第18話

「そうか、それならば仕方ないのぅ……わかった、そういうことならワシらに任せておけ、悪いようにはしないから安心せい!」そう言った後でニヤリと笑みを浮かべるのを見ていた俺は何故か悪寒のようなものを感じていた、そしてそのまま立ち上がると部屋を出ようとしたところで呼び止められたので振り返ったのだが、そこには先程までの優しい表情ではなく冷たい目をこちらに向けてくる老人がいたのを見て思わず身震いする、「どうしたのじゃ?先程の言葉に偽りはないんじゃろうな?」そう言われて慌てて首を縦に振った後、もう一度確認するかのように尋ねられたことに対して正直に答えていく……その結果納得したのか頷きながら頷くと、 今度は真剣な顔つきになったかと思えばそのままの表情で話を始めた、「……いいかのぅ、お主が今から会おうとしているのは正真正銘の女神様じゃ、 故に決して無礼のないように気をつけよ!例え相手が誰であってもじゃぞ?いいな!」その言葉を聞いた時ようやく理解するのだった、(なるほど……さっき感じた寒気の正体はこれか……確かにこの人は神様だな……怒らせたらマズいタイプだ……)そう考えている間に話は終わっており最後に「それともう一つだけ言うておくがくれぐれも短気を起こすでないぞ?」と言われて頷くしかなかったのだがそこでふと思ったことがあった、それは彼女の正体のことである、何故ユウキのことを知らない振りをしていたのだろうかと考えていたのだがその理由はすぐにわかった、それは彼の存在が既に失われてしまったものだったからである、だがその理由についても聞いた後に俺は言葉を失ってしまった、何故ならユウキの母親は彼を産んですぐに死んでしまったからだというのだ、だがその話が真実だとすると色々と矛盾が出てくることに気付いた、(つまりこういうことなのか……?ユウキを死なせないために母親ごと転生させたということになるんだが、そうなるとどうやって転生させることができたんだ?そもそもそんなことが可能なのかよ……)そんなことを考えつつこれからの行動について考えるのだが、とりあえず今すぐ出来ることなど無いのでユウキの面倒を引き続き見ることになったのでその日は休むことになった、 翌日目を覚ました俺がベッドから起き上がると既にユウキは起きていた、そのことに気付いて声を掛けるのだが何やら様子がおかしいことにすぐに気付いた、というのもまるで怯えた様子でこちらを見ている上に小刻みに震えているからだ、その様子を見てさすがに心配になった俺は何かあったのかと尋ねた、すると暫くの間沈黙が続いた後にやがて彼はゆっくりと口を開き始めた、その内容を纏めるとどうやら彼は子供の頃の記憶がほとんどないのだという、その為自分の正体が分からないのでとても不安で怖いということらしい、その話を聞いた俺はとりあえず落ち着かせる為にも彼に食事を取らせることにした、そして食べ終わった後を見計らってこれからどうするのか尋ねるとしばらく考えてから口を開いた、その内容としてはとりあえず村に行ってみたいとのことだったので早速移動することにした、その際俺は念の為にと姿を変えておくことにした、というのも昨日の一件もあって万が一に備えておいた方が良いと判断したからである、しかしいざとなると上手くいかないもので思うように変化させることが叶わなかったのだ、それでもどうにかなるだろうと楽観的に考えていたが現実はそんなに甘くなかったようで結局失敗してしまう、だがここで予想外のことが起こった、なんとそれを見ていたユウキが手取り足取り教えてくれて何とか変身することが出来たのである、 そのことに驚いてしまった俺は思わず感謝の言葉を伝えつつも何故そこまでしてくれるのか疑問を口にすると、 それに対して彼は微笑みながらこう返してきた、「何故でしょうか、何故だかわからないのですが貴方を見ていると自然と体が動いてしまうのです、不思議ですよね、自分でも何故このような気持ちになるのか分かりません、ですがきっとこれは貴方が私のお兄様だからでしょうね、だって私が初めて出会った人が貴方のような人で本当に良かったです、これからもよろしくお願いしますね、お・に・い・さ・ま♪」その言葉にまたしてもゾクッとしたもののすぐに平静を装って誤魔化すことに成功はしたが、(まさかここまでとは思わなかったぜ……というかこいつ、もしかしたらヤバい奴なんじゃないか?)そんなことを考えていたが不意に声を掛けられたことで我に返る、 どうやら村にたどり着いたようで、ユウキが指差している方を見ると小さな家が何軒か建っているのが見えた、その光景に感動したのか、ユウキは一目散に駆け出すのだが、突然立ち止まるとこちらを振り返り笑顔でこう言った、「行きましょう、お兄様!」その姿に思わずドキッとしたもののすぐに気を取り直してから返事をした後で一緒に向かうことにする、それから程なくして村の近くまで辿り着いた俺達はひとまず宿を取ることにした、幸い空き部屋があったのでそこに宿泊することにしたのだがここでもまたトラブルが発生してしまうことになる、何と料金を払う時に銀貨を使ってしまい財布の中に金がなかったのだ、仕方なく野宿でもしようかと思ったその時だった、「すみません、もしかしてお金が無いのですか……?」と後ろから声を掛けられたので振り向くとそこには1人の女性が立っていた、彼女の姿を見た途端に何か懐かしさを感じたもののそれが何なのか思い出すことは出来なかった、 その後彼女と話をする中で俺達はある提案を受けた、そのことについて話すために場所を移そうとしたのだが彼女が泊まっている宿屋の部屋に案内されたのだが部屋の中に入って驚きの声を上げる、何故なら部屋の中には既に先客がいることが判明したからである、そしてそこにいたのは俺の知っている人物だったのだ、「よう、久しぶりじゃねぇか」その人物とはサトウ=ケンジという名の男で、俺と同じ転移者であると共にこの世界に来た当初から共に旅をした仲であると同時に同じ目的を持って行動してきた仲間でもあるのだがそんな彼が何故ここに居るのだろうかと思っていたところで彼が笑いながら話しかけてきた、

「それにしてもお前がここに来たってことは無事に役目を果たしたってことだな?おめでとうと言わせてもらうぜ、それとそこにいる坊主の嬢ちゃんもよく頑張ったな」そう言って2人に労いの言葉をかける彼だったがそれを聞いて俺は疑問に思うことがあったので聞いてみた、「なぁ、どうしてお前は俺達のことを覚えているんだ?」その質問に一瞬キョトンとした表情を浮かべた後でこんなことを言い始めた、「おいおい、何言ってんだよ?覚えているも何もお前達のことは忘れるわけねぇだろうが、だって俺はあの時お前らに言ったんだぜ?『もしもこの先困ったことがあれば俺に助けを求めろ』ってな、それなのにいつまで経っても連絡がないから心配して見に来てみれば案の定困っていたようだしこれで助けないわけにはいかねぇよ」その言葉に唖然としていると今度はユウキに対してこんなことを言ってきた、「お前さんのことも覚えてるぞ、確か名前はアユミだったか、 まぁあの時は俺も急いでいたからちゃんと見てなかったが今ならわかる、間違いなく美人だな!」その発言に驚いたのは何もユウキだけではなかった、俺自身もまた驚いていたのだが同時に嬉しさもあったのでそのことを口にすると何故か苦笑されてしまうのだった、そこで気になったことを聞いてみると何でも俺のことについては既に知っていたそうで、だからこそこうして待っていたのだと説明してくれた、だが俺は肝心なことを忘れていたので改めて質問をしてみる、すると意外な答えが返ってきた、それは俺とユウキの故郷がどこにあるのかということなのだがそれについてはすぐに分かったのだが肝心の記憶についてはまだ分からないということだった。それを聞いた俺は残念には思いつつもこれ以上は無理だろうと思って諦めていたのだが、 その直後に衝撃の発言を耳にしたことで思わず動揺してしまうのだった、「……よし!それじゃあ思い出させてやろうじゃねぇか!!」……その言葉を聞いた瞬間俺は自分の耳を疑った、だがすぐに否定してほしかったのに間髪入れずに「本当ですか!?」という声が聞こえてくるとその思いは見事に打ち砕かれてしまったのである、そして俺が固まっている間に話がどんどん進んでいくのを感じ取るとともに慌てて止めようとするもすでに遅く完全に手遅れとなっていたので諦めて話を聞くことにしたのだが、 その後の話し合いの中で彼の口から出た内容は以下の通りだった、まずこの村についてだが実はここに住んでいた人達は既に全員死んでいるらしく現在は誰もいない廃墟になっているのだということを知った時にはさすがにショックを受けていたようだがそれでも彼は続けるように話し始めた、「ここからは俺の憶測なんだが……おそらくこの場所に転生させた人物は何かしらの目的があってこうしたんだと思うんだが、その理由は未だにわかっていない、 何せ手がかりとなるものがほとんど残っていないからな……」とここで一度言葉を切った後で続けてこんな話を始める、その内容というのが今から3年前……つまりユウキが生まれた日にまで遡る、 その日はとても風の強い日だったらしいのだがそんな日の夜に突如として謎の集団が現れて村を襲ったのだそうだ、その者達が何者かは最後まで分からなかったそうだが、村人の殆どが殺されてしまい生き残ったのはたった数名だったという、そしてその数日後今度は別の場所で同じような事件が起きたという話を聞いたらしい、そしてそれはいずれもとある国の首都で起こったことから関連性があると考えた彼はその国の国王に会って話をすることにしたのだという、だが当然すぐに会わせてもらえるはずも無く最初は追い返された挙句、酷い扱いを受けたのだがそこで偶然通りかかった騎士と出会い彼から助力を得たことでようやく会うことを許されたらしい、しかしその直後に悲劇が起きた、なんと騎士達が次々と襲われていったのである。それを見てさすがに危険だと判断した彼はそのまま王都を後にすることにしたのだが去り際に国王が言っていたことを思い出して振り返ってみたところとんでもない光景を目にしたのだという、というのも城から黒煙が上がるほど燃えている様子が遠目からもはっきりと見えた為嫌な予感がしつつもそのまま立ち去ったのだが暫くしてから大きな地震が起こり辺りの建物が崩れてきたのだそうだ、 それで彼はその場から離れると避難場所を探して移動したのだがそこであることに気付いた、それは崩れた建物の下に埋もれる形で大量の遺体があったということである、それを見て思わず立ち止まってしまったそうなのだが、それと同時にその中に見覚えのある顔があったことに気付いてしまい思わず叫んでしまったのだという、しかしそれも仕方のないことだった、何故なら彼の顔には黒い斑点のようなものが出来ていたのである、それを見た彼はそれが何かを知る由もなかったのだが直感的に理解したのだという、「これはあの襲撃者がつけたものなのだろう」ということに…….その後何とか落ち着いた後に考えた結果、この事件を引き起こした犯人の正体についてある一つの仮説に行き着いた、その仮説というのは今回の事件の裏に魔王が存在しているのではないかということだった、

「まぁこれに関してはあくまでも予想であって絶対ではないがな」そう言いながらも何処か確信している様子でさらに言葉を続ける、「そもそもおかしいとは思わないか?何でわざわざそんな目立つようなことをしたのかを、仮にこの一件に魔王とやらが関わっていたとしてだ、それならもっと上手くやれたんじゃないのかと思うんだわ、 それこそ魔法なり何なり使って誰にも気づかれないようにするとかいくらでも手段はあったと思うんだよな、それなのに何故そうしなかったんだろうなって考えてみたんだがもしかしたら出来なかったんじゃないかなって思ってさ……いや別に馬鹿にしているわけじゃないんだぜ、だってそうじゃなきゃ辻褄が合わないっていうか納得できないというかさ、でもよくよく考えてみるとそれって凄く不自然だよなって思うんだわ、だとしたらやっぱりそういうことが出来ない理由でもあるんじゃないかと思ったんだよ」ここまで話を聞いていると確かに不自然な部分が多く見受けられるような気がしてくる、もしそれが本当なら何故そんなことをする必要があったのだろうか……?それを考えている内にあることに気付く、「……もしかしてわざと目立つようにしたということか……?」それを聞いた男は笑みを浮かべながらこう答えた、「ご名答、さすがは俺と同じ考えに至っただけのことはあるな」その反応を見たことで自分の考えが正しかったことを悟る、するとそれに気付いた様子の彼がこちらに問いかけてくる、「じゃあ次だけどお前ならどう考える?もしも自分が同じ立場だった場合何をしたらいいかってことなんだけどさ」その言葉に俺は少しだけ考え込む、(俺の立場ならか……でも俺は転移者じゃないからなぁ……)と思わず頭を抱えそうになる、とその時である、突然ある言葉が頭の中に浮かび上がってきたのだ、「そうだ!これが一番手っ取り早いんじゃないか!」そう思った俺はすぐさま実行に移す、「おいサトウ=ケンジよ、お前の言いたいことはよく分かった、 つまりお前は俺にこう言いたいんだろう?

「お前は今この場で死んだ」とな、そうすれば全てが解決すると、」そこまで言うと彼が慌てて否定してきた、「おいおい待てよ、誰もそんなこと言ってないだろうが、 俺はただ単にアドバイスをしようとしただけだぜ、それがどうしてこうなるんだ?」俺はそのことに対して冷静に説明する、「何故ならお前は先程俺にこう言ったよな?『何故だろうな、不思議とお前にはこの方法が最適解なんじゃないかって思うんだよ』って、これってもう答えを教えてるようなもんじゃねぇか、それによく考えてみろ、もしも俺が本当に死んでいたのなら今頃こうして話している訳がないじゃないか、だが現に俺達はこうして生きている、つまり俺はお前にとってまだ生きていなくてはいけない存在ということになる訳だ、違うか?」その言葉を聞いてしばらく黙り込んでしまう彼だったがしばらくすると大きく溜息をついてから口を開く、「全く……相変わらず頭の切れる奴だぜお前はよ、 まぁそういうこった、俺からすればお前らはまだ死んでいないから生き返らせることが出来る、だからその為にここに来たんだ、そしてお前達は元いた世界に戻る、これで全ての問題が解決されるはずだろ?」それを聞いて思わず笑みが零れる、すると彼も笑みを浮かべてからこんなことを言ってくる、「それと俺からも一つ質問させてくれ、お前達の世界での【死】っていうのは一体どういうものなんだ?出来れば教えて欲しいんだけど」そのことについて詳しく説明をしようとすると横からユウキが割り込んできたかと思うとこんなことを言い始めた、「あ~すいません、それは私に任せてもらってもいいですかね?何しろ当事者なんで説明のしがいもあると思いますんで」その言葉を聞いて若干渋りつつも納得した様子を見せた彼は今度は逆に俺に質問をしてくる、「お前さん達はこれからどうするつもりだ?元の世界に帰るのか、それともこの世界で生きていくつもりなのか?」それに対して俺は迷わずこう答えたのだった、「もちろんこの世界に住むことにするよ、 だってこの世界にいればきっといつか会える気がするからな、俺達の世界にいる仲間達と」そう言うと彼は嬉しそうな表情を浮かべてこう返してきた、「そうか……そいつは楽しみだな、まぁせいぜい頑張ることだな!」そう言って笑いながら去っていった後でユウキが俺の耳元でこんなことを囁くのだった、「ねぇ、今の話どう思う?まるで全部知ってるかのような口ぶりだったけど」それに対し小さく首を横に振る、そして一言だけ呟いた、「いや、 何も知らないと思う……」そう口にしながらも心の中では全く別のことを考えていた、それは先程ユウキが言っていた言葉に対する疑問であった、

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