第9話 謎の5人組パーティー

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 ジオンガルムはまだ森から出てきていない。いや、既に森から出てきていて他の討伐パーティーに討伐されているのかもしれない。しかし持ち場を離れることはできない。だって、リザードの死体があるから。死体を置いていったら他のパーティーに横取りされてしまうかもしれないから。


 ぶっちゃけリザードよりもジオンガルムの方が希少だが、万が一ジオンガルムを討伐できなかった時はこの目の前に倒れているリザードが金になる。手ぶらで帰ったら、遠くまで行くための旅費も出してくれた村長にもルイさんにも申し訳ない。


 失敗しても経験にはなる、俺はそう親から教えられてきたが……そういう問題じゃない時もある。俺個人の問題で言えば経験になるが、討伐に直接関わっていない村長やルイさんからしたら、ただの損だ。


 とりあえず、リザードの死体を先にどうにかしないと。そう思っていると、遠くから人間の話し声が聞こえた。会話から察するに、同じくジオンガルムを討伐しに来た連中だろう。


「ジオンガルムはここら辺に出没予定らしいな」

「準備はできているね」

「力を使わなくとも、5人なら討伐できそうだ」


 不思議な会話をしているが、やはり彼らはジオンガルムを討伐しに来たパーティーなんだろうな。姿はまだ見えないが、5人組ということだけは分かった。とりあえずリザードの死体を森の中に隠し、俺は川辺で剣を洗っているふりをした。リザードの手柄を他人に奪われたくないから。


 討伐し終えた後のモンスターの死骸は、何故か空気のように軽くなる。どんなに巨人やリザードのように巨大な体をしていようとも、生きている間は重いが死ねば軽くなる。原因は未だに解明されていない。


「おっと、先客がいたみたいだな」


 ここで俺は気付かれた様子。目の前には男4と女1の5人組パーティー。赤髪の男がリーダーぽいな。皆高級そうな鎧を着ている。とりあえず俺は何も知らないふりをしながら、彼らに近づき会話を進める。


「貴方たちもジオンガルムの討伐を?」


「そうだ。そういう貴方も、1人で?」


「えぇ」


「ところで、リザードの死体は?」


 ……何故だ。

 何故だか分からないが、目の前にいる女性に、俺がリザードの死体を隠していることが知られてしまった。何でだ。俺はキチンと死体を森の中に隠したし、剣に付着している血だけではそれがどのモンスターの血か分からないはず。


「貴方の足にリザード特有の分泌液が付いている。それに剣にリザードの血が。1人でリザードを倒すなんて強者」


 ……目の前にいる女性は血でモンスターを見分けられるような人間だった。恐ろしい、セントリー内にこんな人間がいたなんて。血だけで判別をつけられるとか、学者とかそういった分野の方が活躍できるんじゃないか? それとも兼業か? なら納得かもしれない。


「俺たちは外道な集団じゃない。別に金にも困ってない。だから死体は奪い取ったりしない……が、条件はある」と、赤髪の男は持っていた剣をその場に置き、俺にある提案をし始めた。




「お前は何者なのか、それを詳しく教えてくれ」




 俺が何者か、俺はエルド・ミラー、今年で22歳。エボリュードという討伐パーティーに所属していたが最近追放された。理由は単純に「必要ないから」とか。詳しくは聞いてない、何故ならあれ以来彼らに会っていないから。


 それと、頭の中にネオルという男がいる。説明し難い存在なんだ。人格、別の人格といえばいいのか。体は1つだが、心は2つある。そんな感じなのか。自分でも分からない。ところで、何でそんなことを聞いてくるんだろう。


 と、ここであることが判明した。


 いつもならちょうどいいタイミングで助言をしてくるネオルの声が一切聞こえない。こっちから呼び掛けてもだ。ネオル、返事してくれ。結構今はピンチだ。彼らからは謎の覇気を感じる。何なら怖くて返事できそうにない。


「何者か答えろ」


「……エルド・ミラーですッ」


 赤髪の男は川辺に置いた剣を拾い上げながらもそう言ってきた。流石に何も答えないのはまずいため、名前だけは答えておいた。怖すぎる、それにタイミングが合っていないのかネオルの声がまだ聞こえない。何で、ここぞと言う時に限って。


「分かった、エルド。君1人で討伐するのは危険だ、俺たちも手伝おう。死体は全て君に渡す」と赤髪のリーダー格の男は俺に提案を持ちかけてきた。いいのか、逆に。俺はモンスターを討伐し、死体も手に入れたい。その条件なら----


「何言ってんの、ガル。ここはデリーシャだけで討伐すべきでしょ」と、銀髪の男は強めの口調でそう言い出した。まぁ、そりゃそうだ。


「いや、エルドには素晴らしい力が備わっている。リザードを1人で倒したんだ、どうやったか気にならないか?」


「そりゃ気になるけど……」


「別に俺たちに儲けは必要ない。必要なのは技術と力だ、知名度も要らない」


 銀髪の男と赤髪の男の言い合いは終わった。結局俺に全ての死体を渡すという条件になったみたい。何でそこまでして俺に死体を渡してくれるのだろう。金と知名度は必要ないと言い切るパーティー、何だか逆に信頼できるな。


 というか、彼らはさっきデリーシャとか言っていたな。デリーシャってもしかして……?


「俺たちはデリーシャ、セントリーの南にあるシティストって場所を拠点にして活動している討伐パーティーだ」


 ……知らなかった。そんなパーティーが南の方で活動していたのか。にしても、知名度も金も要らないとわざわざ公言しているということは、逆に有名で儲けているパーティーなんだろうな。こう思うのは俺の勘だ、色々なパーティーを目の前にしてきたからな。何となくだけど分かる。


「グラァァァァ!」


 大地の揺れる程の大きな咆哮が辺りに鳴り響く。普通のモンスターじゃ出せっこない鳴き声、これはもしや……ジオンガルムか?


「気をつけろ! 奴は上級モンスターの中でも上位の強さを誇る。気を引き締めろ、エルドも含めてな」


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