第21話
一つ気になることがある、それは俺が夢の中で見た少女……即ちアリアさんのことである、そのことについて聞いてみたのだが、「アリアという者は知らない、少なくとも私が管理している範囲の中にはいないはずだ」と言われてしまう、だがその口ぶりからは嘘をついているような素振りは見えなかった、それ故に彼女が実在することは間違いない、しかしだとすれば何故俺の夢の中にだけ姿を現したのだろうか?それもわざわざ別れ際にあんなことを言ったのか理由が分からなかった、そんなことを考えていると不意に声をかけられた、「ユウマー、行くよー?」その声の主は俺の横に座っていたサヤの声だ、気付けばみんな先に進んでしまっていた、俺は慌てて後を追う、そして少し走った所で立ち止まり大きく深呼吸をした後気合を入れ直す、ここから先は未知の領域でありどんな魔物が相手なのか予想がつかない以上、気を抜く訳にはいかないのだ、そう思い直して前を向く、するとそこで待ち受けていたのは巨大な壁であった、「おいおいおい……」その光景を見て思わず声を漏らしてしまう、高さだけでも数十メートルはあるであろうこの壁にどうやって上れば良いのか途方に暮れていると、突然地面が揺れ出したかと思うとそこからゴーレム型の巨大生物が現れた、その姿はゲームやアニメなどで見たものそのものだったが、本物を目の前にしたのは初めてだった為に驚きつつも冷静に分析することが出来た。(あの大きさのやつなら流石に倒せないだろうな……よしっ!ここは逃げの一手だな)そう思った俺は一目散に逃げ出そうとしたのだがその時あることに気付いてしまう、それは先ほどの地震によって洞窟の入り口が崩れてしまったということだった、つまり戻ることが出来ない状況になっていたのである、そのことに気づいた瞬間血の気が引いていき絶望感が押し寄せてくる中、必死に頭を働かせて突破口を見つけ出そうとする、だが考えれば考えるほど絶望的な答えしか出てこない、そんな中またしても予想外の出来事が起こる、それは俺の横で同じように唖然としていた筈の彼女が突如駆け出したかと思えばゴーレムに飛び掛かっていったのだ、それを見て驚く暇もなく彼女は剣を振るう、するとその一撃でなんと一刀両断にしてしまったのだ、これには流石の俺も目を疑ったのだがすぐにその理由を理解することになる、何と斬った部分を中心にゴーレムの身体が崩れ落ちていったのだ、そして後に残ったのはただの土の塊だけだったのである、その圧倒的な力を見た俺達は、驚きつつもやはり勇者のパーティーに名を連ねるだけの力はあるのだということを思い知らされることになった、そしてそのまま先陣を切って進んでいく、その後も様々な種類の敵が出現したが誰一人怪我をすることもなく順調に歩みを進めていく、しかしそれでも敵は尽きることなく延々と湧き出るかのように出現し続けやがて疲弊してきた頃、ふと疑問を抱くようになったことがあった、(おかしい……どうして奴らはこんなに次から次へと現れ続けるんだ?いくら倒してもキリがないなんて普通はありえないだろ……?)そんなことを考えていた俺はある可能性に行き着くのだった、
(そうか!きっとこいつらを生み出しているのはあそこに違いないな……)そう思った俺が指差したのは、先程から何度も目にする入り口にあった大岩である、それに気付いた時皆の視線が俺に集まる、その視線を受け流しつつ、更に確信を得る為に今度は大声で皆に指示を出す、「恐らくこいつを倒さないことにはいつまでも終わらないぞ!まずはこいつを倒して洞窟内に入ろう!」そう叫んだ俺に続いて仲間達が動き出す、そして一斉に魔法を放ったことで一気に爆発が巻き起こり視界は煙に包まれる、暫くして煙が晴れてくればそこには無残な姿の大岩の姿が目に映る、そしてその中心には何やら赤い宝石のようなものが埋まっているのを発見した、 どうやらこれが核となっていたらしくこれを破壊されたことにより敵を産み出す力は失われたようであった、こうしてようやく一息つくことが出来るようになった俺達一行は一旦その場に腰を下ろし休憩することにした、その後俺は気になっていたことを尋ねてみることにする、「そう言えば何で突然走り出していったんですか?危ないから止めた方が良いかと思っていたんですけど……」それを聞いた彼女はキョトンとした顔でこちらを見つめ返してくる、だがその表情はすぐに変わり笑顔に変わるとこう答えた、「えっとね、あれはー・・・内緒!」そう言った彼女に対しそれ以上追及することが出来ず結局理由は分からずじまいとなってしまったが、まあ別にどうしても知りたいわけではないので良しとしようと思う、それからさらに進み続けていると、急に視界が開けた場所に出たことに気がつく、そしてそれと同時にここが目的地であることを理解する、何故ならその場所の真ん中には宝箱が置かれており、まるで俺たちを歓迎するかのようにその存在を主張していたからである、それを見た俺は急いで駆け寄っていく、後ろからは仲間たちがついてくる気配が感じられたが構わずに走っていく、そうして宝箱の前に立った俺がゆっくりと蓋を開けるとその中には、眩い輝きを放つ宝玉のようなものが入っていた、それを手に取ろうとして手を伸ばす、すると横から誰かが割り込んできたかと思うとその手を掴み取られる、驚いてその人物を見るとそれはミサキだった、「何してるんですかユウマさん?」そう言われたので素直に返すことにした、「いや……その……これを持って帰らないといけないらしいから一応触ってみようかなぁって思ってさ……」そう言うと彼女は呆れた表情になる、だがここで思わぬ援護が入ったのだ、「良いんじゃないミサキ、どうせ誰も触れないんだしさ、 持って帰ってみようよ」サネマサである、彼の言葉を聞いてミサキは大きくため息をつく、どうやら観念してくれたようだった、
「分かりました、ですが私も一緒に触りますよ?」そう言った彼女に頷くと全員で一斉に触れてみる、するとその瞬間強烈な光と共に何かが頭の中に流れ込んでくるのを感じた、あまりの眩しさに目を閉じながら耐えていると段々と光が収まっていくのを感じ始める、俺は恐る恐る目を開けてみたところ目の前にあったはずの宝箱は無くなっていた為思わず驚いてしまう、「あれっ!?」そう呟いたのも束の間背後から声を掛けられたことで振り返る、そこにはルリコが立っていた、「ユウ君お疲れ様、 これで依頼完了だよ!」笑顔でそう言うと彼女は手に持っていた紙を俺に手渡してきた、それに軽く目を通した後懐にしまい込み彼女の方を向き直って一言告げる。「ああ……ありがとうな」それに対して満足そうに頷いた彼女に対してお礼を言った後、俺たちは街に戻るために出口へと向かって行ったのだった、だがそこで気になることが1つだけあった、それはこの宝玉の見た目が夢の中で見た少女の容姿とそっくりだということであった……
33.「……えっ?今何て言ったんだい??」突然のツバキの言葉に理解が追いつかない僕は思わず聞き返すことしか出来ないでいた、「だから私の本当の名前を教えてあげるって言ったのよ!」その言葉にまた驚きを隠せなかった僕ではあったが同時に納得する、「そうだったね、確かにずっと『ツバキ』のままっていうのも味気ないし名前を変えたいって思う気持ちは分かるけど、その新しい名前が『ルルン』ってのはどういう理由なのかな……?」すると彼女は得意げな顔で答える、「ふふっ……実は私はもうその名前は捨てて新たな人生を歩んでいこうと決めたのよ!」それを聞いて尚更分からなくなる、何故捨てなければならないのか気になった僕はそのことを尋ねようとするがそれよりも先にルルンが喋り出したので口を噤むしかなかった、すると話の続きを聞いて納得してしまう、曰く名前は長い上にあまり気に入っていなかったため変える機会を窺っていたらしいのだが先日ついに決心したらしい、しかしそれに伴って今の偽名のままではいけないということに気付いたのだという、それで折角なので改名しようと思い立ったらしい、そして思いついたのが本名と同じ意味を持つ自分の名前にしたということのようだ、そこまで聞いてようやく理解出来た僕は早速賛成することにした。
「そういうことなら全然構わないんじゃないかな?むしろその方がいいと思うしね!でもそうなると……僕も変えなきゃ駄目だよね……?」そう尋ねると彼女は頷き返してきた、その返事を聞いた僕は頭を悩ませる、というのも僕には他に候補が無かったからだ、元々この世界に来た時に名乗る予定だったもの以外に何も考えていなかったのである、だがこのまま考え続けていても一向に決まらないので、ふと目の前の女の子に視線を向けてみる、(そういえばこの子はツバキって呼ばれるよりもそっちの方が良かったんだっけ……?)そう思った僕は咄嗟に閃いた名前を提案してみることにした、「それなら……僕の前の名前はどう?」そう言ってみたら彼女も納得した様子で頷いてくれた、ということで無事決定したところで僕たちは早速街に戻ろうとしたのだがそこで重要なことを思い出してしまう、「……どうやって帰ろうかな……」思わずそんな声が漏れてしまった、なぜなら僕たちはここまで来る際に徒歩でやってきた為当然帰る手段が無いのである、そのことに気が付いた僕らは途方に暮れて立ち尽くしてしまった、だがここで幸運にも救いの手が差し伸べられることになる、それが誰かと言うともちろんこの街の住人であり僕らが泊まっている宿屋の主だ、彼が偶然通りかかったことによって僕たちを見つけて声を掛けてきたことで、その問題は解決したのである、彼はそのまま街の外へ出る為の門へと案内してくれ、そこを出ると近くに馬車が用意されていて、彼の厚意で乗せてもらうことになったのだ、こうして何とか無事に街に帰ることが出来た僕たちはまずギルドに向かい報酬を受け取る為に受付嬢の元へと向かった、そしていつものように報酬を受け取っているとそこに冒険者風の男がやってきて僕に話し掛けてくる、その男は以前このギルド内で見かけたことがあったことから恐らくSランク冒険者なのだろう、そして僕のことを見て少し驚いた表情をした後、こんな話をしてきた、何でもその男が言うにはここ最近森の奥で魔物の様子がおかしいという話があるらしく、もし遭遇した場合は絶対に戦うなと言われているそうだ、その為今は立ち入り禁止にしているそうで僕達が森の奥地に行ったことについても特に咎められることはなかった、それを聞いた僕は安心して胸を撫で下ろすと同時に心配をかけてしまったことを詫びておいた、それから別れの挨拶を済ませると宿に戻り明日に備えるべく体を休めることにしたのだった……
◆◇◆◇ 翌朝、目を覚ました僕と仲間達はそのままギルドに向かう、今回は昨日の依頼の報告をするだけでなく、別の用事もあったからだ、そして到着すると昨日と同じようにすぐに手続きを行ってくれる職員の女性がいた、(この人も大変そうだな)なんて考えていると、何やら彼女が慌てたような口調で喋り始めた、話を聞くとなんと今日は勇者達がここにやって来る予定になっているのだという、そしてそのメンバーの中になんとツバキも含まれているというのだ、そんな彼女の言葉を聞いた僕は心の中で驚く、だがそれ以上に驚いているのは他の仲間たちも同じようだった、しかしそれと同時に嬉しくなる自分がいるのも事実である、何しろあの憧れの存在に会えるチャンスなどそうそう巡ってくるものでもないからだ、だからこそこの日を迎えるにあたって他の皆もとても気合いを入れて準備をしてきた筈なのだ……そしていよいよその時がやってきた、入口の方から足音が聞こえてきたため、慌てて席に着く僕らだったが、そこで衝撃の光景を目にすることとなった、何故ならそこに現れたのは何と幼い少女の姿だったからだ……──
4.その光景を目にした瞬間俺は自分の目を疑った、何故ならそこにはどう見ても小さな女の子が歩いていたのだから、まさかそんな馬鹿なと思いつつも鑑定スキルを使ってみることにする、【名
前】:ハルノ=シラサキ/人族
【年 齢】:15
【レベル】:1
【状 態】:正常
【H P】:50
【M P】:580 【スキル】水術2 火術3 身体強化5 料理1 言語理解 魔力感知1
(やっぱりそうか……何でこんなところに子供なんかが一人で歩いてるんだ!?ここは安全な街中と違って常に危険が付き纏う森の中だぞ……!それなのにあんな小さい子を一人にしておく親がいる訳ないだろ!もしかして迷子か??)そう思ってその子を見ていると、俺の視線に気付いたのかこちらを振り向いた、すると途端にニコッと笑う、その瞬間心臓が高鳴るのを感じた俺だが平静を装って尋ねる、「えっと……お嬢ちゃん、お父さんとかお母さんはどうしたの?」そう聞いてみると今度は不思議そうな顔をしてこちらを見てくる、そして数秒後何か分かったかのように頷くと再びこちらに顔を向けてからこう言ってきた、「私おとーさんもおかーさんもいないよ?ずっと一人なの!」その言葉を聞いてさらに疑問が深まる、どうやらこの子には保護者と呼べる人が居ないようだということは分かった、だがそれよりもなぜこんなに小さい子がこんな危険な場所に居るのだろうかということが気になってしょうがなかった、それから更に問い詰めてみると彼女はこんなことを言い出した、「実はね、私もよくわかんないんだけど気がついたらこの近くに居て、それから毎日この辺りを探索してたんだよ!それで昨日はちょっと奥に進んだところで寝ようとしたんだけどね、いつの間にか朝になっててびっくりしちゃった!」そう言って楽しそうに話している姿を見て、思わず頬が緩んでしまった、そして同時に確信する、間違いなくこれは夢なのだと……そうでなければこのようなことが起こるはずがないと思ったからである、だがそうなると俺は今どのような状況に置かれているのだろうという疑問が浮かんできた、それを彼女に尋ねてみるとこれまた不思議そうな表情をしてこう返してきた。「お兄さんの夢?それなら私はお兄さんのことをずっと見てたから知ってるよ!」そう言われた瞬間驚きで声が出なくなる、つまりは俺が今まで見ていたものは全てこの少女が実際に体験した出来事ということになるからだ、そんなことを言われればもう信じるしかないと腹を括った俺は、改めて今の状況について整理することにした、まず第一にこれが夢だということだ、ならばこの状況に甘んじてみるのも良いのではないかと考えを改めたのだ、それにどうせ夢の中の出来事なのだから楽しんだって誰にも迷惑を掛けるわけでもないだろうと思ったからである、それから最後に気掛かりなのは少女の言っていたことだ、彼女は俺のことを見て『夢の中でいつも見てる』と言っていたのだ、このことから察するに恐らくはこの少女は予知夢か何かを見ることができる能力があるのではないかと考えた、だがそれは本当にあり得るのだろうかとも思ってしまう、何故ならこの世界においてそのような能力が実在するという情報は無かったし俺自身見たことも無かったからだ、だがそれでも目の前にいる少女が嘘をついているようには見えない、そのため俺はひとまず彼女の言うことを信じることに決める、そしてまずは情報収集に努めることに決めた、とは言っても俺に出来ることといえば聞き込みをすることくらいしかないのが現実である、だから早速近くを通りかかった人に声を掛けることにした、「すみません、この辺で変わったことや変なものを見たりしたことはありますか?」すると彼は訝しげな顔をしながらも答えてくれた、「何だ突然?まあ……変なことと言ったらこの間巨大な蛇のような魔物を見たくらいだがな」それを聞いた俺は即座に聞き返す「本当ですかっ!?」その剣幕に少し驚いていたものの男は頷いて話を続けてくれる、「ああ……確かにそいつはこの辺りの森に生息する魔物だったはずだ、確か討伐難易度Bのモンスターだった筈だがそれがどうかしたのか?」そこまで聞くと次にツバキと呼ばれていた女の子の方に向き直って質問をする、「……なあ、それっていつの話なんだ?」そう尋ねるとツバキは思い出すような仕草を見せた後、すぐに答えてくれる、「うーん、大体一月前かな?」それを聞いた瞬間確信した、
(間違いない、この子は本物の神様だ……!)だがまだそうと決まった訳ではない、なので他にも色々と質問してみた結果やはり予想通りだったことが分かってきた、その結果彼女が本物の女神であることが確定したのである、その証拠としてはまず一つ目に神眼と呼ばれるものを所持していることがあげられる、これについての説明は後に回してとにかく先に進めようと思う、二つ目に彼女には他人の夢の中に入ることが出来る力があったらしいということだ、この力は本来一部の者しか使えないとされているもので、それ程までに強力なものであるということらしい、しかしそんな力があるとは露ほどにも知らなかった俺は素直に驚いてしまう、そして三つ目としてこれが最も重要なのだが……彼女は俺をずっと見守っていたということだったのだ、これには流石に耳を疑ったのだがどうやら本当のようだった、なぜなら以前聞いた彼女の話が嘘ではなかったことが分かったからである。── ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ それから暫くの間彼女と共に過ごしていくことになった俺は様々なことを学んでいくこととなる、例えば文字や計算などの勉強だったり、時には剣術の指導を受けたりなどしていた、そんなある日のことだった、ふと気がつくといつもの夢とは違っていた、いつもなら知らない場所で目を覚ましていたのだが今日ばかりは違っていたのだ、(あれ……?ここってもしかして俺の部屋なのか?でも一体どうして……?)一瞬そう思ったのだがそれも直ぐに理解することが出来た、何故ならそこには見慣れた姿の少女が立っていたからだ、「おはようルーニャちゃん!起きてますか〜?」と元気に声を掛けてきたのは他でもない我が妹のユキナだったのだ、「あ、あぁ……おはよう……」未だに状況を飲み込めないながらも返事を返した俺を見て彼女は笑顔を浮かべるとそのまま部屋から走り去っていってしまう、その様子を呆然と眺めつつ改めて部屋を見渡してみることにした、するとそこには俺の知っているものとは少し違った景色が広がっていたのだ、特に本棚の中身はかなり変化しており、また部屋の中もかなり綺麗になっていたため、全く別の場所に来てしまったかのような錯覚に陥ってしまったのだった……──
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