけにしろ。


「ダメだ、これは俺のミッションだからな」と彼は止める気なんてさらさら無い様子。


 そもそも、彼は今どこにいるんだろう。ここはバルパーよりも栄えていて、立派な塔が沢山建っている。彼はその立派な塔の頂上で腰を下ろして、街ゆく人達を観察している。てか、どうやってそこまで登ったんだよ。


「ツェッペリンにある治安兵士の本部だ。俺の真下にある塔の中」


 ツェッペリンって、セントリー内で最も栄えている都市じゃないか。バルパーより南にあって結構離れているのだが、この短時間でどうやってそこまで向かったんだろう。


 いや、そんなことを気にしている場合じゃない。今はジャッカルの暗殺を止めないと。治安兵士はともかく、ストーズの王を暗殺するなんて前代未聞の大犯罪だ。人生なんて言ってられない状況に置かれるぞ。それは俺だけでなくネオルもジャッカルも。


「……ストーズは卑怯でずる賢い国だ。ストーズに関する逸話も知らないのか?」


 学校でセントリーの歴史について習った時に「ストーズ」という単語を聞いたことはあったけど、特に意味は知らなかったし、小国って知ったのも最近だ。てか、幼い頃からモンスターを倒すという一心で生きてきたから、そんな歴史なんて聞いてない。


「……馬鹿だな、俺が言えることじゃないが。過去にセントリーを征服して奴隷にした悪魔の国だ。結局報復されて滅亡寸前まで追い詰められたが、今は国際的に奴隷が認められていないから、復讐することができなくなった。だからアイツらは逃げているが……俺が殺す」


 話を聞いて分かったが随分と卑怯なことをしている国だな。でも、どうして依頼人は暗殺を依頼したんだろう。国際的に処罰を与えられそうな程のことをやっているのに。


「既に処罰は与えられているから滅亡寸前なんだ。ストーズの国民は既に他国に逃げているからな。だが実際に大虐殺を命令した王の子孫は生き残っている。正確には俺は王の子孫一家を殺すように頼まれた。そうすれば他国に逃亡しているストーズのスパイ共の意欲を破壊できる」


 ……ストーズは恐ろしい国だな。滅亡寸前まで追い詰められているというのに、他国にスパイを送り込んでまた征服しようとしているなんて。だからと言って暗殺を肯定化していい理由にはならないが。


「治安兵士も同類だ。奴らのメンバーの大半がストーズ出身だ。奴らはスパイとして内側からセントリーを破壊していくつもりだろう。それに、何故バーンズ村に若者が1人もいないか知っているか?」


 村長やルイさんは「若い人は出稼ぎに行っている」と言っていたな。その割には金を村に送ってこないから、若い人材が取られるだけ取られた……みたいな話をしていた。もしや?


「そうだ、彼らは治安兵士のメンバーとして働いている。いや、正確には奴隷みたいなものだ。『セントリーを征服する』という真の目標も、外にいる家族の安否も知らされぬまま、ただひたすらに働かされ続ける。これも全て、治安兵士の現リーダーであるラトラ・マグラウトの仕業だ。だから、俺が殺す」


 もう何が何だか分からない。結局のところ、治安兵士は悪い組織で間違いないようだ。モンスターの技術を悪用してセントリーを滅ぼす、秘密組織だから存在自体明かされていない、全ては隣の小国・ストーズが仕掛けた卑怯な戦術。暗殺するのも……一理ある。


「そうだろ。だから邪魔をするな」


 ジャッカルはそう言うと、ワイヤーを巧みに使いながら下に降り始めた。何をしても切れなさそうなワイヤーを片方は塔の頂上に、もう片方は腰に装着してゆっくりと。振り子のように勢いをつけてから、思いっきり窓ガラスに向かって勢いよく蹴りを入れる。


 ガシャン!!


 派手な音と共に割れたガラスの向こうから、黒いローブと白い仮面をした暗殺者が部屋の中に入ってくる。仮面でこそ顔は見えないが、狂気的な眼差しが感じられる。暗殺者は大胆にも部屋に侵入、そして中にいた無実の民を全員手に持っているナイフで殺した。


 1人目はいきなり首を切り、2人目は驚いて腰を抜かしているところで心臓を刺す、3人目は足を刺して動けなくしてから外に投げる、4人目は同様に足を刺して動けなくしてから顔面をボコボコに殴るなど殺し方も様々。ダメだ、ナイフ越しに彼の姿を見ていると吐きそうになる。


 しかしこの部屋には肝心の獲物はいなかったようで、他の部屋へと移動して行った。ジャッカル、暗殺者というからには獲物しか狙わないと思っていたが、無実の民も巻き込んで殺していくスタイルか。これは許されない、どうにかして体を奪わないと。


「エルド、もう俺のことは止められない」


 続いて彼は赤いカーペットの敷かれた高級そうな部屋に入り、中にいた人達を皆殺しにした。彼らは鎧を着ていて槍を持っていたが、それを巧みに空中で一回転しながら避けつつも、ナイフを投げて心臓を突き刺したりと人間離れした暗殺を見せつけられた。


 槍を構えていて近づけない場合は、下から滑り込んで鎧の隙間からナイフを刺し込む。もう1人に対しては槍を腕で受けつつもそこから力を使って突き飛ばし、頭の防具を丁寧に外してからナイフで刺した。


 もうこれ以上は見ていられない。


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