第18話 助けて
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また別の部屋に入った彼は、ワイヤーを使って人の首を絞めたり、上から落としたりしてどんどん人を殺していった。治安兵士のメンバーであるというだけで、色んな人が巻き込まれていく。殺すのは治安兵士のリーダーだけじゃなかったのかよ。
「上の階にいるのは上層部の人のみ。リーダーだけを殺しても、彼らがまたリーダーに成り代わるだけだ。それにこいつらの肌の色を見てみろ」
肌の色……そこまで気にしていなかったが、彼らの肌の色は少し変わっている。色が濃い者もいれば極端に薄い者もいる。よくよく観察してみると髪の毛がない者もいる。だからって肌の色が少し人と違うくらいじゃないか。
「こいつらは古代に悪魔と契約を交わした。だから肌の色が濃くなっている。俺の仕事は悪魔と契約したストーズ人を絶滅させること。何らモンスターと変わらない存在だ」
彼はそう言いながら、上の階にいるストーズ人らしき人々を次々に殺していった。中には「私は何もやっていない」とか「無実の人間を殺すのか」と叫ぶ者もいたが、彼は返事もせずナイフで刺し殺した。他にも「助けてください」と許しを乞う者もいたが、それに対しては「死は助けだ」とだけ返事をして殺した。
正直に言って、狂ってる。
やがて、彼は大広間の方へ向かった。治安兵士のリーダーがいるのはそこだと踏んでいるらしい。さっきからずっと彼の体を奪おうとしているが、彼の精神とミッションを成功させるための気持ちが強すぎるせいか、なかなか成功しない。ネオルが諦めているのも理由の一つだろうが。
「ラトラ・マグラウト。お前の命を奪いに来た」
もはや暗殺の定義が分からなくなるくらいには、正々堂々と真正面からラトラを殺そうとしている。この大広間にも窓はあったから、一旦外に出てまた窓から侵入すれば良かったんじゃないか。いや、何で俺はこんなことを考えているんだよ。
「バルパーで爆発を起こしたのは貴様か?」
「あぁ、そうだな」
立派な大広間の奥の方にある王座に、ラトラは座っている。赤い高貴な服を纏い、立派な白ひげを生やしている様は……まるで王様だ。肌の色は若干黒めだが、ぶっちゃけそれは関係ないだろう。肌の色が黒いが良い人もいるだろうし、肌の色が白くても悪い人はいる。
そのラトラを囲むようにして、大量の屈強な男達が何やら黒い鉄の武器を構えてこちらに向かってきている。剣でもナイフでも槍でもない、それは一体何なんだ?
「これは"鉄砲"と言ってな、お前らのような不届き者を遠くから狙撃するために作られた武器だ。こうやってな」
ラトラが答えた瞬間、その鉄砲とかいう不思議な武器から黒い弾がバンッ……という強烈な音と共に発射された。光を超えそうな速さでこっちに向かってくる弾、だがジャッカルは持ち前の動体視力を活かして避けることに成功した。
その向かってきた弾は壁に当たり、そのまま貫通した。これが人に当たっていたらどうなっていたんだ、人は壁なんかより柔らかいから当たったら一発で死んでしまう。ナイフで滅多刺しにするよりは効率のいい武器と言えるかもしれないが。
「ラトラ・マグラウト。お前のことを殺しに来----」
と、ここでジャッカルは突然倒れた。その倒れた時の感触が……俺に直接伝わってきた。つまり、俺の体を奪い返すことに成功したってことだ。剣を持つ感覚も、地面が足に触れているこの感覚も、何もかも全て取り戻した。
よし、上手くいけば暗殺を阻止できる。
そう思っていたのもつかの間、四方八方から鉄砲の弾がとんでもないスピードで発射され飛んできた。30人もの人が鉄砲を構えている上、弾を補充するのも早いから、避けても避けてもまた次々に撃たれる。バンッ……バンッ……と発砲音は鳴り止まらない。
「エルド、このままだったら3人まとめて死ぬぞ! 体を返せ!」
持っているナイフ越しにジャッカルが訴えかけているが、暗殺を阻止する方が先だ。俺は誰も殺さない、殺させない。しかし抵抗しなければアイツらに殺される。だから殺しはしないが……殴りはする。
持ち前の怪力を使って、弾を避けつつ1番近くにいた男に向かって拳を振るう。殴られた奴は思いっきり吹き飛び、そのまま気絶した。更に近づいてきた奴の足を横から蹴って転ばせたところで、頭をゴンッと殴る。また向かってきた奴に向かっては飛び蹴りを食らわせ吹き飛ばす。
だが俺は人間同士の戦闘には慣れていない。いつも戦っているのは記憶力の乏しいモンスターだったし殺せたから、まだ討伐しやすかった。でも今は人間が相手だ、モンスターでも何でもないから殺せない。
バンッ……!
そう戸惑いながら戦っていると、鉄砲の弾が俺の手首を貫通してしまった。神経に触れたのか、歩けないくらいに激痛が走る。痛い、痛すぎる。右の手首から血が溢れ続け、激痛のせいで立ってもいられずその場に倒れ込んでしまった。
「今だ、確保しろ」
屈強な男達は銃を構えたまま近づいてきたが、何の抵抗もできなかった。激痛の走る右手首は踏まれて地面に押し付けられ、鉄砲の口は俺の頭にくっ付いている。奴らがトリガーを引けば、弾が鉄砲の口から発射される仕組みだ。
さっきまで気絶していた男達も起き上がり、俺の足を何度も何度も笑いながら踏みつける。「馬鹿な野郎だ」とか「これだからセントリー人は」とか。それでも何の抵抗もできずにいた。手首も足首も首も押さえつけられているから。
「顔を見せろ」
仮面を被ったままうつ伏せになっている俺は、抵抗できないなりに顔を伏せたままもがいていた。どうやっても顔は見せられない。見せれば人生が終わるから。どんなに背中を蹴られ踏みつけられても、どんなに頭を鉄の塊である鉄砲で殴られても、意識を保ち続け----
ダメだ
どんどん気が遠くな
誰か助け
てくれ
あああああああああああ!!
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目を覚ますと、俺はラトラを殺していた。左手でラトラの首の根っこを掴んでおり、右手でナイフを心臓に刺していた様子。急いでナイフから手を離し心臓の音を聞いてみたものの……動いていない。彼は、死んだんだ。
「ジャッカル、お前がやったのか?」
「お前だろ。俺はこっち側の世界にいた」
彼に尋ねてみたが、思っていた答えとは違った。
何がどうなったか分からず、状況を理解しようと考えていたところでジャッカルに体を奪われてしまった。彼の持つナイフ越しに世界が見えるが、大広間にいたはずの30人の屈強な男達は皆死んでおり、血を流している。リーダーであるラトラは心臓を刺されて真っ青な顔して死んでいる。
「ミッション成功、エルドのお陰でな」
俺は何もやっていない。
ただずっと殴られて背中を蹴られ踏みつけられ、それでも顔を見せないように必死に抵抗していたら……いつの間にか気を失っていた。
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