第2話・そっちに行ってもホテル街があるだけですよ? 三上さん??

「三上さん、大丈夫ですか?」

 2時間ほどまったり過ごしてからお店を出ると、たった数歩で三上さんは蹌踉よろめいてしまい、慌てて受け止めました。

「ちょっと……飲みすぎちゃった……かも」

 三上さん、かなりお酒強かったはずなのですが……飲み合わせが良くなかったか……というか普通に疲れてるのかな、今日だって仕事終わりだし……。

 と、いうか!

「ごめんね絹枝ちゃん。……重いよね」

「全然です! 全くです! あれだったらおんぶしましょうか!?」

 ここまで体を密着させたの……なにげに初めてでは……? 三上さん体温高っ! しかもなんかいつもより良い匂いするしなんかフワフワしてるし……私のあらゆる部分が貧相なことが露見してしまう……フラれる……!!

「こーんな細い絹枝ちゃんにそんなことさせられないよ」

 ぎゅむっと、腰に回される三上さんの熱い手。思わず体が力みます。

「……三上さん、駅、あっちですから」

 おぼつかない割にはグイグイと明確な意思をもって私を押しながら動いてませんか……?  酔って方向感覚が鈍ってるのでしょうか。そっちに行ってもホテル街があるだけですよ? 三上さん??

「ねぇ、絹枝ちゃん」

「はい」

「……ちょっと……疲れちゃって。少しだけお休みして行ってもいいかな」

 そ、そんなにグロッキーだったなんて! これだから私は!!

「もちろんです!」

「…………ごめんね」

「謝らないでください! 三上さんの体調がなによりも最優先です!」

「…………ありがとう」

 三上さんの誘導に従ってホテルに入ると、眼前には大量のディスプレイ。なにこれ、どういうことです? 普通に受付行っちゃっていいんです??

「あはは……えっと……すみません、初めて入るもので」

 ジッと。こちらを見つめる三上さんの視線に気づき変に格好つけず白状すると、彼女の瞳が柔らかく緩みました。

「初めて? 本当に?」

「胸を張って言うことではありませんが、正真正銘の初めてです」

「そっか」

 え、今ちょっと笑いました? 二十三歳にもなって入ったことないとか(笑)って思いました!? これ原因でフラれるんですか!?

「部屋、どこでもいい?」

「はい。寝るだけですし」

「……ふぅん」

 私から離れた三上さんはディスプレイへと近づき、なにやらボタンを押すと今度は受付へ。ほぼ無言でのやり取りがサクッと終わり、入浴剤やアメニティを手にしてこちらへ戻ってきました。そしてエレベーターへと向かう彼女に私も続きます。

 ……でも。そう、ですか、そうですよね。……三上さんは、あるんですね、経験。同い年なのにこんな差があるなんて……あぁ……穴があったら入りたい……。

「…………」

「…………」

 三上さんが鍵を開けて部屋に入ると、そこは白を基調として落ち着いた……普通にビジネスホテルとかでもありそうな雰囲気でちょっと安心。

 あんまりラブホラブホしてると意識しちゃうでしょうし……三上さんがお休みするために入っただけなのに。

「……それじゃ、お休み」

「はい。お休みなさい」

 コートをハンガーにかけてジャケットを脱ぐと、そのままベッドへダイブした三上さん。

「……」

 さて。寒いところから温かいところに入ったからでしょうか、私も今猛烈な睡魔に襲われています。歯磨きだけして寝ましょうか。距離開けたら私もベッドで寝て良いですよね?


×


 歯磨きの音。

 着替える時の、布がこすれる音。

 シャワーの音。

 ドライヤーの音。

 微睡みの中で断続的に聞こえてきたそれら。

 些細な生活音。目覚めるには、至らない。

 なんて、惰眠を貪っていた私の上に――影。

「…………みかみ、さん……?」

「絹枝ちゃん、いいん、だよね」

「ひんっ!」

 仰向けで寝ていた私の上にまたがって膝立ちしている三上さんが、こちらにパタンと倒れると同時に、首筋に生暖かいこしょばゆさが奔りました。

「私と絹枝ちゃんは恋人同士で……ちゃんと、付き合ってて……今、ホテルにいる。何も間違ってないよね?」

 間違ってはいないというか……でも……ダメというか……こんな急は良くないというか……!

「み、三上さん、具合は? お休みしなくて平気なんですか?」

「私がお酒強いの、絹枝ちゃんも知ってるでしょ?」

 今までの全部演技だったってことですか!?

「絹枝ちゃん……もう、我慢できないよ」

 そっと。三上さんお両手が私の両頬に添えられ――

「お、お風呂! 私もシャワーを浴びさせてください! 三上さんだけずるいです!」

 ――唇と唇が触れる寸前、なんとか抜け出して距離を置きました。

「……じゃあ、待ってる」

「は、はい……!」

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