第3話
その日サナはほうきを持って丘の上に立っていた。
このほうきは自作である。
家族全員が出かけている時間、寝静まった時間、離れた山で一人竹と藁を集め、月明かりを頼りに作ったのだ。
「お待たせ、サナ」
「本当にいいの?しばらくはこの町には戻ってこないからね」
「いいよ大丈夫」
正直言って、テールはあまり頼りにならない。
サナは外の国は愚か、隣町のことすらも知らない。
加えて足手まといのテール。
外の世界を何も知らないし、ひ弱そうだとサナは思う。
「これに乗ってくの?」
「うん、とりあえず隣町の知り合いのとこまで」
「知り合い?」
「魔法使いだけどね。早く乗って、バレると困るから」
テールがほうきに乗るとサナは崖まで全速力で走りながら言った。
「落ちたらごめんね」
「えっ、ちょっ、サナ!?」
目の前はもう崖。
テールは思い切り目をつぶった。
「ふぅ、飛んだ飛んだ…」
サナの言葉に恐る恐る目を開けると、テールは目の前に広がる景色を見て声を上げた。
「うわぁ!綺麗…!」
「だね」
「ねえサナ、そのほうきってもしかして、手作り?」
「そのまさかだよ、よくわかったね」
「だって、なんか手作り感満載…」
竹の切り方も雑で、藁も不揃いだ。
「でしょ?完全手作り。だから飛ぶかどうかなんてわかんなくてさ、まあ飛んでよかったよ」
「あんな崖の直前で「落ちたらごめんね」なんて言うからびっくりしたじゃん!」
「ごめんごめん」
あまり笑わないサナの笑顔にテールは少し顔を赤くした。
それを悟られないようにそっぽを向いてたずねる。
「隣町ってなんて名前の町なの?」
「ドール、町って呼べるほどのもんじゃないけどね、どっちかというと村。こっからちょっと北の方に行ったら見えるよ」
「知り合いってどういう人なの?」
「最後に会ったのはずっと前だよ。たまに手紙が来てたけど、一番最近の手紙ではドール村に住むことにしたからなんかあったらいつでも来ていいって」
「ふーん…」
しばらく北の方に進むと、小さな農村が見えてきた。
「あれがドール村?」
「多分ね。でも、今日は野宿かな。お金ないし、こんな夜中に訪ねても迷惑だろうし」
「そっか」
農村の近くで降りると適当な場所に寝っ転がってサナは眠りについた。
「え、もう寝ちゃったの…?」
こんなところでよく寝れるな…と思いつつ、テールもサナの隣に寝っ転がって、気づいたら寝てしまっていた。
_______________
「テール、起きて」
サナの声が聞こえる。
「ん…」
「もう朝になったよ。早く行こう」
サナはもう準備をしてテールを待っている。
「…お腹すいた」
「もう?」
「だって昨日は夜ご飯食べてないし…」
「夜ご飯?1日ぐらい食べなくたって死なないでしょ」
「えぇ…」
サナは不思議そうに首をかしげてテールを見つめる。
「私、昨日の朝から何も食べてないよ」
「そんなの死んじゃうよ…」
「大丈夫、こんなことしょっちゅうだから」
サナはそういうと歩き出した。
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