第2話
「あれがさそり座で、あそこに見えるのがオリオン座ね。場所によって見え方が違うらしくて、違う国では同じ時間でも、もうちょっと東だったり位置がズレてたりするんだよ」
「なるほど」
サナは次の日、塾帰りのテールに星座を教えていた。
その代わりに、サナは星座以外の勉強をテールに教えてもらっていた。
「ここで星をみてるとね、たまに流れ星も見えるんだよ」
「僕も見てみたいな…」
「いつか見れるよ」
「サナはお願い事とかするの?」
サナは少し考えると苦笑いしていった。
「しない、かな」
「そっかぁ…」
「テールは、何かお願い事するの?」
「えー?塾で成績一位とかかな」
サナは特に興味もなさげにうなずく。
そんなサナにテールは苦笑いすると、昨日はなかった傷に気がついていった。
「ねえ、その怪我どうしたの?」
「…これ?」
腕の傷を指差してサナは首をかしげる。
「そう、それ」
「お母さんにハサミ投げられた」
「…じゃあその足の傷は…」
「お姉ちゃんに階段から突き落とされた」
テールは愕然とした。
「なんで…」
「知らない、今日はみんな機嫌悪かったから」
家の話をするのが嫌いなのか、サナも少しムッとしている。
「この話はもういいでしょ、こんなこと言ったってどうしようもないんだもん」
季節は冬。
いくら着込んでいるからとはいえ、やはり寒かった。
だがサナは黒い薄手のワンピース一枚に身を包んでいるだけだった。
もちろん手袋もマフラーもない。
それはきっと、サナがハーフウイッチだからという理由で虐げられているから。
「…待ってよ、サナは辛くないの?」
「辛いって…これが普通だからもうなんとも思わない」
「普通って…そんなの、」
「テールだって、心の奥底では私のこと気持ち悪いって思ってるはずだよ。自覚してないだけで」
お前には関係ない。
そう言われたような気がしてテールは少しムッとした。
「そんな突き放すようなこと言わなくてもいいじゃんか」
「…あのさ、」
「なに?」
「私、この村を出ようと思うんだ」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたテールを見てサナは笑う。
「生活に必要な知識はつけたよ。だから、もう一人でも生きていける。明後日にはここを出ようと思ってるから、多分会えるのはこれで最後」
「ちょっ、そんないきなり…」
「結構前から決めてたんだ。死ぬまで家族にこき使われるより、外で穏やかに死ぬ方がよっぽど有意義だと思わない?」
サナの長い髪が風に揺れる。
「そうかもしれないけど…」
「でしょ?」
「一人で、寂しくないの?」
サナはテールの言葉に首をかしげる。
「いっつも一人だったから、寂しいなんて…」
そこまで言ってサナは黙ると、少しだけ俯いて言った。
「…やっぱり、寂しいかな。でも、あそこで一生を終えるよりかはマシ」
テールはサナの手を握って、力強く言った。
「僕も一緒に行くよ」
「…テールには、家族がいるでしょ。勉強も大変なんだし、私なんかに構ってないで…」
「僕、小さい時に家族が死んじゃってさ。今は一人暮らしなんだ」
「…ごめん」
「ううん。僕、この村から出たことなくて、外の世界を見てみたいってずっと思ってたんだ。だから、僕もサナについて行くよ」
「会ったばっかりなのに、そんなことよく言えるよね」
サナが苦笑いすると、テールは言った。
「僕は、いつかハーフウイッチ差別を無くしたいって思ってるんだ」
「なんで?」
「僕の親はハーフウイッチでさ、ちょっと前に流行った魔女狩りで僕が生まれてすぐに死んだんだ」
「…そっか」
サナはため息をついて言った。
「でもさ、差別をなくそうだなんて。そんな簡単なもんじゃないよ。そんなんで無くなるもんならもうとっくに無くなってる」
「そうだね」
「私らみたいな子供がさ、差別をなくすためにどんなこと言ったって、大人たちは聞き入れてなんてくれやしないんだもん」
「でも僕はやるよ。どうせ無くならないからって何もしないよりかはマシでしょ?それに、君も味方がそばにいてくれた方が嬉しいでしょ?」
「…そうかもね」
「じゃあ決まり!また明日、ここで待ち合わせしよう!」
サナはほっとしたような、そんな顔をしていた。
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