第19話

「『アユミが私のことを忘れるなんて絶対にありえない!』か……果たして本当にそうなのかな……」その言葉を口にするも答えは出ないままだった。それから程なくして村へと戻ってきた俺達は早速村長に事情を説明したのだがそこで思いがけない事実を聞かされることになったのだ、というのもこの村の人達は全員が既に亡くなっており廃墟になっているというのだ、それを聞いて驚いた俺達は改めて先程の場所へ向かうことにしたのだった。そして到着してすぐに愕然とする羽目になった、なぜならそこはまさに廃墟となっていたからだ、それを見た俺とカホは絶句してしまいそれ以上何も言うことが出来なかったのだが、ここで意外な人物からこんな声が聞こえてきた、「うわぁ、 これはちょっと酷いことになってるわね……」その声に思わず振り返る俺達だったのだが、そこにいた人物は予想外の人(?)だった、なんとラティナだったのである……!しかもよく見ると以前のようなドラゴン形態の姿ではなかったのだ、見た目はほとんど変わらないものの身体の大きさや形などがかなり人間に近いものになっているだけでなく羽などの器官が無い分普通の人間とあまり大差ないような感じになっているではないか、これにはさすがの俺も驚かずにはいられなかったのでそのことを本人に聞いてみたところこのような回答を貰うことが出来た、ちなみにその内容は次の通りである……「え~とね、実はあの時に一度死んでしまってるのよね」その言葉を聞いてもいまいち理解出来なかった俺は続けて聞いてみることにした、すると彼女がこう答える、「私は元々は精霊みたいなものでね、実体を持たない精神体の存在なのよ、 でもあの時の衝撃で意識を失ってしまいそのまま消滅してしまったのだけれど、どうやらその際に魂に異常が生じてしまったらしくて気付いた時にはこうなってしまっていたのよ、だから今の私はもう肉体を持った普通の生物と変わらない存在になっているわ、 それに元々魔力が高い種族でもあったこともあってレベル上げもかなり捗っていたりするのよ、まぁそのせいであんな姿になってしまったということもあるんだけどね……とにかく今はとても充実している感じかな♪」そんな彼女の言葉に対して俺達は唖然としてしまう他なかったのだがその後さらに衝撃的なことを知らされることになるのである!それはあの事件の黒幕の正体についての話であったのだがそれに関して気になることがあると言うのだ、それについて尋ねるとこんな返答をされてしまう……「私が気を失う直前に何か巨大な影を見た気がしたのだけど気のせいだったのかなぁ……?もしかしたらあれこそが今回の事件の首謀者なのかも知れないわね」それを聞いた瞬間ある予感がした俺は即座にそれを口にする……「まさかそれって例の黒い魔物だったりするんじゃ……!」それを聞いた彼女は少し考えた後でこう切り返してくる、「う~ん、 何とも言えないかなぁ、何せあの時は周りが暗くてほとんど何も見えなかったから確証はないのよねぇ……」そう言われてみればそれもそうだよなと思いつつもそのことはひとまず置いておき話を本題に戻すことにした、「そういえば、 どうしてこんなところに居るんだ?確かさっきは仲間と一緒に居たんじゃなかったっけ……?」それを聞いた彼女がこう答える、「それがね、 私達っていつも3人で行動してたんだけどその内の1人が急に姿をくらましちゃったのよ、だから仕方なく残されたもう1人の子と2人でここまできたってわけなんだけど……それでここからどうしようか相談していた時にちょうど君達がやってきたものだからつい声をかけちゃったというわけなんだよ、 あ、因みにここに居ないもう1人の子っていうのは私みたいに他の種族じゃなくて妖精族の子で名前を【ハルネリア】っていうんだよ、 ほら、この子のことよ」そう言ってスマホを取り出し画像を見せてきたそこには小さな女の子が写っているではないか、それを見た俺は思わず呟いてしまう、「……可愛い!」するとそれを聞いていた彼女がすかさずこう言ってくる、「うん、 すっごく可愛いでしょ♪私もそう思うもん」それに対して頷きながら同意する俺なのであった……――

あれから数日後のことだった、突然カホがこんなことを口にしたのは、「そう言えばこの前の一件があった後にギルドに報告したらランクが上がったんだよね~」それを聞いたユウキが不思議そうに問いかける、「そうなの? いつそんなことしたんだ?」その質問に対し彼女がある方向を指差したのでつられてそちらに目を向けると何やら掲示板のようなものがありそれに依頼内容が書かれた紙がたくさん貼り付けられているではないか、それを見て俺はあることを察した、(あぁなるほど、そういうことか……)恐らくだがあれはクエストボードというやつなのだろう、ということは彼女も依頼を受けるためにあそこへ向かったに違いないと思った俺は慌てて後を追いかけるのだった。

そうしてやって来た受付カウンターの前で早速手続きをしている最中なのだがどうにもおかしいことに気が付いた、何故ならば彼女の隣に立つ男の姿が見当たらないからである、一体何処へ行ったのだろうかと思い辺りを見回すのだがどこにも姿は見当たらない、するとその時、背後から声をかけられたかと思うと同時にいきなり肩を叩かれたのだ、驚いて振り返るとそこに立っていたのはなんとあの男だった、そして彼は笑顔でこう告げる、「よう、久しぶりだな!」「おまっ……一体今まで何処に行っていたんだよ!?てっきり死んだものだと思って心配してたんだぞ!?」その問いかけに対して申し訳なさそうに頭を掻きながらも答えてくれた、 何でも彼が姿を消した理由については、「いやぁ悪い悪い、実はあの一件が終わった後にどうしても外せない用事が出来ちまってさぁ……そいつを片付けるのに時間がかかったせいでお前達には挨拶し損ねちまったんだよなぁ……ホントごめんな」それを聞いて俺は思わず安堵の表情を浮かべるとそのまま大きく溜息をついてからこう言った、「はぁ……ったく、本当に心配したんだからな?今度からはこういうことにならないようにちゃんと連絡くらいよこせよ?」その言葉に頷いてくれる彼であったが何故かその様子を見てカホは少しムッとした表情を浮かべていたのだ、一体どうしたんだろうかと思いながらも俺はユウキと共にその場を離れることにしたのだった。

* その日の夕方のことである、俺とユウキが宿へと戻るために村を歩いている時だった、「あ、いたいた!おーいこっちだよ~!」後ろから突然聞こえてきた声に驚きつつも振り返ってみるとそこにいたのはハルネリアであった、彼女は俺達を見つけるなり急いで駆け寄ってきたかと思えばそのまま抱き着いてくる、「会いたかったよぅ~っ!」それを見た俺が戸惑いつつ尋ねる、「えっと……何で俺のこと知っているの?」その問いかけに一瞬戸惑った様子を見せたもののすぐに答えてくれる、「え?もちろん君のことなら何でも知ってるわよ♪」それを聞いた瞬間俺の頭の中には嫌な予感が浮かんできた……(いやいや待て、さすがにそれは無いよな……?だってこの子はどう見てもまだ幼い少女にしか見えなくてとてもじゃないけど年齢的に考えてそんなわけあるはずないよな?)しかしそんなことを思っている俺をよそに更に言葉を続ける彼女であった、「そうそうそれともう一つ、君が転生者でユウキちゃんは元人間なんだよね?それも君と違って一度死んでしまっているということも全部知っているわ、だからこれからよろしくね!」それを聞いて驚愕の表情を見せる俺とユウキなのだった。

その日の夜、俺はベッドの中に入りながら今日のことを思い出していた、ハルネリアと名乗る少女に出会ったことで色々なことを知ったのだ、まずは彼女自身についてであるがやはりその正体はあのラティナだったのだということが判明したのだ、しかも驚くことにどうやら彼女は俺達と同じ転生者らしいのである、確かに見た目的には子供にしか見えないものの中身はれっきとした大人だというのだから何とも不思議に思えてならなかった、しかもそのことを聞いた際に返ってきた言葉がこれだ、「あら、 もしかして信じてないのかしら?……じゃあ見せてあげるわね」そう言うと次の瞬間にはなんと本来の姿に戻った上にドラゴン形態へと変貌したのである、それを見た俺達は言葉を失いただ呆然とすることしか出来なかった、そしてさらに驚くべき光景を目にすることになった、何と彼女が人の姿に戻ったと同時に背中に翼が現れたのだ、しかもそれだけではない、頭から角が生えたと思ったら今度は尻のあたりから尻尾のようなものが飛び出してきたのである、これには流石に度肝を抜かれた俺達だったが、その後で彼女が口にした言葉でようやく理解することが出来た、それは「この通り、私は見ての通り人間ではありません、魔族なのです」という衝撃的なものだったのだ、「私はかつて勇者と呼ばれていた者に封印されてしまったのだけれど、その時にどうやら精神だけを肉体から切り離すことに成功していたようなのよね、それでどうにか生き残ることは出来たんだけど、それからしばらく経ってから再び肉体を手に入れることが出来てからというものの、それまでの反動もあって人里に降りる度に色々と悪さをするようになったのよねぇ……おかげでたくさんの人達を苦しめてしまったりもしましたよ、でもそれがきっかけで私の力に目を付けた魔族達が集まって来て今のような形になったという訳なんですよ♪」そこまで言うと最後にこんな言葉を口にするのだった、「さて、 そんなところであなた達は私のことを信じてくれるかしら?」それに対しユウキが最初に答えた、「正直信じられない話だけど……でもそれが嘘じゃなければ色々納得出来ることも多いよね?だからとりあえず信じることにして、 これからは同じ冒険者同士ということでよろしくお願いするわね」続いて俺も口を開いた、「こちらこそよろしく頼むな、あとついでに言わせてもらうと、 ラティナって名前よりカホの方が断然可愛くて似合ってると思うからそっちの名前を使ってくれないか?」それに対して彼女が答える、「うん分かったわ、それじゃあ私のこともラティナって呼んでね、それとありがとう♪」そんな彼女の言葉を聞いて俺達は揃ってこう口にする、「あぁ、これからも宜しく頼むぜ!」その後で改めて自己紹介をした後その日はそこでお開きとなったのだが、その際のことなのだが俺は一つ気になっていたことがあったので聞いてみることにしたのだ、それは何故わざわざ正体を隠していたのかということだった、すると彼女はこんなことを言ってきた、「別に隠してたつもりはないのよ、でもそう言われてみれば何でなんだろう……?」と首を傾げる姿を見て俺は確信することになる、これは絶対に何かを隠しているのだと……とはいえ今の時点ではこれ以上問い詰めても仕方ないと考えた俺はそこで追及するのをやめることにするのだった、こうして俺達3人の奇妙な関係はここから始まったのである……

その翌日のことであった、いつものように朝食を済ませた後部屋でくつろいでいると突然ドアをノックされたのだ、何事かと思いドアの方へと向かって開けるとそこには見知らぬ男が立っておりこちらをじっと見つめているではないか、その男の正体が誰なのか気になった俺はすぐさまユウキの方へと視線を移したのだが彼女は俺以上に驚いた表情を浮かべていた、どうやら知り合いというわけではなさそうだ、そのことに一先ず安心したところで改めて男のことを観察し始めた、背はそれなりに高く体つきもガッチリしているところを見るに恐らくは戦士職の人間なのだろう、顔はお世辞にもイケメンとは言えないものだった、(うん、ないな)そう思って心の中で軽く切り捨てたところで今度はユウキに話しかけてみることにした、「なぁ、あいつ誰なんだ?」それに対して彼女が返してきたのがこれである、「あの人は確か昨日私達と一緒に戦った冒険者よ、名前はたしか……何だっけかな、ごめんなさい覚えてないわ」それを聞いた俺は思わず溜息を漏らした、何故なら名前が分からないということは即ちこの男とはまだ面識がないということである、つまりは俺の記憶の中にはいない人物であるということになるからだ、(参ったな……一体誰だ?まさかとは思うがあいつがカホに一目惚れしたとかいう奴か?だとしたら面倒なことになるかもしれんぞ……)そう思った直後のことだった、あろうことか目の前の男がいきなり俺の肩を掴んでくるとこう話しかけてきたのだ、「おい、お前ちょっとツラ貸せや」明らかに友好的とは思えない態度でありおまけに目が血走っているように見えるため素直に応じる気にはなれなかった、 なのでここは丁重にお断りさせていただくことに決めるとすかさずこう言った、「悪いが他を当たってくれ、俺にはあんたと仲良くする気は全くないからな!」そう言って相手の手を払い除けるとすぐに部屋のドアを閉め鍵をかけたのだ、するとその直後外から声が聞こえてくる、どうやらあの男がまだ中にいると分かっていてもなお騒ぎ立てているようだ、(やれやれ困ったものだな……それにしても一体あいつは何者だ?見たところただの乱暴者のように思えるが果たして……ん?)ここでふと疑問に思ったことがあるのでユウキに向かって尋ねてみることにしてみた、「そういえばアイツって何か武器とか装備してたっけ?」その問いかけに対して彼女も首を傾げながら考え込んでいた、だが暫くすると思い出したらしくこう言ったのである、「あっそうだ!あの人前に見たことがあるわ!」その言葉を聞いて思わず俺は食いついてしまう、「本当か!?どんなやつだった!?」しかし残念ながら彼女の口から飛び出した言葉は俺の期待を裏切るようなものだったのである、「――全身真っ黒のフルプレートメイルを身に纏った大男よ!!」それを聞くなり思わず肩を落として項垂れてしまったのだが、一方でユウキの方は何故か目を輝かせていた、「……どうしたのよ、そんなに落ち込んで?」そう尋ねられたので正直に答えた、「いやさ、もしかしたら俺と同じように異世界から来た男かもしれないなと思ったんだよ、そしたらそいつがフルアーマーなんてもの着こんでたからさ……」

それを聞いた彼女は笑いながらこんな言葉をかけてきた、「アハハ、そんなの偶然に決まってるじゃない、いくら何でもそんなピンポイントな人物が他にもいるわけないでしょ?」そう言われたことで納得したのか俺もまた小さく笑い返す、(確かにそりゃそうだな)そんなことを思いながら俺はそれ以上そのことについて考えることはやめることにした、それよりも今は気になる点があったのである、それは先程の会話の中で出てきた『全身黒づくめ』という部分についてだ、俺は今までにそういった人物に出会ったことなどなかったので不思議に思っていた、そしてそれと同時にこう考えていた、(もし本当にこの世界に来ているのであれば一度話をしてみたいものだな)

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