第11話 お茶会の謎
「なぜ、お茶会なんか開くの?」
オーウェン様だけは不満そうだった。
食堂でたまたま会ったオーウェン様は、どういうわけかお茶会開催の話をどこかから聞いていたらしくて、会った途端にそんなことを言った。
私はうっかりオーウェン様に見とれた。彼はマーク殿下より、ガッチリした体格で、マーク殿下のようにキラキラしていないが、それはそれで全然かっこよかった。男属性である。男だから当たり前か。説明が難しい。
「でも、お兄様にも勧められたのよ」
兄を引き合いに出しておいた。
私も正直、なぜ、お茶会なのかよくわからない。
母も妙な顔をしていたが、兄がサラッと勧めると同意していた。
母は兄に甘いというか、兄の判断は自分を超えていると思うらしく、自分でよくわからない問題については大抵兄の意見を通していた。
「僕もいいと思うな。まるで比べるようで悪いけれども、マーク殿下がいいとおっしゃるなら問題はないと思う。サラにとってはメリットが大きいからね」
珍しく父がこんな話題に口を出してきて賛成したため、お茶会の開催は確定した。
オーウェン様は、普段、口数が多い方ではないのに、言った。
「別々に会えばいいじゃないか。あ、別に二人きりになりたいわけじゃないよ。でも、マークが、なんでそんなことを言い出すのかちっともわからないよ」
要約すると、二人きりで話をしたいので、お茶会なんかごめんだ。マークの意図がわからない。
「最初だから、まずは大勢でお話ししてもいいのじゃないかしら」
根拠が薄弱だなあと自分でも思いながら言ってみた。
「だけど、絶対呼んで欲しい」
キリッ……として言われた。
「あ、わかりました」
「他の奴が来ているのに、呼ばれないだなんて耐えられないから」
オーウェン様が下を向いた。
「ここで、君をずっと待っていたんだ」
「え?」
私はオーウェン様の灰青色の目を見た。
「お茶会が気になって……。まさかマークがそんなこと言い出すとは思わなかったよ」
マーク殿下は、ことあるたびに女子全員の話題をさらう有名人だ。
あれだけの容姿や才能に恵まれていれば、超絶モテるはずなのに、彼は女子には完全に冷淡だった。それがまたイイと憧れ対象としては最高だったが、なにしろ王子様なので、王家に遠慮して大声でファンを名乗る者もいなかった。
今回の件までは。
「ヤツは随分前から誰か好きな人がいるみたいだった。婚約だのの話をしても、ちっとも乗って来なかったし、そういう話は避けてるみたいだった。うまくいってない好きな人がいるんだと思ってたよ。俺と一緒だと思って、親近感があったな。だけど、それがまさか俺の好きな人と重なっていただなんて」
オーウェン様はため息をついた。
二重の衝撃。衝撃の告白。
マジですか? 本当ですか?
オーウェン様は、嘘は言わない。
この話、オーウェン様の好感度も上げるけど、マーク殿下の好感度が爆上がりではないですか。張本人の私に、この話する?
いや、しかし!
お茶会、しよう。
しようじゃありませんか。
私の決意が固まった瞬間だった。
◇◇◇◇◇
会って話を聞きましょう。
いくらなんでも、いっぺんに二人からモテモテになるだなんて、信じられない。
裏でもあるんじゃないかしら。
私は確かにこれと言って問題のないご令嬢だと思う。(婚約破棄を除く)
素行もいたって普通、成績だって悪くないし、先生方にも可愛がられてきたし、お友達も多い。みんな楽しい方ばかりで、婚約破棄の時は真剣になって怒ってくれたわ。
母は強硬だけど、まあ、あれはそれだけのことがあるからの強気。
公爵家のご令嬢で母は王女様。受け継いだ持参金もすごかったと聞く。
その一方で、父は、見た目、軽い感じのイケオジだが、中身は兄と一緒だ。
商売上の手腕は生き馬の目を抜くと言う。舐めたらあかんと言われているらしい。
兄は、父の頭脳に母の強硬さがプラスされているというさらに一層始末の悪い人物だ。
姉のオフィーリアは馬の事故で夫を亡くす不幸に見舞われたけれど、これだって、本人のせいではない。それまでは幸せな結婚をして順調な人生だった。
薔薇に囲まれて暮らす生活は、心を癒すためにはいいだろうと父は言っていた。
母だけは焦っていたけれど、旦那様がいたことのない私には姉の気持ちはわからないと思うから、黙っていた。
兄も黙って姉のことを見守っている。
私は家族に恵まれ、友人に恵まれ、恵まれなかったのは婚約者だけだ。
でもだからって、突然、最優良物件が二件も舞い降りてくるだなんて、この先一生分の運を使い果たしたんじゃないかしら。お茶会になんらかの事情が発生して頓挫するとか。
一番考えられるのは、殿下のお茶会への出席取り止めだ。
だって、殿下は忙しいんだもの。それに臣下の自邸のお茶会に参加するだんて、異例としか言いようがない。よほど事情がない限り、王家に止められる。しかも目的は求婚らしいし。王妃様あたりからストップがかかりそう。
私は殿下の出席取りやめの連絡をしばらく待っていたが、学園の食堂などで会うたびに、殿下からお茶会楽しみにしているからねと囁かれた。
そんな広告しているみたいな言い方、困る。
食堂でそれを殿下が口に出す度に、周り中が沈黙して全身を耳にしているのかひしひしと伝わってくる。怖い。
それに三人目の参加女性が見つからなかった。
このメンツに出席しても問題がないほど地位や身分がある女性で、さらには殿下の求婚に付き合わされても気にしないような人。
私はだんだん焦ってきた。
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