原住民からのクエスト

 DGOのNPCのパターンは2パターンある。地球に住む製作者及び科学者たち。もうひとつはゲームの舞台としている遠い惑星の住民。どちらもクエストの依頼者として登場するのだが、ゲームプレイヤーとして人気があるのは原住民のもの。更に詳しく書くと、浮気調査の類だ。


 何故って?


 韓流ドラマや昼ドラマのようにドロドロとしたものがなく、笑いの要素だらけだからだ。クスリと笑うものもあれば、大爆笑になるケースもある。ここでひとつのクエストをざっくばらんに紹介しよう。


 プロトタイプで鼻と口がなく、ツルツルとした金属ボディの美香さん。女性名だが、身内から取ったもので、生物学的に男である。そしてもうひとり紹介する。美香さんとよく遊ぶ仲である、アフロのような男型自動人形のマークさん。彼らはいつものように地下のギルドにある依頼の掲示板を見た。運良く、浮気調査のものがあり、すぐに受託する。難易度とか見て判断するのがセオリーかもしれないが、浮気調査のクリア推奨として、初心者を脱していれば問題がないのだ。


「さあて。この感じだと外はやめた方がいいな」


 木で作られた東南アジアのモチーフの高床式の住宅が広がっている。美香さんは外の天気を見る。雨がポツポツと降っている。普段なら透明マントでターゲット尾行である。しかし足の音でバレる可能性があるだろう。


「ああ。彼奴がよく利用するバーに行こう」


 ターゲットはバーで酒を呑み、女と遊んでいるらしい。端末に送られてきた写真を見る。よくある宇宙人のイメージ図のような容姿に加え、珍しく睫毛があり、獣のたれ耳がある。細い身体だが、超能力を有する原住民なので、戦う際はレベルをある程度上げておく必要がある。彼らにとって何も問題ないが。


「いらっしゃい。2人だね」


 中に入ると薄暗いが、エキゾチックな雰囲気を醸し出すバーのようだ。くるりとした変なアホ毛がある宇宙人がバーテンダーの格好をしている。やたらと渋い声で吹き出しそうになるが堪える。これはクエストで来たのだと心の中で叱咤する。


「ああ」


 ターゲットの奴が店の奥にいた。客のように適当に席に座って、様子を窺う。ビールをちびちびと呑みながらである。


「美味いなこれ」

「ああ。これモデルシンガポールのとこだってよ」

「買えるか?」

「多分問題ねえよ」


 このように適当に会話をしながら、浮気調査を行う。数分後に浮気相手がバーに入って来た。胸元を開くような赤い派手なドレス。女性用の焦げ茶色のショートヘアのかつらを被り、少しだけシュールな印象がある。モデルのように足を長いが、枝木並みに細いため、心配になってしまう人もいるだろう。


「モデル歩きしてんだけど。初めてだぜ? ああいうの」

「そーいりゃアップデートで原住民に変な知識を与えたって話だけど、多分それだと思う」

「マジか」


 ここからが本番だと彼らは注意をして見る。浮気相手はスキンシップが激しい。体を密着させ、ターゲットの手を指先で触っている。鋭い爪で小さく傷を付けていた。嫌な予感がした美香さんはゲームメニューを咄嗟に開く。


「おーい。美香さん?」


 美香さんはターゲットとなっているNPCのステータスを見る。


『状態異常:魅了状態』


 機械の眼球を動かし、ターゲットの様子を観察する。真っ黒な目がほのかにピンク色が混じっている。白い肌が赤みを帯びている。浮気相手は次のアクションを仕掛ける。行動を見て、察した。


「これはあかん奴だ」


 と。展開次第ではR-18相当になるのではという考えがよぎる。ちびっこがいなくて良かったと思いながら、2人は相棒という名の銃を取り出す。


「これぜってえ魅了されてずっとこんな感じになってる奴だよな」

「美香さん、とりあえず依頼主の奥さんに報告はした。あとはどうするか」


 どう動こうか話し合おうとした時だった。乱暴に木のドアを開ける音が聞こえた。バンダナがトレードマークの依頼主だ。眉間に皺が寄っており、機関銃を抱え持っていた。どうやって買ったんだとか、その腕で持てないだろ絶対とか、そういった突っ込みをしても返って来ない。所詮はNPCなので。


「あら。ごきげんよう。おふたかた」


 依頼主はにこりとプレイヤー2人にウインクをした。


「ご主人をここから出してくださるかしら? 私は彼奴をボコボコにしないといけないですから!」


 普通に銃弾が飛び交っている。まだ主人がいるのにぶっ放している。


「ふざけんな!」


 マークさんは叫びながらも、どうにかターゲットを奪取し、店の外に出す。生きた心地が一切ない。マークさんは雨の中、ごろりと地に寝る。


「よーし。とりあえずは救出成功。美香さん、原住民用の薬あるか」

「そんなアイテム、あるわけねえだろ」

「だよな」


 苦笑いしながら彼らはバーがあった建物を見る。銃弾と怒り狂った彼女の声が村に響く。


「こりゃ酷いな。下手したら壊れるんじゃね?」

「流石にそれはないだろ」


 美香さんの予想はビンゴ。バーの建物が全壊した。あれだけ機関銃ぶっぱしたらそうなる。


「マジであの中で戦闘にならなくて良かったわ。絶対死んでた」


 マークさんの言った通り、もし中で戦闘していたら、HPが尽きて失敗に終わっただろう。


「それな。あ。クエスト完了の知らせがある。ここまで笑いのないものは初めてだったな」

「ああ。色々とパターンを変えてるのかもな」


 どうやら依頼のパターンが増えつつある。そういう認識が広まるのはすぐだろう。それでも人気は変わらないはずだ。多分。

 



 



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