第8話 ジオンガルムを討伐せよ!
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「見事、本当に素晴らしい」
村に帰り、ゴブリンの死体で得た金を全て村に寄付すると伝えたら村長は手を叩いて喜んでいた。まぁ、そりゃそうか。別に俺は金に興味なんかない、ただ生活に必要な最低限の金は欲しい。でも今は村に住み込みで働いているから、金とかは特に必要ない。
「戦闘から帰ってきたばかりで申し訳ないが、もう1個だけ任務を頼みたい。ハルマーナという都市を知っているか?」
ついさっきゴブリンを倒したばかりなのに……とは思ったが、別に疲れている訳でも怪我している訳でもないし、何ならモンスターを討伐しまくりたい気分だから喜んで受けよう。俺の今の職業は討伐者だし。
そしてハルマーナというのは、セントリーの西から南の方にかけて広がっている大きな都市。確かシティストとくっついていたはず。別の小さな都市・カマルラの隣にあり、今俺たちが暮らしている都市・バルパーはカマルラの隣にあるから、そこまで距離は遠くない。
「ところでゴブリンを倒すのに、どれくらいの時間がかかった?」
「……大体3分くらいです」
「君は素晴らしい存在なんだ。一か八かだが、遠くにいる上級モンスターを討伐して、それで一攫千金を狙ってみないか。ちょうど新聞に載っていたのだが、ハルマーナに上級モンスターのジオンガルムが3日後に現れるらしい」
セントリーという国には新聞と呼ばれる、情報をまとめた紙が売られている。そこにはセントリーの国に関する情報や、各地で行われている風習や出来事、そして上級モンスターの出没情報が載っている。
この新聞というのは一般市民でも上級階級でも誰でも見ることができるため、討伐パーティーに所属していた時は毎日新聞を読んで、上級モンスターを討伐しまくっていた。あの頃は懐かしいな。バーンズ村には新聞が届かないからすっかり忘れていた。ついでにこの新聞は俺が会計士を呼ぶ時に都市に寄って、その時に購入した。
それでジオンガルムというのは、上級モンスターの一種で……とても珍しい個体。シティストやポリスタットの森に生息しているとされる、マーナガルムという巨大なモンスターがいるのだが、それの亜種にあたる生物。『月を食べるほど巨大』といった逸話があるマーナガルムに比べて『太陽を食らう大きさ』という逸話があり、その攻撃力は段違い。
というか、そもそもマーナガルムというモンスター自体が珍しいのに、その亜種にあたるジオンガルムの出没情報がもう載っているなんて。これは早く行かないと先を越されてしまうな。
俺1人で討伐できるような代物じゃないが……物は試しだ。失敗しても経験にはなるし、行ってみよう。それにジオンガルムは上級モンスター、ということはセントリー中の討伐パーティーや討伐者がそこの地に集う。中には……あの日以来見かけていないエボリュードの3人もいるかもしれない。
「行ってみます」
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ジオンガルムが出没するとされている日、俺は既に現地の森に着いていた。上級モンスターは群れでなく単独で動いているから、誰よりも早く討伐しないと意味がない。だから誰にも先を越されないように……とにかく早く来た。
ここはハルマーナの南、シティストとの境にある川。森の中にあるため、お昼時なのに真っ暗だ。新聞には『シティストとハルマーナの境の川に出没予定』と書かれていた。川は他にも沢山あるが、森に囲まれているのはここら辺しかない。
マーナガルムもジオンガルムも、普段は森の奥で暮らしている。だから外に出ない限りは誰も倒せない、だって中に入ったら人間は手も足も出ないから。真っ暗な環境で慣れない森、そこで戦ったらゴブリンにだって勝てない気がする。
「不安かい?」
俺の頭の中にいる彼、ネオルはいつもみたいに優しそうな声で俺に尋ねてくる。不安といえば不安だな、だって俺は独りだから。討伐パーティーからは追放されたし、特にこれといった友達はいない。だから独りでモンスターと戦わなければいけないんだ。
「独りじゃない、僕がいる」
確かに……一応ネオルもいたな。彼は俺とは違う人格で、何故か俺の中にいる。未だに原因は解明できていないけど、とても頼りになる存在だ。ゴブリンを倒す時も手助けしてくれたし。今回もできたらお願いしたい。
「来た……」
ネオルの声と共に、俺は背中のケースから剣を取り出す。実はこの剣は新たに買った物。村のために全額寄付したのだが、ルイさんが「新しい剣の方が色々と良いでしょ」と言ってきて、新しく剣を買うことになった。力があるから剣は必要ないとは思ったが、効率も上がるしその方がいいだろう。ついでに鎧は買ってないし着てもいない。
巨大な足音と共に森から緑色の生物の体が出てきた。まだ顔は見えないが、人の何十倍もの大きさはある。これが……ジオンガルムか? 新聞には絵もついておらず文字だけだから、実際どれがどのモンスターかは分からない。
「……これはリザード。多分だけど」
森から出てきた緑色のモンスターのことを、ネオルはリザードと呼称した。リザードというのは、確か川沿いに生息する上級モンスターで、鋭い爪が特徴的。よく見てみると、目の前の緑色の生物にも鋭く光る爪がついている。それが何で今ここに?
いや、そんなことはどうでもいい。どちらにせよ上級モンスターなんだ。ジオンガルムの方が希少だが、こいつでもいい。上級モンスターだ、手強いだろうが前みたいに能力を使えば一瞬で倒せるだろう。
俺は剣を右手に構えたまま、川の向こうに立っているリザードに向かって突進した。丸石だらけで進みづらかったが、それは持ち前の能力で無視した。まずは弱点とかを考えるよりも、その鋭い爪をどうにかしないと。こいつで引っかかれたら、ひとたまりもない。
とりあえず、俺は剣で奴の右腕目がけて横から振り切った。能力は発動されているようで、軽く横からやっただけなのに、鋭い爪のついた緑色の肉体は血を垂らしながらその場にボトンと落ちた。真っ白な骨までも切ってしまった様子。
これならいけるな。
その調子でリザードの背後に回り込み、右足と左足を同時に横から思いっきり切った。すると、ジャキ……という爽快な音と共に、簡単にリザードの足は切れてしまった。よし、もうトドメもさせる。後は、リザードの背中の骨に向かって思いっきり剣を振り下ろすのみ。
ザクッ
奇怪な音と共に、リザードの骨の近くに入っている神経が断ち切れた音がした。背中の骨にはモンスター特有の神経が入っており、そこら辺を断ち切れば死ぬ。上級モンスターであってもそれは同じ。通常の剣なら骨が邪魔してそこまで深く入らないが、不思議な能力を使った俺には何だってできる。
これで、リザードは討伐した。
問題は、ジオンガルムだ。
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