第4話
「あぁ、女神よ。僕は一体どうしてパートナーができないのでしょうか……?」
見つかりませんでした。
悲しいことに、お相手が見つかりませんでした。
今日一日、もうほぼ全員じゃないかと思うぐらいシスター見習いの女の子にこえをかけたんだけど、誰一人としてパートナーになってくれなかった。僕と同じでパートナーが見つかっていなさそうな男の子も少なからずぼっちにはならないんだろうけど、目の前の幸せを取りこぼしそうになっているので辛い。
僕にできることは、残すところ女神に祈ることだけ。きっと、他の牧師見習いの皆は今でも諦めずにアタックしているんだろうけど、僕の心は折れている。ここは牧師らしく神頼みでなんとかしてもらうしかない。
そう思い、夜のお祈りが終わった今、僕は礼拝堂の長椅子に座って女神ルシアのお姿を刻んだステンドグラスを見つめていた。
「仕方ないんじゃない? 普通、誰も覗きの前科がある人間とはパートナーにはなりたくないわよ」
横にいるリンシアが聖書を読みながら、興味なさげにそんなことを言った。
ちくしょう、パートナーが決まって余裕のある美人が羨ましい。
「そんなこと言ったら、他の皆もそうなのに……」
「確かにそうねぇ……何か上手いテクニックでも使ったのかしら?」
「僕よりも顔面偏差値が低いのに……ッ!」
「どんぐりの背比べっていう言葉があるの」
それはどっこいどっこいだと言いたいのだろうか? 失敬だな、僕をあんな非モテ連中と一緒にしないでほしい。
「五十歩百歩っていう言葉もあったわね」
……そうか、変わらないのか。
「それとも、アレンは覗きの騒ぎが起きた時に必ずその場にいるからじゃないかしら?」
「そんな!? 僕はただ誘われて行っただけじゃないか!」
「ちなみに、新しい脱衣所の覗きスポットを見つけ―――」
「行く時は是非とも誘ってほしい」
「そういうところじゃないかしら?」
「……ハッ!?」
しまった、反射的に口が。
「残すところあと一日。といっても、流石に期限一日前だともう皆新しい部屋に行くために荷物を纏めなきゃいけない頃だから、流石にもう相手を見つけるのは難しそうね」
「リンシアは、ぼっちになった僕と仲良くしてくれる……?」
「当たり前じゃない、見習い当初からの付き合いだもの―――」
「リンシアッ!」
「ロニエとイチャイチャしている姿を目の前で見せてあげるわ」
女神様、女の子を一発殴りたいのですがお許しをいただけないでしょうか?
「あ、そういえばさっきロニエがあなたのこと探していたわよ」
聖書を閉じ、僕の怨嗟の籠った瞳を無視してそんなことを言う。
無理矢理話を変えられたことにはイラつくけど、思い当たる節がない僕はその発言に首を傾げてしまった。
「なんの用だろ?」
「きっとあのことじゃないかしら?」
できれば主語をつけてほしい。
「前から相談されていたことがあるのよ、その件じゃないかしら?」
もちろん、相談されていない僕はその内容を知っているわけがない。だからこそ、余計に疑問だった。
「相談……本当になんの用だろう? ロニエに何か困ったことがあったのかな。だったら、僕にできることならなんでもするけど」
「あなた、こういう時はちゃんと優しいわよね。相手がロニエだからかしら?」
「え? リンシアの時もちゃんと力になるよ?」
「……そういうのを真顔で言わないでちょうだい」
リンシアが薄っすらと頬を赤らめて顔を逸らした。
おかしいな、特段おかしなことを言った記憶はないんだけど。
「あなたが女の子だったら、今頃押し倒してるのに……」
断言しよう。僕はおかしなことを口にしてはいない。
だから、この子の発言がおかしいのはこの子自身がおかしいからだろう。変な友人を持ってしまったものだ。
「……まぁ、いいや。とにかく僕は───」
「あ、いたいたー!」
その時、朝と同じく誰かを見つけた時のような明るい声が聞こえてくる。
視線をそっちに向けると、ズラリと並んだ長椅子のその先───礼拝堂の入り口に、見覚えのある天使の姿が見えた。
それと、もう一人……こちらは見覚えのない修道服を着た少女の姿もあった。
「珍しい、僕達がいるのに知らないシスター見習いの人が現れたよ。もしかして告白?」
「すぐに色恋に持っていくのはモテない人間の典型よ。いい、あまり過度な期待をしちゃダメなの。常にあわよくばという期待だけを残してがっつきにいくのがポイントよ」
どうして僕は女の子からこういう指導をされているのだろう? まるでモテ男の講座を受けているみたいだ。
「とりあえず、それは置いておいて……彼女よ、例の相談ってやつは」
「へぇー、ロニエの身に何かあったわけじゃないんだね。それはちょっと安心」
「……そういうのは直接言ってあげればいいのに」
心の中でリンシアのアドバイスをメモしていると、ロニエとその少女はこっちまで近づいてきた。
(おぉ……)
ロニエとその子が近づくと、僕は思わず内心感嘆としてしまう。
というのも───
「ほら、フィアちゃん。この人達が私のお友達で、その
「は、初めまして! アズラフィア・カ……アズラフィアです!」
ロニエが連れてきたアズラフィアと名乗る少女が、目を釘付けにさせるほど可愛らしかったからだ。
お月様のように輝くプラチナブロンドの髪、小動物のような小柄な体躯、心の底まで見透かされそうな透き通ったアメジスト色の双眸。更に、整った鼻梁と潤み切った桜色の唇。端麗かつ愛嬌の目立つ可愛らしい顔立ちに見蕩れてしまいそうになる。
正直、リンシアとロニエが見習いの中では頭一つ抜けて可愛くて美人だと思っていた。
だけど、目の前にいる少女は引け劣らないぐらいに綺麗で愛苦しかった。
脳内で、美少女ランキングリストが自然と更新されていく。まだ眠れる宝石があったことに驚きだ。
「はぁ、はぁ……何度見ても可愛いわ、この子ッ! ねぇ、そろそろいいかしら!? 食べちゃってもいいかしら!?」
いけない、宝石が汚される。
「食べる、ですか?」
「ははっ、何言ってるのリンシアちゃん! フィアちゃんは食べられないよ〜!」
穢れを知らない清いシスター見習いの少女は首を傾げたり、冗談だと思って笑っている。
とりあえず、余計な言葉と涎を垂らすリンシアの口を布巾で塞ぎつつ、僕もお返しで挨拶することにした。
「こちらこそ初めまして、アレンです」
「は、はいっ! 初めまして!」
緊張しているのか、声がかなり上擦っている。それがなんとも可愛らしい。
横で蒸気した頬が戻らない変態とは大違いだ。
「それで、ロニエ。初めましての挨拶は終わったけど、どうしていきなりアズラフィアさんを紹介したの? 候補って言ってたけど、それって僕の恋人さん候補のこと?」
「ふぇっ!?」
「違うから、アレンくん。恋人がほしいからってすぐにそういう解釈で受け止めちゃダメだよ、フィアちゃんが驚いちゃうじゃん」
確かに、アズラフィアさんの方を見たら顔を真っ赤にして驚いてしまっていた。
口もパクパクして固まっているし、この子はロニエ以上に色恋に耐性がない女の子がないのだろう。手を繋いだだけでも顔を真っ赤にしそうだ。
「えーっとね、実はアレンくんにお願いがあるんだよ」
「お願い?」
「うん、リンシアちゃんと相談してね……やっぱりアレンくんにお願いするのが一番かなって」
ここに来た当初からの付き合いとはいえ、こうして女の子に頼られると男としてどこか誇らしいと思えるから、そう言ってくれるのは素直に嬉しかった。
「僕にできることだったら任せて! なんでも協力するから!」
「ほんと!? ありがとう、アレンくん!」
嬉しそうな顔を見せるロニエ。
これは、言葉通り僕にできることならなんでもしないといけない。この笑顔を守るためにも。
「それで、そのお願いっていうのは?」
僕がそう尋ねると、ロニエは可愛らしい笑みをいっぱいにして口にした。
「実は、アレンくんにはフィアちゃんのパートナーになってほしいんだよ」
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