恋するをとめ譚 転の一 「中学生」
すぐ、イオリとジアは城へと向かった。ここは水中であったため、上向きでさえも自由に行けるのがありがたかった。
イオリよりも早く着いたジアが魚人を見ると、魚人は明らかに鰓呼吸をしていなかった。それだけではなく、もう一つ異常が見られた。
「こいつ……骨がねぇな。」
魚人には、骨がなかったのだ。
「誰かに抜かれた……?」
「サイコパスみたいなことを言うな、イオリ。いやまあ、確かにそれっぽいが、怖いだろ。」
「あぁ、すみません。」
珍しく、ジアが怖がっていた。
そんなジアを傍らに、異常事態は段々数を増して魚人らへと伝染して行った。
次は、通常個体より素早く動き、城や仲間を殴るものが現れた。それは下の玄関付近で大量に発生し始めた。
首がないもの、真の魚と、化してしまったもの、隅で動かなくなったもの。個体はどんどん分裂し、あの「魚人族」はなくなり、悲惨なる個体群が城で集きていた。
呆然としたジアの手を引き、あの始まりの地へとイオリ達は駆けた。
「はぁ、はぁ、これから、想定として奴らが来そうなので、一応洞窟へ避難しました。」
「あ、ああ。ありがとう。」
どうやら、ジアは予想外のことが起こると、たじろぐ人間で、さっき以来ずっとまともでなくなっている。
そんなジアは、遂には泣き始めた。
「怖いよぉ……首がないとか、皆んな死ぬとか、この世界ではなかったじゃないか。」
ジアの発言から、イオリの脳内には「自分の所為」と言う意識が芽生えてしまった。仕方がない。時期的にはイオリが来たのちにこうなってしまっているので、こうだとイオリは全く関連していない訳ではなくなり、疑えてしまうのである。
とうとう、イオリも泣いてしまった。二人は、この世界で暮らした年月は違えど、互いに悲しく、寂しかったのだろう。我慢していた、恐怖も相まって、悲しみの涙がとめどなく流れてくる。
長らく泣いた頃、やっと涙が収まったジアが、語り始めた。
「そういや、イオリ。なんかここ、中学生の時に似てるな。」
まだイオリは泣き足りていなかったので、ろくな反応が、出来なかった。
「似ていると言うのは、なんか寂しくて、やたら夢夢しいと言うか……中途半端な感じがするんだ。」
「夢夢しい?」
「多分そんな言葉ないけど、それしか思い浮かばない。」
「中学生、中途半端、夢…か……あ。」
イオリは、一糸の事柄を発見したようだ。
「どうしたの、イオリ。」
「馬鹿な考察だけど、聞いてくれる?」
「非常時だからね、馬鹿も何もないよ。」
気づけば、二人は友達の様に会話をしていた。
「魚ってさ、多分夢のメタファーなんだよ。」
「夢?」
「うん。将来の夢の夢。夢に口づけをすれば夢はどんどん広がっていくよね。」
「じゃあ、くらげは?」
「くらげは、まだか分からない。でも魚人なら分かったかも。」
二人の涙も、すっかり乾いた。
「魚人って、何だろう。」
「妄想じゃないかな。あんまり夢を見過ぎると、次第に妄想に囚われていくから。」
「ああ! すげぇなイオリ。そう考えると、納得がいくかも。私が中学生見たいって言ったのは、それだったのかな。」
「かもね。考察だから、信憑性はないけど。」
まだ真実とは決まっていないのだが、イオリ達には確かに真実と言う錠剤になっていて、二人のいま広がる不安や悲しみを和らげてくれた。
暫定上では魚は夢、魚人は妄想だと言うのはしっくり来るから良いが……問題は職場だ。
何故職場は私をジアの所へ……
「恋をするなかれ〜恋は腹満たさぬゆえ〜金は払うべからず〜金は心満たさぬゆえ〜」
呑気に、歌まで歌い……始めた?
イオリは、恋という言葉が気になった。何か、今の事態の鍵となる様な気がして。しかし、なかなかその、鍵は渡されず、もやもやと頭を漂う。
「死んでも〜愛するわ〜あ〜あ〜あ〜(高温)」
死んでも愛する……愛する……来た!
イオリは、思い付いた策を実行する。歌うジアの唇に、キスをした。ジアも流石にたじろぎ、この緊急事態に顔を真っ赤にした。
「な、なにするんさ。せっかく気分を持ち上げてたのに。」
「愛が必要かと、思ってね。」
「愛?」
「長くなるけど、聞いてください。ジア。」
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