第7話

そして同時にこうも思った……これなら安心して二人を元の世界に帰してあげることが出来るな、と。だから早速そのことを伝えようと口を開こうとしたその時だった……ふと頭の中に何かの映像が流れ込んできたのである! それはとある部屋で椅子に座っている1人の少女の姿だった……彼女は泣いていた。どうやら家族と離れてしまったことが原因らしい、そんな彼女のことを心配した両親は慌てて慰めようとするもそれでも泣き止まない姿を見てとても困り果てていた……だがしばらくして少女は突然立ち上がったかと思うとそのまま家を飛び出し何処かへと向かっていった、その様子を見た両親達はただ見ていることしか出来なかった。だがそれも当然のことで、もしここで引き止めたり追いかけたりするようなことをすればもっと面倒なことになるのは目に見えていたので敢えて何も言わなかったのだ……しかしそのおかげで彼女は自分の運命を大きく変えることになるのは言うまでもないことである……!(こ、これは一体なんだ……?)あまりの衝撃に混乱していたが、次の瞬間更に驚くべき光景を目にしたことで更なる衝撃を受けることになる……!! なんと目の前に広がっている景色が大きく歪み始めたかと思いきや突如光に包まれてしまったのだ! それはほんの一瞬の出来事であり、気がついた時には再び元の場所に戻っていた。しかしそれだけではない、俺の目に飛び込んできたのは全く別の風景だったのだ……しかもよく見るとそこは先ほど見ていたあの少女の家だったのである!「もしかして、さっきの子がここにいるのかな?」そう思った瞬間だった……!「――お母さぁん!!どこー!? 怖いよぉ……」何処からかそんな声が聞こえてきたのである、それを聞いた俺は確信した。間違いない、この子が先ほどの映像に映っていた少女であると!「ねぇお母さん!? 返事をしてよー!」必死に叫ぶ声は次第に弱々しくなっていった。きっともう我慢出来なくなってしまったのだろう、そしてとうとう耐え切れなくなったその時のことだった……!「……何よ!そんなに大声で叫ばなくても聞こえてるわよ!!」それは紛れもない母親からの返事だったのだ! しかし何故だろう……その声を聞いているだけで凄く安心するような気持ちになっていき不思議と涙が零れ落ちてきた。

そしてそれと同時に一つの確信を得た……そう、この子は俺が必ず守り抜くんだ、と。だがそう思った直後に異変が起きた!「あれ……?ここ、どこ?」

その言葉を耳にした瞬間嫌な予感を覚えた……何故ならその声はまるで別人のようだったからだ! そして恐る恐る目を向けた先にいたのは……「わぁぁーっ! お馬さんが喋ってる!?」なんとそこにいたのは馬によく似た姿の魔物だった!(一体何が起こっているんだ……!?)目の前で起きている出来事が全く理解できないまま呆然と立ち尽くしていると突如として頭の中から声が響いてきた。『落ち着いて聞いてほしい、君にはこれからこの世界を守っていく使命がある』いきなり聞こえてきたその声に動揺を隠せないまま咄嗟に周囲を見回してみたが、そこに人影らしきものは一切見当たらなかった……だがそれよりも重要なのは今の声が誰なのかということだった。なぜならその声は紛れもなく俺の声だったのだから……。

『君の前にいるのは魔王によって姿を変えた魔獣だ。このまま放置しておけば間違いなく大きな被害が出ることになるだろう、そこで一つお願いしたいことがあるんだが……』そう言われた瞬間、俺は自然と頷いていた。何故ならその声の主には不思議な力があったに違いない、その証拠にいつの間にか体の震えが収まっていたのだから……いやむしろ、その声からは安心感すら覚えるほどに頼もしさを感じたのである!『今から言うことをよく聞くんだ……そうすれば君をあるべき場所に戻すことができる、まずは目を瞑ってくれ』言われたとおりに目を瞑った直後、頭の中で声が聞こえた……どうやら魔法を使うための詠唱をしているようだった、しかしそれが何を意味しているのかさっぱり分からないままに時間が過ぎていった……やがて詠唱が終わると目を開けるよう促されたので素直に従ってみると……「なっ……!?」思わず驚愕の声が漏れてしまうほどに驚いた、何せ先ほどまで何も無かったはずの場所に門が出現していたのである……!(これが転移魔法ってやつなのか?)そう思っているとまたしても頭の中に声が響く、『そうだ、そしてこの扉こそが君を元の世界へと戻す為の唯一の手段となるものだ!』それを聞くと同時に嬉しさのあまり涙が溢れ出そうになる……何故ならようやく帰れると思ったからだ、今まで辛いことしかなかったこの世界にはもういたくなかったから、だから帰る時を待ち望んでおりこの時をずっと待ち続けていたのだが……何故かいつまで経っても門が開かれることはなかった。

最初はどうしてか分からず困惑していたのだが、ふとあることに気づいたのだ……そういえばまだ肝心の説明を聞いていないということに。それを思い出した俺は意を決して口を開いた……「なぁ、お前は誰なんだ? どうして俺なんかにこんな力を貸してくれたんだ?」それに対して帰ってきた答えは「詳しいことは後で説明する、とりあえず今は何も言わずに私の言うことを聞いていてほしい」それを聞いた俺は少し迷ったものの黙って頷くことにした、何故かって?……正直これ以上聞いても教えてはくれないような気がしたからだ、それに何より俺自身も心のどこかで薄々感じていたからな……この人はきっと自分が考えている以上に凄い人なんだろうってね? それから間もなくすると門が再び輝きだしたのだが……今度はすぐに変化が訪れた――それは一瞬のうちにして目の前の景色が変わったのである。そして気が付くとそこは先程まで居た森の中ではなく、見慣れた街中の景色が視界に広がっていた。(一体どうなってるんだ……?)その光景を目にした途端言葉を失った俺だったが……次の瞬間さらに驚くべき事態が起こった! それは何と突然大勢の人々が押し寄せてきたことだった!(ど、どうなっているんだこれは……!?)あまりにも突然のことに思考が追い付かなかったが一つだけ分かることがある、それはここが俺の住んでいた街だということである。しかしどうしてこんなところにいるのだろう、そんなことを考えていた俺はあることを思い付いた。(もしかしたらあれは夢だったのか……?)

もしそうだとしたら今の状況にも説明がつく……何しろ俺はついさっきまで別の場所にいたんだからな、そう思った途端に心が安堵に包まれたのを感じた……だがすぐにそれを否定するかのような考えが浮かんでくる、それは先程頭の中に響いたあの謎の声のことだ……あれがもし本当にあったことなら、今ここにこうして立っていること自体おかしいのではないか? いや待て、そもそもあんなところに人がいたかどうかも怪しいじゃないか……!それに確かあの子は「お母さぁん!!助けてぇ!!」って言ってたよな……ということはやっぱりあれはただの夢じゃなくて本当のことだったんじゃ……そんなことを思っていた時だった、ふいに誰かが近づいてくる気配がしたのである。「やっと見つけたぞユウマ……!」聞き覚えのあるその声にハッと我に返るとすぐさま声がした方へと顔を向けた、するとそこにいたのはアリアさんだったのだ!(まさか俺を追いかけてここまできたのか?でも一体なんで……)訳が分からず呆然としていると、彼女はそのまま俺の目の前に立った。

その表情は今にも泣き出してしまいそうな程に辛そうなものだった、それを見て察した俺は無意識のうちに声をかけていた……「すみません、俺のせいでこんなことになってしまって……」そう言うと彼女は突然涙を流し始めてしまったのだ、そのことに驚くと共に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。何故ならあの時、もう少し慎重になっていれば彼女を危険な目に合わせずに済んだかもしれなかったのに……そう思ったからこそ謝罪の言葉を口にすることしか出来なかったのだ。

だが彼女は俺の考えとは裏腹に、泣きながらこう言ったのだ……「違うの……本当は私があなたと一緒に旅をしたかっただけ、ただそれだけなの」それを聞いた瞬間俺は唖然とした、何故なら彼女の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかったからである……だけど、よくよく考えてみると彼女だって普通の女性なのだ、だからこそ俺に想いを寄せてくれたのかもしれない、そう思った。……ならば、それに応えてあげなければならないのではないだろうか、そう思った俺はそっと彼女に歩み寄ると静かに抱きしめ優しく頭を撫でた。そしてそのまま暫くした後、お互いに見つめ合った後どちらからともなく唇を重ね合わせるのだった……。

(あれからもう1年が経つんだな……)あの出来事の後、俺とアリアさんは結婚することになった。結婚式自体は既に挙げていたのだが、新婚旅行という形で再び別の地へ訪れることとなったのだ。もちろん目的はただ一つであり、その目的地こそ俺が初めてこの世界に来た際に目にした町なのである。あの時はただ見ているだけだったが、今回はしっかりと自分の目で確かめるべく訪れることを決めたというわけだ。(それにしてもあの時のことを思い出すと恥ずかしい限りだな……なんせいきなり抱き着いてきちゃうんだもんな!)今となってはいい思い出の一つなのだが……まぁその話は一旦置いておこう、そんなことよりもこれから向かう場所のことを考えよう。(うーん……まず初めにやるべきことといえば何だろうな……? 取りあえずは宿を取っておくべきかな)そう結論付けた俺は早速行動に移ることにした。「すみませーん、この辺りに宿屋はありませんかー?」そして数分後、何とか目的の店を見つけることが出来た……その店で一番高い部屋を一泊で予約し、後は明日に備えるだけなのだが、その前に一つやらなければならないことがあった、それは『冒険者登録』だ!何故ならこれを行わないと依頼を受けられないというデメリットがあるからだった。だが、俺にはそんなものは必要無い……なぜなら……『冒険者』という存在は既に知っていたからだからだ。

(さて、いよいよ今日だ……)

あの日、あの世界で起きたことが現実だったと知った日から早一週間が経とうとしていた。……つまり今日、ようやくその一歩を踏み出せる日がやってきたということである。

そして今俺はとある広場にある掲示板の前に立っていた……そう、俺がこの場所にいる理由はたった一つしかない、それは冒険者登録を行うためであった。

何故なら俺はこの世界では最強の存在なのだから!……いやまぁ流石にそこまで自信満々にはなれないんだけどさ……だがそれも仕方ないことだろう、なんせここはゲームの中だったのだから……とはいえ、だからと言ってこのまま何もしない訳にはいかないので、意を決して一歩踏み出す。

「おい、お前! 一体何者なんだ! その制服、まさか『王立アルヴァンティア学園』の生徒なのか!? だったらその証拠を見せてもらおうか!」不意に聞こえてきたその言葉を耳にした瞬間、思わず耳を疑った……というのも、実はこの世界に存在する学校というのは一つしかなく、その名も『王立アルヴァンティア学園』という場所なのだ。

――では何故そのようなことを知っているのかと言えば話は簡単だ、何故なら俺もかつてそこに通っていた経験があるからだ! そしてこの質問を投げ掛けてきた人物が誰なのかについても既に予想はついていた、だからこそ俺は素直に答えることにしたのである。

「ええ、そうですよ。僕は以前そこの生徒でした」それを聞いた瞬間男は勝ち誇ったかのような表情を浮かべ、さらに続けた……「やはりそうだったか! いやぁ、実はこのギルドの職員として採用されることになったのはいいのだが……なにせ人員不足だったから心配していたんだよ、これで安心して仕事を進められるな!」そう言って喜ぶ男の名は『サネマサ』といって、このギルドの責任者であるらしい……そんな人物に対し、改めて名乗ることにしたのだった……

2.それから程なくして俺はようやく冒険者としての手続きを終えることができた、と言っても簡単な書類にサインをしただけで、他に特別なことをするわけでもなく終わったわけだが……まぁとにかく、晴れて俺は正式に冒険者になれたのである。「それではこちらがユウマさんの身分証明書となります」そう言いながら受付嬢から渡されたのは名前だけが書かれた簡素なカードだった。(そういえば昔読んだラノベにも似たようなやつがあったな……名前は違った気がするけど)そう思いながら手渡されたカードをマジマジと見つめていると受付嬢が少し不安げな声で話しかけてきた。「えっと……大丈夫ですか?」「あっ、はい!大丈夫です!」その言葉に我に返った俺は慌てて返事をする、それを見た彼女は安堵した様子でこう言ってきた。「それなら良かったです、ですがどうかお気を付けてくださいね?何せ今の時代は平和になったといっても魔獣が全く現れなくなったわけではありませんからね」それを聞いて思い出したのだが……そもそもの話、今の俺の装備は初期の初期……言ってしまえば初心者用の装備一式なのだ、それに気付いた時は思わず苦笑いを浮かべてしまった、(まぁ当然か、レベル1なんだからな)そんなことを思いながら辺りを見渡してみると、なるほど……たしかに多くの人たちが武装して出発の準備を行っているようだ、(しかし……どうして皆んな同じ剣を持っているんだ……?)気になった俺はそのことを聞いてみることにした。「あの、どうしてみんな剣を腰に下げてるんですか? 魔法を使ったりはしないんですか……?」すると彼女は不思議そうな顔をしながら答えてくれた。「あらっ、ご存知ありませんでしたか?確かに魔法使いの中には杖を持って戦われる方もいらっしゃいますが、大半の方が剣や斧などの近接武器を使うんですよ?」そんな彼女の言葉を聞いて俺は思った……ということはこの世界の人達も基本的には剣を使って戦うということなのだろう、だからこそ誰も彼もが同じ剣を持っているに違いないと確信したわけだ。

それからしばらくして準備が整った俺達はギルドを出て依頼をこなすべく町の外へと向かった、その際に道すがら色々と話を聞くことができたのでとても助かったことは言うまでもないだろう。例えば冒険者にはランクというものがあるらしく、それによって受けられる依頼が違うとのこと……さらに言うと俺達が受けようとしている依頼もその基準に達している為問題なく達成することが出来るらしいのだ。ちなみにランクを上げる方法は簡単である、依頼をこなしていく中でどれだけの成果を挙げたかによって変わるようで、一番下のEランクの場合は一度に10個以上の依頼を達成することで上がっていくらしい。因みにDランクに上がる為には更に倍の20個をこなさないといけないらしく、これはCランクも同じなのだとか……つまりFランクから上に上がるのはかなり大変というわけなのだが……それでも上を目指して頑張ってみようと思う。

そんなことを考えている内にいつの間にか森の入口へと到着していた。「皆さん準備はよろしいですか?」その言葉を聞いた俺達は同時に頷いた後、各々森の中へ足を踏み入れたのだった……だがこの時はまだ知る由もなかった、この選択が俺の人生を大きく変えることになるということを── ◇◆◇◆◇ 一方その頃王都ではある異変が起こっていた。そのことを知らせるべく国王の元へと向かう一人の女性の姿がそこにあった、そう彼女こそがユウマの幼馴染にして、元最強の勇者パーティーに所属していた戦士『アリア・アーシャベル』その人であった……!「失礼します……!」「おお、アリアか!それでどうだったんだ、見つかったのか!?」「……いいえ……」「何!?ではどこにいったというのだ、ユウマのやつは!!」国王の問いに下を向いたまま何も答えようとしないアリア、その様子を見て嫌な予感を感じ取った彼は声を荒げながら再び問い掛ける……「まさか見つからなかったなどと言うまいな!?」するとアリアは静かに口を開いた。「……見つかりませんでした……」彼女の口から出た言葉を聞き愕然とした表情を浮かべた国王だったが、やがて諦めたような表情を浮かべると言った。「そうか……もうよい、お前は下がって休んでおれ」その言葉を聞いたアリアは無言で一礼した後部屋をあとにしようとしたのだが……その瞬間「待ってください!」と背後から声が聞こえてきたのだ。

その声に驚いた二人は咄嗟に振り返る、そこにいたのは先程部屋から飛び出していった王女でありアリアの妹でもある『アリアナ・リェインクルト』その人だった。

「どうした、何か言いたいことがあるのか?」その問いかけに頷く彼女……それを見て首を傾げた国王は先を促すように言葉をかける。「何だ、言ってみろ」「あの、私さっきお父様とお母様のお話を聞いたのですが……どうしても納得できなくて……だっておかしいと思いませんか!?いきなり現れた人のことをこんなにも簡単に信じるなんて……!」そこで一旦言葉を区切った彼女は、続けて言った。「あの人はきっと何かを企んでいるに違いありません!もしかしたらこの国を乗っ取るつもりなのかもしれないんですよ!」だが、その言葉を聞いても二人の態度は変わらないどころかむしろ呆れたように溜息を吐かれた。

「何を言い出すかと思えば……そんなことあるはずがなかろう、あいつはこの国の国民だ。それをわざわざ追い出すような真似はせぬよ、少なくとも我はな」「私も同じ意見です、いくら可愛い妹とはいえ、私の夫となる人に対して失礼ではないかしら?それに仮にその考えが本当だったとしたら、私が気付かない筈が無いでしょう?」そう答えた二人を見て反論の余地を無くしてしまったアリアナは、結局口を噤むしかなかった……なぜなら、自分の両親こそがこの国で一番強いと言われているのだから尚更である……

3.冒険者となって一週間が経過した頃、遂にこの日がやってきたのだった!それはすなわち、冒険者として最初の仕事があるということだ。というわけで俺は今冒険者ギルドへ向かっているのだが、何故かいつもとは雰囲気の違う場所までやって来てしまっていた。(なんでよりにもよってこんなところに……?)というのも俺が向かおうとしていた場所には『始まりの森』という場所があるらしく、そこには初心者向けの魔物しかいないことから新人の駆け出し冒険者たちが良く訪れる場所なんだそうだ……だが、俺からすればそんなの関係ない、何故なら俺の実力は既にベテラン並みなのだから。

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