第2話
「あ、いたいた二人共っ!」
リンシアの歪みきった性格に戦慄していると、目の前の席に一人の少女が現れた。
肩口まで切り揃えられた銀髪に、アメジスト色の透き通った瞳。愛苦しくも可愛らしい顔立ちが、見ているだけで活力を与えてくれるかのよう。
更に、僕達とは違う修道服越しからでも分かる豊満な胸部が思わず視線を釘付けどころか縫いとどめようとしていた。
先程まで横にいる少女に戦慄していたけど、一瞬にして心が洗われていくような感覚を覚える───さながら、天使が地上に現れたみたいだ。
「やっと見つけたよ。ずっと探してたんだから!」
そう言って、天使───ロニエは、トレイを置いて僕達の対面に腰を下ろした。
「ごめんなさいね、先に席を確保しておかないといけなかったの」
「あ、そういうこと……なら仕方ないんだよ! うんうん、仕方ない仕方ない」
「部屋まで行って呼べたらよかったのだけれど……残念なことに、シスター見習いと牧師見習いの寮は離れているから行けないのよ」
服からも分かる通り、ロニエはシスター見習いだ。
彼女とはこれからなる役職も教育場所も違うけど、こうして食堂で話し合うぐらいには仲がいい。きっかけも、食堂の相席からだったかな? 話しているうちに結構気が合って、いつの間にか仲良くなったんだよね。なんだかんだ、見習いになり始めた当初からの仲だ。
そんなロニエを含むシスター見習いと牧師見習いが住んでいる寮は離れた場所に位置しており、入るには寮長の許可もいるため気軽には足を運べない。
加えて、早朝には朝のお祈りがあるのだ。寮長の許可をもらえたとしても、起こしに行く時間はないだろう。
「同じ寮だったら唇を塞いで起こしてあげることもできるのに」
「え? やだなぁ、そんなことしちゃったら苦しいよ〜」
本当に、寮が離れていてよかった。
こんな性的な意味を理解しないピュアな少女が汚されるところだったよ。
「そういえば、聞いたよアレンくん。またお風呂を覗こうとしたんだって?」
「またって……まだ十五回目じゃないか」
「まだって言葉の使い方、おかしいからね?」
しかも、その五回全てはリンシアによる発案か、周りの牧師見習いが「行こう行こう」って言うから行っただけだし。団体で生活している以上、周りに歩調を合わせなきゃいけないからね。仕方のないことだ。
「ダメだよ、アレンくん! そういうのは、お互いに愛し合った者同士じゃないと! アレンくんも好きな人を見つけて、結婚して、お互いに距離を縮めてから! シスターの皆も、好きな人にしか見せたくはないと思うからね!」
ルシア教では、一部の聖職者は恋愛が認められている。
近年、ルシア教は聖職者の数が増え、独身を貫いている人が多くなっているらしい。ルシア教が広がるのはいい……でも、独身が増えると少子高齢化が進んで将来国民が減ってしまう。そう思った各国から、ルシア教に苦情が挙がってしまった。
そのため、三年ほど前からルシア教では牧師及びシスターのみの恋愛が認められるようになった。もちろん、清く正しい健全的なお付き合いだけ。
今となっては「聖職者は恋愛できない」というイメージは完全に消えてしまった。
しかし、それによって起こってしまった弊害というものもある。
それは、熱心な信徒ではなく恋愛目的で聖職者になろうとする人間が増えてしまったということだ。
ルシア教では、聖職者になるために一度教育を受ける必要がある。そして、教育を受ける場所は限られており、僕達みたいな試験を合格した者は皆アレストロ大聖堂に集められ、それぞれの教育を受ける。その教育を受ける人間は毎年かなり多いらしい。
つまり、ここは恰好の出会いの場───結婚できず、出会いもない独身の人にはうってつけの場所なのだ。
聞くところによると、家督を継げなかった貴族達も出会いを求めて聖職者になりに来たって話もあるみたい。
「だから、もうあんなことしちゃダメだよ?」
「違うんだよロニエ、あれは
「リンシアちゃん、流石の私でもこの子はダメだって思っちゃう」
酷い。
「言わないであげて、ロニエ。ここにいる男性牧師は、何かしら欠如している人間ばかりだから」
「待って、僕はどうしても君だけには言われたくない」
でも、リンシアの言うこともその通りではある。
出会いを求めてこの場に来た者は、少なからず一般生活では女性に好かれなかったから環境を変えようとやって来ているのだ。
故に、何かしら好かれない要因のある男性───モテない奴ばかりが集まってしまう。
しかも、そう思ってやって来たのは飢えた男だけ。女性聖職者の多くは熱心な信徒で、純粋に聖職者になろうと思っている人が多いから、必然的に恋愛しても大丈夫な牧師に彼女募集中の非リアが集まってしまうのだ。
そのため、いつも問題を起こすのは牧師かその見習い。この腕輪が作られた原因も、恐らくは牧師達によるものだろう。
まったく、不名誉な話だ。皆が問題ばかり起こすから、僕みたいな真面目な牧師見習いも同じような括りにされちゃうんだよ。
「でも、そろそろちゃんとそういう変態さんな性格を治さないと、
「……配属研修?」
はて、聞いたことのないワードが飛び出てきたぞ?
とりあえず、僕は首を傾げながらご飯を頬張った。
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