第10話 独りで討伐したのか?
----------
「サタナとフィンは奴の前足を、マイトとソールは後ろ足を切れ。俺は頭を狙う!」
ガルと呼ばれる赤髪のリーダー格の男の命令で、5人は一斉に動き出した。凄い、討伐パーティーの強力な連携は。彼の命令に従って正確にジオンガルムの足を切っていく。所々がマグマのように赤く発光している、黒で四足歩行の巨大なモンスターの足からは血が溢れ出ている。
上級モンスターで、緑や自然に包まれたマーナガルムとは違い、ジオンガルムは発熱性を持っているみたいだ。周りの木の葉は溶け、やがて発火する。しかし何故か人間には発熱の効果はないのか、近付いたところで熱くも痒くもない。皮膚が焼けることもない。
とはいえ上級モンスター、高級な剣を持っていた彼らでも頭は簡単に切り落とせない。両足は完全に切り落としていたが、上級モンスター特有の治癒性のせいですぐに足が回復して元通りになっていく。
つまりは、攻撃し続けなければ奴は倒せない。攻撃をし続ければ奴に回復して部位を元通りにする能力を使わせないまま押し通すことができる。しかし、今のままでは強い5人組でも切り落とすのが精一杯で、すぐに回復されてしまう。
「くっそ、力を使ってもいいんじゃないか」
「ダメだ、一般市民がいるからな」
彼らは戦闘中でも言い争っている。さっきから考えていたが、力とは何のことだ。俺みたいに能力を向上させたり出来るのか? 彼ら5人全員がか?
とにかく俺には何の命令も下されていない。そりゃデリーシャとは関係ない一般市民だから仕方ないか。でもずっと見ているだけじゃ気分が悪い、だって俺はジオンガルムを討伐しに来た討伐者だから。一般市民ではあるだろうけど。屋根を越える高さでジャンプできる一般市民なんて存在しないか。
まずは自分にできることをしよう。
俺は素早く背後に回り、その巨大な四足歩行のモンスターの背中の上に乗った。今の俺なら軽く地面を蹴るだけで、簡単に飛び跳ねることができる。それを応用すれば、奴の体の上に乗った状態で振り落とされないようにバランスを保つことも可能。
ケースから剣を取り出し、それを奴の背中で軽く振っていく。そうするだけで奴の体には大量の切り傷が瞬時に付いていく。回復して治癒する前に何度も何度も繰り返して。ジオンガルムに疲れるという概念があるかどうかは知らないが、流石に体を治癒するのにも体力を使うだろう。
「危険だ、今すぐ降りろ!」
赤髪のガルにそう言われてしまったが、君たちデリーシャと違って俺には特殊な能力があるから大丈夫だ。俺を振り落とそうと辺りを縦横無尽に駆け回るジオンガルム、だが落とすことはできない。何故なら俺がバランスを崩さないように剣を背中に突き刺して立っているから。どんなに傾こうとも関係ない。
「グララララッ!」
やがて疲れてきたのか、ジオンガルムは走るのを急に止めてその反動で俺を吹き飛ばそうとした。しかしそうするのは何となく察知できている。剣にしがみついてそれを対処し、逆に奴の頭の上に飛び乗ってやった。
ここからは簡単だ。
ジオンガルムの弱点は分からないが、大体頭か心臓を貫けば死ぬ。それは人間でも同じだろう。ゴブリンとかスケルトンとかオークは独自に別の弱点を有するが、どちらにしろ頭と心臓を切られたら死ぬ。だから今回はそれを狙う。
背中の筋肉は厚くて切るのに時間がかかるだろうから、俺は頭を一気に切り落とす方を選ぶ。首は足くらい細い。さっきから彼らも切り落としていたし、これなら俺にもできるはず。今は能力を使っているんだから尚更。
頭の上から器用に首の付け根に降り、そこから首周りを1周するようにザクザクと切りながら進んだ。振り落とそうなら剣を深く刺してしがみつき、あらゆる方向に体重をかけながら、回りながら切る。
切り終えたら、後は首の中心に向かって骨を避けながら一直線に剣を刺し込むだけ。これをすれば大体のモンスターは死ぬ。これをするには力が必要だったが、力も増強されているため楽々と遂行することができた。
外からは見えないが「硬いところに当たった」と手応えを感じた瞬間、ジオンガルムの口から大量の血が溢れ出た。これは大体、モンスターの死んだ合図だ。その血もまた生えている草木を溶かしていくのだが、どういう訳か人間や人間の着ている革とかには一切反応しない。
「……1人でジオンガルムを倒したのか。この目の前にいる男が」
金髪の男は戸惑いながらもそう呟いていた。無理もない、50年に1回出没するかしないかといった貴重な上級モンスターなんだ。それをたった1人で討伐した。まぁ不思議な能力を持っているからだが。後は頭の中にネオルがいるから……ってネオルはどこにいるんだ。
「……さてと、死体を運ぼうか。もちろん死体は君のでいい」
赤髪の男は余裕そうにジオンガルムの巨大な死体を持ち上げる。空気のように軽くなっていたとしても、それを森の外に持っていくのは難しい。巨大すぎて木にぶつかったりするから。だから死体を小分けにしておいた。ゴブリンとかなら傷が少ない方が喜ばれるが、上級モンスターならあまり関係ない。
木の影に隠してあったリザードの死体も小分けにして、彼らの持ってきた台車に乗せた。俺は討伐することにしか頭が回っていなかったようで、死体を取引場のところまでどう運ぶかとか考えていなかった。前回は小柄なゴブリンで、すぐ近くに集落があったから、まとめて背負っていくだけでよかったけど。
台車に乗せて運んでいる途中、彼らが何かを小声で話しているのが聞こえた。普通だったら聞こえないくらい距離があるが、集中力が切れていないせいで丸聞こえだ。
「彼の近くだと能力が使えない」
まぁ、何のことを言っているか分からないから無視したが。
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます