第3話・こういうトコロですよ本当……!!
どうしましょう。
どうしましょうどうしましょうどうしましょう!
もう全身三周くらい洗ってるんですが!?
えっこれもうそういうことですか? そういうことをすることになったってことですか!?
えっ、いや、無理ですってそんなの。こういうのはほらもっと予習に予習を重ねて余裕の余の字でできるようになったらするもので…… 。
というか首にキスされてましたよね!! あぁぁああやっぱりシャワー浴びてから寝るのが正解だったんですね……こういうトコロですよ本当……!!
これでもしこれ以上私がみっともないトコロを見せたら……もう破局100%じゃないですか……はぁ……これ以上幻滅されることなんてないと思っていたのに……底には底があるんですねぇ!
一旦。
一旦、湯船に浸かりましょうか。いや~ホテルってすごいんですねぇ。あー気持ちいい。リラックス。リラックスしてとにかく思考を――
「絹枝ちゃん」
「は、はいぃ!」
突然、スモークガラスのドア越しに浴室へ響く三上さんのお声。
びっくりしたぁ! 待ってるって言ってたじゃないですか! 反則ですよ!
「湯船、浸かってるの?」
「あっはい。溜まってたの見て、つい……」
「あとで一緒に入ろうと思って……沸かしといたんだ」
「!!」
えっこれ三上さんが用意してくれてたんですか!? ホテルの粋な計らいじゃないんですか!? なに呑気に浸かってんですか私!
「ねぇ。だから私も、入っていい?」
「ちょ、ちょま、ちょちょちょっと待ってくださいもう出ますので!」
「……ん」
そんな……そんな寂しそうな声を出さないでください三上さん!
……わかりましたよ。決めればいいんですよね、覚悟を。幻滅されてフラれる覚悟を!!
×
「お、おまたせしました……三上さん?」
諸々の身だしなみを整えてから意を決してバスルームを出ても、三上さんはベッドで横たわったまま反応がありません。
あぁ、良かったぁ。いや、別にそういうことをするのが嫌っていうわけじゃないんですよ、ただね、ほら心の準備とかいろんなことの予習が必要でしたから。今日はね、はい、もう寝ます。
「っ」
もう一度ベッドに乗り込み離れた場所で就寝しようとしたとき、ゴロンと転がって距離を詰め、再び私の上に跨った三上さん。
「起きてたの、ですか」
「寝られるわけがないでしょう? ……こうでもしないと、絹枝ちゃん逃げちゃうから」
「……」
まんまと。ってわけですね……我ながら単純さに呆れます……。
「髪の毛、おんなじ匂いがするね」
まだ乾ききっていない私の髪を手のひらで遊ばせて。
「体も」
鎖骨から首筋を鼻先でなぞらせて。
「んっ……」
思考が、停滞して。心中が暗転して。
彼女の瞳が優しく、私を洗脳して。
「……ダメ?」
再び重なる、私と彼女の視線。
「……ダメじゃ、ないです」
初めて重なる、私と彼女の唇。
×
歯磨きの音。
着替える時の、布がこすれる音。
シャワーの音。
ドライヤーの音。
どこか聞き覚えのある生活音の連続が、徐々に意識を覚醒させて――
「ん……んん?」
えっ、うわ、あれ? うわー朝チュンってこの世にマジで存在したんですね……!
「絹枝ちゃん、おはよ。」
「お、おはようございます」
いやそんな柔らかい微笑みで私を包み込まないでくださいよ、こっちは顔見られませんよ!
「コーヒーあるよ。どう? 」
「あ、あの……いただきます」
すごい……やっぱり慣れてらっしゃる……。
……どうだったかな、私。大丈夫だったかな、緊張し過ぎて最中のこと全然覚えてないんですけど……。とりあえず……夜は超えました……!
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ドリップしたコーヒーが揺れるマグカップを手渡しながら、隣に腰掛けた三上さん。
緊張を落ち着かせるために深呼吸をすると、コーヒーの香りと混じって私達の匂いがしました。
「ごちそうさまでした」
冷ましつつ冷ましつつ、ゆったり味わって飲み終える頃には心拍数もすっかり落ち着いていて。
「ん、お粗末様でした」
私の手からマグカップをスッととって近くの机に置くと、さも当然のように行われた三上さんからのハグ。途端に高まる心臓とかたまる全身。
「ど、どうしました? 具合でも…… 」
「ううん。だって……絹枝ちゃんが……えっちな格好してるの、全然気づいてないから……」
「三上さんも同じ格好してらっしゃいますけど!? 」
確かにバスローブとか初めて着ましたけど! 三上さんもとんでもなくセクシーですけれど!
「わ、私もお風呂行ってきます!」
「うん。湯船はりなおしてるから、ゆっくりしてきて」
「あ、ありがとうございます!」
徹底してますね……事後ですらこの隙の無さ……一体これまでどれほど経験を積んでこられたのでしょう……!
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