第2話 優しいのはどっちだ
継父の家に引っ越した僕は、高校も変わることになった。それも
当たり前に連れ子の僕には、拒否権も選択権も、あるわけがない。おかげさまで編入試験なんてものはないけどさ。
この間まで学ランだったせいもあって、真新しいブレザーの制服は着心地が悪い。
少し前を歩く真っ黒のフルフェイスヘルメットの初瀬を見る。着ているものは黒一色のクラシカルなレースとフリルたっぷりのハイカラーのワンピース。ボリュームのあるパニエから伸びるするりと細い脚。
校則では自由服と制服を選べるってなってたけど……黒ロリ服。
ってこれ、間違いなく初瀬のために
「……あの」
「えっ? な、なに?」
やっば。あたふたと眼鏡をずり上げる。
家からずっと無言をいいことに、歩くたびスカートが揺れてチラチラ覗く黒いガーターベルトと白い肌のコントラストに、ついついニヤける顔を必死に堪えてたのを勘づかれたのか、あわよくばガーターベルトになりたいとか考えてたのがバレたとか、はたまた……なんだろ。ありすぎて分からん。
しかし黒いヘルメットは、真っ直ぐ前を向いたまま。え? まさか後ろ、見えてる?
「怒ってますか? 不快ですよね。こんな私と一緒に登校させてしまって、申し訳ありません」
は?
「いやいや不快どころか、こんなエロいガーターベルトありがた……うあ……いや違っ……あ、ヘルメット? まあ気にならないこともないけどそれより太腿の……えっと、ほら、そう! 初めて行く学校だから緊張してるんだ。道もよく分からないし。それに、女の子と二人きりってのも初めてだし」
「…………優しいんですね」
「は、はぇ?!」
な、なにが?
そのとき、コツンと音がした。
少し間をおいて、またコツン。
そして……。
「
僕の頭に当たって足元に落ちたそれは、結構な大きさの小石だった。
「すみません……」
「えっ?」
また、飛んで来る。
今度は、バチッと大きな音がした。
どうやら初瀬の真っ黒のフルフェイスヘルメット目がけて、誰かが小石を投げ飛ばして来るんだと気づいた。
「やばいウケる」
「あたし、めっちゃ上手くね?」
「えーウチも当てたいんだけど」
「今日は障害物があって難易度高いとか、マジなんなん?」
ギャハハと派手な笑い声に、恐るおそる振り返る。
うげぇ。いる、いるよね。
スクールカーストの一軍でありながらも更にその中のヒエラルキー構造でいえば上から三段目くらいの位置にいる微妙な子たち。ギャルの中の悪の部分を一手に引き受けていると言っても過言ではない、関わり合いたくない人種とさっそく遭遇するとか、なんのイベント発生だよ。
「小石、当たりましたよね。ケガ……しませんでしたか? すみません。私のせいで、巻き込んでしまって……しかも私が
また、小石が投げられて初瀬の背中に当たるのが見えた。
……嘘だろって。
「当たったら痛いのは、同じだよね?」
「私にはヘルメットがありますから、大丈夫です」
だって、どう考えても初瀬のせいなんかじゃないしっていや、まあ……そのヘルメットのせいっちゃせいなんだが。
「でも……」
「それに、あと少しで正門です。ここからは一人の方が良いですから、先に行きますね」
初瀬は、振り切るようにして走って行く。僕は、何も言えなかった。
そりゃそうだ転入早々に、虐められる人間になりたい奴なんていない。
一人が良いのは、初瀬じゃない。
僕のため。
優しいのは、僕じゃない。
初瀬の方だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます