第11話 デリーシャ

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「討伐者は……デリーシャではなくエルド・ミラー単独ということになりますが?」


「それでいい」


 ジオンガルムは上級モンスターの中でもあまり討伐された回数の少ないモンスターで、値段を決めるのにも時間がかかった。とりあえずマーナガルムの亜種であることと、そのマーナガルムの希少性の高さから判断して……普通の人が1年暮らせるくらいの大金を手に入れることができた。


 それに追加してリザードは、結構狩られ尽くしているモンスターだが治癒に必要な液体があまり出ておらず、傷は多いが死体もまだ血で汚れておらず綺麗なため高く売ることができた。合わせれば、村の復興には充分すぎるくらいに。


 また、デリーシャのリーダーである彼が高い値段を付けるように認定士の方々にお願いしていたこともあって、いつもより高めの査定になっているらしい。俺には認定士の知り合いとかいないから、正直に言って羨ましい。


 ここは認定士の集う、シティストの中心部にある塔の中。名前は何と言ったっけな、それはもう覚えていないがこの塔は他のどの建物よりも高い。シティストを統治する王が暮らしている家でもあるため、警備は厳重。


 バルパーはそこまで栄えていないから、こんな高くて立派な塔なんて建っていない。だからこういう所は初めて来た。ずっと警備の人たちが俺のことを睨んでいる。デリーシャはここでは有名なパーティーらしいから受け入れられているが、俺は違う。


「ところで、時間はあるか? 少しだけ聞きたいことがある。シティストの方に酒屋があるんだ、別に金は払う」


 彼らは俺と話したがっているみたい。まぁ理由は何となく分かるが。宿も取ってあるため、今すぐここを出る必要はない。外はもう真っ暗、お腹も空いているしここは彼らと話しながらご飯でも食べよう。


 そう思っていたが、ここでネオルがある言葉を発した。


「……逃げろ」


 逃げろ?

 それはどういう意味だ。さっきまでネオルは寝ていたのか一言も発していなかった。森に入った時は起きていたのに、デリーシャの人達と遭遇してからは何も話さなくなった。ネオルが寝ていたせいで、自分だけでジオンガルムを討伐する羽目になった。


「今すぐ飛び降りろ」


 彼はここから降りるよう指示してきたが、さっきも言った通りここはシティストの中心部にある高い塔。50mとかそんくらいの高さ。何で彼はそんなことを指示してくるのだろう。


 何度も言うがここは安全だ、モンスターが出没したとしても、警備の人やデリーシャが手伝ってくれる。ここは王の暮らす家でもあるんだから。


「……デリーシャから離れろ!」


 ネオルが強い口調でそう発した瞬間、俺の体は無意識に窓の方向へ動き出した。足に力を入れて止めようとしても止まらない。ただ窓の方に向かって歩み続けるだけ。やめろ、俺はこんな高さから落ちたくない。


「どうした?」


 変な方向に行く俺を見て、デリーシャからは心配され、警備の人達からは怪しまれている。俺だって止まりたいが、体は止まらない。やがて勝手に剣をケースから出し、柄の方で窓のガラスを割り始めた。やめてくれ、もう分かった。この場所から逃げるから、変にガラスを割るのは止めろ。ネオル。


 そう思っていると、急に体が止まった。俺がネオルに止まるよう頼んだからだろうか。そんなんどっちでもいい。まずはここから逃げないと。変に窓ガラスを割ってしまった以上、もう既に警備の人達には怪しまれている。デリーシャからも同様に。


 今更説明したとしても……嘘をついていると思われるだろう。「ネオルという人が俺の体を勝手に動かした」と説明しても、気が狂ってるようにしか見えないからな。事実なのに。


 既に金は受け取った。だからもうここに用はない。


 ネオルが今まで指示してきたことに偽りはなかった。だから今回も本当なんだろう。とにかく今すべきことは、デリーシャの5人から距離を取ること。それをするためには警備の人達からも距離を取る必要がある。


 だがここからはもう動けない。何故なら警備の人達に出口を槍で塞がれてしまったから。誰も通れないように、5人の屈強な男たちが槍を持って構えている。


「エルド・ミラーを器物損壊の罪で逮捕する」


 残りの屈強な警備の男たちは一斉に俺の方に向かってきた。そりゃそうだ、あいつらの目の前で王の家でもある塔のガラスを割ったから。四方八方を彼らに囲まれた上、デリーシャの5人までもが剣を構えている。このままだったら逮捕されてしまう……どうすればいいんだ。


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「グハッ!」


 俺はまた無意識のうちに、男を切っていた。手に持っていた対モンスター用の剣で、俺の周りを囲っていた4人の男を。モンスターにしか効果のない剣だが、それを鈍器として使用したみたいだ。足元には人間の死体が転がっているし、手は血塗れ。


「今のは俺じゃない」


 そう無意識のうちに呟いてしまったが、彼らは聞く耳を持たない。当たり前だ、確実に俺が殺した所を見ているんだから。屈強な警備の男たちはデリーシャの5人を避難させようとしているも、そのうちの3人は断っていた。


「早くミラーを捕まえろ!」

「エルド・ミラーは殺人犯だ!」


 どうなってんだ、俺の体は。剣を持つ手は震え、足もすくんで動かない。でも何もしなければ俺は捕まる。本当に何もしていないのに。いや、意識が戻った時にはちょうど男を刺し殺していた瞬間だったから、俺であることは確かだ。俊敏な動きをするモンスターがやった訳でもない。


 とにかく、今は何とかしないと。


 俺は地面に落としてしまった剣を拾い上げ、助走をつけて窓から飛び降りた。もうこれしかない。能力を使って上手く逃げ切るしか、方法は無いんだ。


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 ここで俺は目が覚めた。

 どうやら俺はバーンズ村の村長の家で寝ていたみたい。手も足も震えているが、血の汚れは付いていない。一生消せそうになかった血の生臭さも、全くない。


 ベッドの横の机には、ジオンガルムとリザードを討伐した時に受け取ったお金が置かれてあった。ということは、討伐したことは本当なのか。


「どうやら悪い夢を見ていたようだね。ずっとベッドでうなされていたよ」


 ここでネオルの声が聞こえた。悪い夢を見ていた……ベッドでうなされていた……つまりさっき見た光景は全て夢だったのか。何だ、安心した。流石の俺でも無意識に窓ガラスを割ったり、人を殺したり塔から飛び降りたりはしないよな。


 ということは、俺は1人でジオンガルムとリザードを討伐したのか。だってデリーシャなんていうパーティーは聞いたこともないから。俺が知らないだけかもしれないが。とりあえず大金は手に入ったんだ、村のために渡しに行こう。


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