恋するをとめ譚 承の二 「ミステリー」

 生前も、死後を数えても、最大の衝撃の発言だった。父がラトビア生まれだったことより衝撃的であった。

「もう、死後のこの世界は不思議なことだらけなので、いちいち突っ込みません。ですが、そうなると縁結びが出来ないじゃないですか。」

「出来ないな。」

「出来ないな。じゃなくて……」

「まあ出来るっちゃ出来るんだが。どうせならこの世界を知り尽くしてから任務を果たしたらどうだ。君、別に今後の事など微塵も知らないだろう?」

 確かに、今後のことも知らないし、言ってしまえば今の、職場さえよく分かっていない。縁結びが任務なのは書類を見れば分かるのだが、肝心の職場の実態が全く分からない。あそこは何を仕事とし営む場所なのか。不可解。

「そうですね……」

 どうせなら。言われたままに、彼女とこの世界をめぐろう。そうした方が、混沌とした世界はずうっと明るく成る気がする。

「はい、お願いします!」

「いい返事だ!出来損ない!」

 え?

「しもた。いつもの……SMの癖が。」

 えぇ……


 


 最初の、彼女のツアーは「くらげの場」である。……聞いた通りに、彼女が光り物好きなのは承知しているが、流石に飽きてしまった。いくら、まだ見所がある場所でももうくらげはかき分けたくない。

「さ、行くぞ。」

「はぃぃはぁあぁ〜(あくび)」

 くらげをかき分け、推定五分。とある洞窟が広がる。

「ここは!! 始まりの地! いわゆる私のスポーン地点だ。」

 内部は、少し離れた此処でも分かるほどの行き止まり具合(?)で、確かにスポーン地点としては相応しい、と思った。

「結構いいところにスポーンしましたね。」

「うむ。ちょっと歩いたら光るくらげたちが迎えてくれてしかも豪華な城があったからな。贅沢ったらありゃしない。」

「羨ましい限りです。」

「貴様はどこにスポーンした?」

「ええと、記憶がないのでわかりません。気づいたらあんな気色……悪い職場で働いていました。」

「社畜だなあ。」

 なぜ、女王にはスポーンの記憶があり、イオリにはそれがないのか。新たな疑問は雲を増して心で膨れていた。

「そんなスポーン地点に拘らなくたっていいのに。君もきっと良い地点でスポーンしたんだろうよ。」

 例の読心術がイオリを貫いた。それは、微妙にイオリの悩みとはずれていた。

「よし、着いた!」

 便利な脳だ。気づけばイオリ達はまたいつのまにか次の目的地についていた。

「ここは……?」

「名付けるなら、出産場!!」

 ……簡単には触れてはいけない、空気を感じた。出産という神聖なる行為がこんなに触れざるイメージを醸し出したのは、初めてである。

 しかし、よくも好奇心は易しく抑えられるものではなかった。つい、聞いてしまった。

「どうやって、出産したんですか?」

「お、聞いちゃうか。」

 やはり、聞いてはいけなかったか。

「ま、教えてやる。方法はな……イメージだ。」

 驚きはしない。ここは異世界なのだから。

「イメージっつっても、私は魚のイメージをしたんだ。貴様が知っているより、光が好きだからな。そうすると、まず一匹の魚が出てきた。」

「はい。」

「魚の性器は知っているはずもなかったが、まぁ性欲に任せて探してたら多分見つけた。そこにゃ自分のを触れるのはなんとなく嫌だったから口づけをした。すると魚の口からまた沢山の魚が出てきた。」

「異世界ですから、なんでもありですね。」

「そうだな。……そのあと、それらを別の魚にもやったりしたんだが、まず一部の魚は口づけをした後に別の生き物を吐き出す様になった。それがくらげとかだな。んで、他の魚も、魚は魚でと交尾し始めてな。交尾と言っても融合してたがな。」

「ふむふむ。」

「その融合した姿が、あいつらの子どものだったのさ。今は成長しきって可愛げなんてないが、子どもの姿は可愛かったぞ。まるで自分が膜を舐める動物かの様に、生まれたての我が子を世話してやったなぁ。」

「そうして、あの城が……」

「うむ。あれはあいつらが好きそうな見た目にと城の外見を思い浮かべて其れにしたのだ。」

「案外、貴方様も…」

「貴方様、嫌だなぁ。女王呼ばわりも嫌だ。ジアって名前があるからそれで呼べや。」

「分かりました……ジア様も、案外死後の世界を楽しんでるんですね。」

「まあな。だが、一つ分からないことがある。」

「何ですか?」

「わざわざお前を私の世界に運営とやらが寄越したことだ。誰と縁結びをさせる……どうして縁結びをさせる…出産システム以上に、不思議だ。」

 確かにそうだ。イオリ自身も縁結びの相手は知らないし、職場の目的は不明瞭である。最大の衝撃に続き、最大の謎だ。

「あ、私の城から誰か出てきた。」

 イオリの目線が行く先には、一匹の、魚人が出てきたのが見えた。しかし、あの見え方は……溺死の出方である。

 

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