僕は義妹の黒い✖️✖️✖️を脱がせたい

石濱ウミ

第1話 アレとかロリとか聞いてない



 どうして、こうなった?

 

 いや、こうなるんだろ?

 僕は、黒光りするフルフェイスヘルメットに小さく映し出されている自分の引き攣った愛想笑いと睨めっこしながら、すぐには答えが出そうにもないことを、考えていた。


 なぜって?

 まあ、想像してみてよ。

 黒一色のロリータファッションいわゆる黒ロリの格好をした子が、ダイニングテーブルを挟んで目の前に座っているとか。


 しかも


 …………。


 いや、もうヤバすぎだし。


 ごほん、とわざとらしい咳払いが聞こえて、僕は斜め前に座る継父となる母親の再婚相手の方へ、慌てて顔を向けた。


「いやなに、真白くんが驚くのも無理はないと思う。そのう……娘は少し変わった子でね。見た目はアレでも、すごく良い子なんだよ。真白くんより一つ下の十六歳というわけだから、今日から初瀬はキミの義妹いもうとだ。ひとつよろしく頼むよ」


「……初瀬です。はじめまして」


 微動だにしない真っ黒のヘルメットの中から、くぐもった小さな声が聞こえた。


 いやいやいやいや、聞いてないから。

 驚くとか、少しとか、少しじゃないとか、義妹いもうととか、黒ロリとか、真っ黒のフルフェイスヘルメットとか!!


 ぜんッぜん、初耳なんですけど?!

 

 と思わず叫び出しそうになったそのとき、間髪入れず隣に座る母親が、その顔に笑みを貼り付けたまま僕の脇腹に肘鉄を喰らわす。

 それと同時に、オイ、挨拶は? と、にっこり食い縛る白い歯の隙間から、僕にだけ聞こえるドスの効いた声を出したからヤバい。


「ふぐッぅ。は、はじめまし……て?」


 こわッ。貴女は鬼ですか元ヤンですか、いや元コギャルでしたね。うん知ってた。


「ごめんなさいね、実高さん。真白ったら女の子に、さぁああっぱり、免疫がなくって」

 

「えー意外だなあ。真白くんは、美人な浅路さんに似て顔が良いからモテそうなのに」


「まあ、実高さん。お上手なんだから」


 アハハハハハ……。

 って、なんだコレ?


 モロモロの衝撃で、ずり落ちた眼鏡をくいっと右手中指で持ち上げる。この世に誕生してから十七年。いまだモテ期は到来しませんが、なにか?


 それより、ちょっと待ってよ。

 新しい父親が出来ると聞かされたのは、ふた月前。そのあと顔合わせという食事会を三度。短い間に三回も会ってたのに、娘がいるなんて、ひと言も話が出ないって……出ないって……あー……うん、まあ出せないよな。


 実際のところこの義妹黒いヘルメットを前にしてしまっては、深く納得せざるを得ない。

 

「そうだ、荷物が届いているんだった。初瀬、真白くんを部屋に案内してあげなさい」


「はい」


 椅子から立ち上がった義妹いもうとは、思ったより小柄だった。


「私たちの部屋は二階です」


 前を歩く、つるりと光沢のある後頭部を見ながら僕は、どうにも好奇心を抑えきれず、知りたかったことをダメもとで聞いてみる。


「それ、いつからどうして被ってるの?」


「十四歳のときから、ずっとです。母が観音さまのお告げを受け、亡くなる前に私に被せてくれました」


「……そ、そうなんだ」

 

 って言うしかなくない?

 ご愁傷様って、言ったらそれどっちに向かって言ってんのいやどっちもだし。

 でもダースベイダー卿のマスクじゃなかっただけ良かったよねとか、そんなん言えるわけもないから聞くんじゃなかったし。

 

「あれ? だとしたら二年間ずっと被りっ……」


 ぐりっとヘルメット頭が振り返る。

 中身なんて見えなくても分かった。


 ……ですよね。

 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る