第20話
――そんな時だった、突如大きな音を立てて部屋のドアが開かれると例の男が姿を現したのだ、その表情は明らかに先程よりも強張っているように感じられるもので俺達を見つめるその瞳には明確な殺意が宿っているようだった、「よぉ兄ちゃん達……さっきからずっと聞き耳立ててたんだけどな、どうやらお前ら二人だけで話がしたいみたいだから俺様も混ぜさせてもらうぜ」そう言うとそのまま中へと入ってきてテーブルを挟んだ向かい側の椅子に腰掛けたのである、それを見た俺は慌てて席を立とうとしたのだが彼に肩を掴まれてしまい身動きが取れなくなってしまう、そのため止むを得ず渋々ではあるがその場に座り直すことになった、その様子を見たユウキが口を開く、「あのーそろそろ離してくれないかしら?」その言葉に男はニヤッとしながら答える、「そいつは出来ねえ相談だなぁ、だってこれから大事な話をするんだろうからよぉ」それを聞いて俺達は同時に顔を見合わせた、何故ならそれが何を意味していたのかを知っていたからである、そうそれは今から彼がユウキのことを手篭めにしようとしているという事実に他ならないのだから、それに気付いた瞬間俺とユウキは二人して立ち上がり部屋から逃げ出そうとしたのだが案の定彼によって邪魔されてしまうことになる、結果俺達はベッドがある位置まで戻されてしまっていたのである、そしてここからの展開は最早考えるまでもないものであった……彼はベッドの上の布団を掴むと勢いよく引き剥がすと同時に俺達に向かってこう言うのだった、「オラぁ大人しくしろよ!!死にたくなけりゃあなぁっ!!!」その後に続くであろうことは容易に想像がついたので必死に抵抗する俺達であったがやはりそこは男と女の力の差というものがありどうすることも出来なかった、やがてユウキの体を抑え込むことに成功すると今度は俺の方へと視線を向けてくる、「さぁ次はてめぇの番だぜぇ……へっへへへ」そんな言葉を聞いているうちに自然と恐怖を感じ始め体の震えを抑えることが出来なくなっていったのだ、その時である、急に体に力が入らなくなりそのまま床に崩れ落ちてしまったのだ、それを見て驚いた表情を浮かべた男が近付いてくる、「おいどうしたってんだぁ?具合でも悪いのかよお?」俺はそれに答えようとするのだが上手く言葉を発することが出来なかった、するとユウキが代わりに答える、「この人は病気なのよ、それもとびっきりタチの悪いものをね」それに対して男が尋ねる、「どういうことだ?」それに対してもユウキが答えた、「それはね……不治の病、ということよ!」それを聞いた男の顔はみるみるうちに青ざめていくのが分かった、 そしてついに限界を迎えたのかその場から逃げ出そうとするのだがそれを見逃すほど俺はお人好しではない、瞬時に男の後ろに回ると羽交い締めにすることに成功したのだ、「クソッ!離せこの野郎ぉおお!!!」喚き散らす男に対し、俺は冷静に対処することにした、というのも今のこの状況で下手な刺激を与える方が危険だと思ったからである、何せ相手は頭に血が上りきった状態だ、それこそいつ俺に殴りかかってくるか分からない状況なのである、故にまずは落ち着いてもらう必要があった、そこで俺は敢えてこちらから話を切り出すことにしたのだ、その内容はというと至ってシンプルなものである、即ち『俺達に手を出した時点でお前は死ぬ運命にある』というものだった。ところがこれに納得できない男が反論してきたので再度同じ内容を口にする、しかしそれで諦めるような相手ではなかったため今度は俺がキレることになる、何故なら男の発した言葉に我慢ならなかったからだ、その理由というのは――「俺達はもう恋人同士なんだからなぁ!!」というものであった、その瞬間思わず俺はこう口にしてしまったのである、「ふざけるなぁっ!!!」次の瞬間俺は怒りに任せて思い切り男を殴りつけていた、当然手加減などしていない、その証拠に拳に鈍い痛みが走ったもののそれ以上に気分がスッキリしたので良しとしておくことにする、だが殴られた男はというと全く堪えていなかったらしく、平然と立ち上がると俺のことを睨みつけるのだった、(しまったな、流石にやりすぎたか……?)そう思ったのだが後の祭りである、こうなってしまえば後はやるしかない……覚悟を決めた俺が臨戦態勢を取ろうとした瞬間のことであった、突然部屋の中を眩い光が包み込み視界を奪われてしまったのだ、そして光が消えた後になってようやく気付いたことがあった、何とあれだけあった筈の壁や床などが全て綺麗さっぱり消え去っており目の前に広大な空間が広がっているではないか、更に周囲を見回すことで今自分が立っている場所が小高い丘の中腹辺りであることを理解したところで視線を前に戻す、するとそこに信じられない光景が広がっていたのだった、なんとそこには1人の女性が立っていたのだ、その姿は神々しいまでに美しく透き通るような白い肌と美しいブロンドヘアーを持つその女性は純白のドレスのような衣服に身を包んでいて右手には大きな杖を手にしている、そんな姿を見た瞬間に俺は直感した、(きっとあれがカホだ……!)そう思って彼女を見つめていた時のことである、不意に彼女の口が動いたかと思うとこんな言葉を口にしたのだ、「……勇者よ、 よくぞ参られました」それを聞いた途端俺はこう思った、「え?何で俺呼ばれたの?」しかし次に聞こえてきた声でその疑問はすぐに解消される、「お待ちしておりました、あなたが来るのをずっと待っていたのです」どうやら彼女は最初から俺のことを知っているようであった、だが俺には彼女が一体何者なのか知る由もない、よってまずは自己紹介をすることにしたのである、「えーっと初めまして!俺の名前は佐藤太郎と言います、あなたは一体誰なんですか!?」そう問いかけると彼女は優しい笑顔を浮かべながらこんな言葉を口にする、「……私の名は女神アルティマ、あなた達人間の言うところの女神と呼ばれる存在です、以後お見知りおきを……」
その言葉を聞くと思わず唖然としてしまう、なぜなら目の前にいる女性が本物の女神だったことが判明したからであった、「あっあの~すみませんけど、ちょっと聞きたいことがあるんですけど良いですか……?」そう言って話しかける俺に対して女神アルティマは笑顔で頷いてくれる、「ええ構いませんよ、何でも質問してください」そう言われて早速俺はあることについて尋ねてみることにしてみた、それはズバリこの世界の名前である、これを聞いた途端に少し不思議そうな顔をした彼女はゆっくりと口を開いてこう言ったのである、「ああなるほど……そういえばあなたにはまだ説明していませんでしたね」その言葉を耳にした俺は即座に反応する、(これはもしかして……)そう思っていた矢先のことだったので食いつくように聞いてみた、すると予想通りの反応だったのか、彼女の口から思いも寄らない事実が告げられる、「実はここは私が創造した世界なんですよ!」――それを聞いた瞬間一瞬頭の中が真っ白になった、
(いやいや待て待て!落ち着け自分!!一旦深呼吸するんだ……そして落ち着くためにもう一度だけ考えようじゃないか、えーとまずここは異世界であり現実ではないってことだよな?つまりは夢の中みたいなものってことか?だったらどうして俺はこうしてここに立っていられるんだ?)そこまで考えて一つ思い当たる節があることに気付いてしまう、(まさか……これって明晰夢ってやつじゃないのか!?ということは俺の意識は今覚醒している最中ってことになるんじゃないか!?だとしたら目覚めるのを待てば元の世界に戻ることが出来る筈だ、なら焦る必要はないだろう、よしっ決めたぞ、俺はこの世界で暫く暮らしてみようと思う……まあどうせ他にすることもないんだし折角だし楽しまなきゃ損だもんな)そんなことを考えていると目の前の女神様は再び口を開く、「ちなみにあなたの考えていることは全て分かっていますから、今更無駄な努力はやめておいた方が良いですよ」……どうやら全てお見通しだったらしい、ならばと思い今度は先程とは逆に質問をしてみることにした、それはここが一体どこなのかということである、果たしてその問いに彼女がどう答えるのか……内心ではかなりドキドキしていたのだが意外にもすんなりと答えてくれたのである、「そうですね……ここのことを一言で表すとしたら何だと思いますか?」そんなことを聞かれて改めて考えるのだが、すぐに思いついた答えはというと『天国もしくは極楽浄土』といったものしか出てこなかった、その為そのことをそのまま彼女に伝えると何故か嬉しそうに笑うのだ、それを見た俺は正直意味が分からなかった、何故笑っているのか全く理解が出来ないからである、すると彼女はこんな話をし始める、「いえ、あなたって本当に面白い人だなぁと思ったんですよ、だって普通いきなりそんなこと言われたら笑っちゃうじゃないですか……でも私は嬉しいんです、だってやっとあなたとお話が出来るんですもの!」その言葉に驚いた俺はすぐさま聞き返すのだが、それに対しても笑って答えるのだった、「いえいえ本当のことですから別に隠そうとしてませんよ、それよりももっとあなたのことを教えて下さいね、私のことはさっき話したので次はあなたの番ですよ?」――結局その後俺は自分のことについて色々と話すことになってしまった、もちろん名前や年齢などは伏せたままである、ただどうしても分からないことがあると素直に言ってみたところ、それについてはちゃんと答えて貰えたのだが一つだけ腑に落ちないことがあった、それは何故このタイミングを選んだのかということだ、それについては彼女曰く、俺が一番辛い時期を迎えているのではないかと思ったらしく少しでも手助け出来ればと思っての行動だったらしい、それを聞いて思わず泣きそうになるがどうにか我慢することが出来た、そしていよいよ別れの時がやってきたようだ、「……さて、そろそろ時間ですね」そう言いながら名残惜しそうに俺のことを見つめているのであるが、それに対して何か気の利いたことを言おうとしても何も言葉が浮かんでこなかった、そこで俺はせめてものお礼ということで手を差し出して握手を求めることにしたのだ、すると彼女は最初驚いていたのだがすぐに笑顔を見せると俺の手を握り返しながらこう口にする、「はい!これから宜しくお願いしますね!!」そう言うと彼女はそのまま光の粒となり消えていった、その瞬間意識が急激に遠のいていくのを感じた、やがて完全に意識を手放すと次の瞬間にはベッドの上で目が覚めるのと同時に先程の記憶が薄れていったのだ、 だが俺は決して忘れないだろう……あの美しい少女のことを、彼女と出会えたこの運命を、俺は生涯忘れることはないだろう。それからしばらくしてベッドから起き上がった俺はギルドへと向かう準備を始めるのだった、理由は単純で今日がアリアさんと一緒に旅立ちを決めた日だからだ、故に早めに出て依頼を一つこなしておこうと考えていたのである、だがその時ふとあることを思い出してベッドへと戻ることになった、というのもあの時手渡された報酬のことを確認しないままだったのでそれを確認する必要があったからだ、そうしてバッグの中を漁った結果無事にそれを発見することに成功する、そしてその中身を確認した時思わず声を上げてしまう、その理由というのは入っていた金額があまりにも大きかったためである、 何とその額は320万円もあったのだ、(一体どうなってるんだよこれは……!)驚きを隠せなかった俺はそのことについて考えてみるものの当然結論など出る筈もなかった、しかしそれでもお金はお金である以上有効活用しない手はないだろうと思いとりあえず全額持ち歩くことにした、その際もし必要であればいつでも下ろせるという保険をかける意味合いも含めてのことだったのだ、こうして全ての準備が整ったところで家をあとにしようとしたその時であった、突如部屋の中に強い風が吹き込んできたかと思えば目の前に一人の女性が立っていたのである、突然のことに驚きつつもよくよく観察してみればそこにいたのはカホだった、そして彼女の口から出てきたのはある知らせだったのである、「私今から魔王退治に向かうわ」それを聞いた瞬間に俺の頭の中は疑問で埋め尽くされる、(えっ!?どういうこと?)だがそんな俺のことなどまるで気にすることなく更に続ける彼女に対し更なる衝撃発言が飛び出す、「それと暫くの間家を空けるから戸締りとかきちんとしといてよね」それを聞いた俺は慌てて止めに入る、「ちょっと待って!一体どうしたのさ?急に旅に出るなんて……」その問いに対して彼女はこう口にした、「どうしたも何もあんたが望んだことじゃない、それに私も最初は嫌だったのよ、いくら何でも急過ぎるでしょって思ったからね」そう言われた時になってようやく思い出すことが出来た、そう俺が彼女に頼んだのだ……旅に出たいと。
確かにそれは俺が願ったことであるのと同時に、今の今まで忘れてしまっていたことなのだ、だからこそ彼女が突然そんなことを言い出したことに驚いたのだが同時に嬉しく思う自分がいることに気付く、何故なら俺という存在をそこまで信頼してくれていたという事実に嬉しさを感じずにはいられなかったからなのだ、それと同時にそんな彼女の想いに応える為にも頑張らなければいけないなと思うようになっていた……そしてついに決心した俺はこう言うのだった、「そっか、それじゃあ行ってらっしゃい!気を付けて行くんだよ!」その言葉を聞いた途端嬉しそうな表情を浮かべた彼女はこう答えた、「うん!じゃあ行ってくるね」そう言って背を向ける彼女に対して心の中でエールを送りつつ手を振って見送ることにする、(きっと大丈夫!だって彼女には頼もしい仲間がいるからな……)そう思った後俺は急いでギルドへと向かうことにしたのだった、そうしないと遅刻しそうだったからという理由もあるがそれ以上に一刻も早くこの場を離れたかったというのが大きい、 何故かと言えば、先ほどからずっと嫌な予感がしているのだ、それは彼女の言葉を受けてからのことであるので単なる思い過ごしであって欲しいと思うのだが……そう思いながら歩き続けること30分程、遂に目的地に到着することが出来た、するとそこには既にサネマサの姿があったので挨拶することにした、「おはようございます!」俺の声を聞いてこちらに気付いた様子の彼はゆっくりと振り返り笑顔を向ける、「おお、ユウマじゃないか!よく来てくれたなぁ!」そう言いながら肩をポンと叩いてくる彼に対してこちらも笑いながら応える、しかしここで一つの疑問が生まれる、どうしてこの人がギルドの前で立っているのだろうか?確かまだ集合の時間ではなかった気がするんだが……?そのことを尋ねるとこんな返事が返ってくる、「実はお前が来る前にちょっと寄りたいところがあってな……まあそういう訳だからもう少しだけ付き合ってくれ」そう言われて再び歩き始めた俺達は特に会話もなく街の中心部へと移動していく、そして暫く歩いたところで辿り着いたのは一軒の建物だった、見た目はどこにでもあるような普通の建物でとてもじゃないが冒険者組合本部には見えない、一体何なのだろうかと思っていると中から見覚えのある人物が出てくるのが見えた、それはミウの姿だったのだ、彼女はこちらの存在に気付いたようで駆け寄ってくると満面の笑みを浮かべてこう口にする、「皆さんおはようございまーす!」元気の良いその声に俺達もまた笑顔を浮かべながら答える、「おう!今日もよろしくな」するとミウは嬉しそうにしながら返事をする、「はいはーい、こちらこそよろしくお願いしますねー!」そんなやり取りの後俺とツバキは中に入るように促される、すると中では見知った人物が待ち構えていたので声をかける、「あれっ、ナズナはどうしたんだ?」そう問いかけると呆れた表情でこちらを見るカドルの姿が目に映る、どうやら彼は事情を知っているようだったので聞いてみると、どうやらナズは昨日の疲れが未だに残っている為今日は休んでいるらしいとのことだった、それを聞いて俺は申し訳ない気持ちになってしまう、何せ今回のことは完全に俺に非があるからだ、なので後で謝りに行くことを決めたところで受付にいた男性が話しかけてくる、「ようこそいらっしゃいました勇者様方、私は本日のご案内を務めさせて頂きますルルンと申します」そう言った男性の顔を見た時思わず驚いてしまう、なぜならその顔はまさしく夢に出てくる女神アルティマスと同じ顔をしていたからである、だが今はそのことに触れず挨拶をすることにした、
「宜しくお願いします」
そして全員が着席したところで説明が始まる、「さて皆様には既にお伝えしていますが改めて今回の任務についておさらいしておきましょう」そう言うと一枚の地図を取り出してテーブルの上に広げる、そしてそれを眺めていく、そこは今俺たちがいる街の周辺が詳細に描かれている地図であり、それを見ることで今回の依頼の重要度を知ることが出来た、というのもこの街の北東側に大きな山がありそこが目標地点となっているようだ、しかもそこにたどり着くまでには幾つものダンジョンが待ち構えているらしく最低でも2つのルートを通る必要があるとのことであった、「では早速ですが出発します、今回我々が目指す場所は『西の山』です。この山の頂上付近にある洞穴の中に入りそこにあると言われている宝玉を持ち帰ること、それがあなた方に課せられた仕事になります」そう言われた俺達はそれぞれの武器を手に取り立ち上がる、いよいよ初めての本格的な討伐作戦が始まろうとしていたのだ、そしてルルンの号令によって俺たちは目的地を目指して出発する、だがその前に……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。